[まとめ]小児の麻疹(はしか)
こちらの記事では、小児の麻疹(はしか)の原因、症状、感染性、合併症、予防接種の有効性についてまとめました
◆ 麻疹(はしか)の原因と症状
麻疹は、麻疹ウイルスが鼻や喉の粘膜上皮に感染することで生じます 麻疹ウイルスに感染すると1週間前後の潜伏期間の後、 ・発熱(39°C〜40.5°C) ・咳、鼻汁、眼球の結膜炎 とともに始まります(カタル期) 2〜4日後に発疹が出現し、現れた場所から消退していく傾向にあります
◆ 麻疹(はしか)の感染性
麻疹は呼吸経路によって伝播し、非常に感染力が強いです 発疹が出現する3日前が最も感染力が高く、(予防接種を受けていない)家庭内の接触者の75%~90%が発症すると言われています
◆ 麻疹(はしか)の合併症 ①:頻度の多いもの
麻疹は約30%の症例で合併症を起こし、下痢(8.2%)、中耳炎(7.3%)、肺炎(5.9%)、脳炎(0.1%)が代表例です 5歳未満は、下痢11.5%、中耳炎14%、肺炎8.6%、脳炎0.2%とされ、肺炎や胃腸炎に伴う脱水が入院の原因として多いことが知られています (J Infect Dis. 2004;189 Suppl 1:S4-16.)
◆ 麻疹(はしか)の合併症 ②:熱性けいれん
過去の調査によると、麻疹にかかった子供の0.1%~2.3%で熱性けいれんが発生します 熱性けいれんのリスクが最も高いのは1歳代で、年齢が上がるにつれてリスクは下がる傾向にあります (BMJ. 1964;2:75-78.)
◆ 麻疹(はしか)の合併症 ③:麻疹性クループ
乳幼児が麻疹を発症した場合に麻疹性クループを合併することがあります 米国で行われた調査によると、入院した麻疹の小児の9%〜32%に見られ、大半は2歳未満でした 黄色ブドウ球菌やα溶血性連鎖球菌が培養で検出されることも多いようです (J Pediatr. 1992;121:511-515)
◆ 麻疹(はしか)の合併症④:結膜炎
麻疹のほとんどの人に結膜炎・角膜炎が出ます 栄養状態が良好な人では、通常、残存するダメージなしに治癒します
しかし、二次的な細菌感染や他のウイルス感染が永久的な瘢痕や失明を引き起こすことがあり、特にビタミンA不足は失明のリスクが高いと報告されています
◆ 麻疹(はしか)の合併症⑤:感染後脳脊髄炎
感染後脳脊髄炎(Postinfectious encephalitis [PIE])は、発疹の出現後3〜10日の間に、1000人中13人の割合で発生します
PIEは、学童よりも、思春期や成人の方が、発症率が高いことが示されています
最大25%が死亡し、約33%は神経学的後遺症を持つことが知られています
◆ 麻疹(はしか)の合併症⑥:亜急性硬化性全脳炎
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、ウイルスが数年間中枢神経に持続し、ゆっくりと進行します
初期は学業の成績低下や行動障害で「精神的な問題」として誤診されることも多いようですミオクロニー痙攣が発症し、検査等で診断されることが多いです 頻度はかなり稀で、100万〜850万人に1人という推定があります
◆ 麻疹(はしか)の症例致死率
麻疹にかかった人で死亡してしまうリスクは、高所得国では0.01%~0.1%と低いですが、低所得国では3%~30%と非常に高いです 肺炎の重症化が最も多い死因で、麻疹による全死亡数の56%~86%が肺炎と考えられています (Int J Epidemiol. 2009;38:192-20)
◆ 麻疹(はしか)と予防接種
麻疹ワクチンの予防接種は世界中で行われており、2019年の時点で194か国中169か国(87%)が2回の定期接種を導入しています 予防接種のカバー率は2000年時点の72%から、2017年に85%まで向上し、麻疹による死亡者数は83%減少したと報告されています
◆ 小児への麻疹ワクチンの有効性
小児への麻疹ワクチンの有効性を検討したランダム化比較試験は、英国のMRCから複数回報告されています 1964年8月に英国の32ヶ所、約3万6000人の生後10ヶ月〜2歳を対象にした大規模な試験です 追跡した12年間では予防接種をしたグループの感染予防効果は94%でした
◆ 小児への麻疹ワクチンの有効性:SR&MA
2021年にコクランデータベースから報告されたシステマティックレビューとメタ解析(SR&MA)によると、 ・2回接種の有効性は96% と報告されています (Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD004407)
◆ 麻疹ワクチンの家庭内の二次感染予防
麻疹ワクチンが家庭内での二次感染を予防する効果も報告されています 予防接種なしの場合50.8%が家庭内で二次感染を起こすという非常に感染率の高い設定での予防効果は、 ・1回の接種で81% ・2回の接種で85% と報告されています
◆ 麻疹ワクチンの費用対効果
麻疹ワクチンは、最も費用対効果の高い公衆衛生介入の一つです アメリカの推定では、ワクチンがなければ、毎年500万人の子供が麻疹で死亡することになります また、麻疹治療の費用は年間約22億ドル、間接コストはさらに16億ドル増加すると推定されてます
◆ 途上国における麻疹ワクチン
バングラデシュでは、麻疹のワクチン接種が全体の死亡率を36%減少させ、麻疹による下痢、呼吸器疾患、または栄養失調に直接起因する死亡率を57%減少させた、とする報告があります 先進国でも途上国でも麻疹ワクチンの有効性が認められています (Am J Epidemiol, 1988;128:1330-1339)