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The story of a band ~#14 理想と現実と~
8月24日。日曜日の朝は、晴天に恵まれた。
しかし、夏の暑さは一向に収まる気配がしない。年々気温が上昇し、地球温暖化のせいなのかは分からないが、とにかく暑い。
今日は、待ちに待ったライブ当日。開場は16:00。開演は16:30となっていた。
チケットノルマは、各バンド15枚。前売り1000円。当日券1500円。各バンドのノルマは、15000円。
チケットは、10人以上のお客さんで、ノルマ分の代金を差し引いて、バンド側に支払われることになる。
ライブハウスでは、入場券の他に、ドリンク代1杯500円を別途徴収される。ライブハウス側もビジネスである以上、バンドのノルマ代やチケット代は重要な経営資金となるのである。
各メンバーは練習以外にも、集客のために、自分の友人・知人に声をかけ続けていた。
ライブ前日。
5人は電話で状況を確認し合った。
その反応は、次のような反応に分類された。
「へえ、そうなんだ!すごいね!・・でも、この日予定が入ってて行けないや。ごめん。次も誘ってよ。」
予定が入っている人。たぶん、次も無理なことが多い。
「分かったよ。行けたら行くね。」
こういう返事の人はまちがいなく来ない。
「日曜日かあ。う~ん、仕事に影響するからなあ。」
日曜日という壁はやはり大きい。どうしても次の日の仕事が頭をよぎる。
「秋田市のライブハウス?遠くね?」
県南から来させるには、長い距離だし、とてもハンディがある。
「どんなバンド?ミスチルみたいのだったら行きたいな。」
好みの問題。
「ライブハウスって初めてだから一人じゃちょっとな。誰かと一緒だったらいいんだけどな。」
ライブハウスに対する不安。
「ライブかあ。昔はよく見たけど、今はあんまり興味ないんだよね。」
そもそもライブに興味がない。
「えっ?有名バンド出る?」
自分たちに興味がない。
結果報告を聞く度、誠司は大きなため息をつく。
「まあ、最初はこんなもんかあ。でも、お客さんゼロはさすがに・・・。」
集客は、バンドマンにとって最大の関心事だ。集客できる・できないとでは大きな差がある。そしてこのことを理解してはいるものの、なかなか実現できないバンドは数多く存在する。
時代の流行、土地柄、気候、個々人の置かれた状況など周りの環境のせいにすればこんなに楽なことはない。しかし、多くのバンドは、自分たちに原因のベクトルを向ける。
「売れたい。」
「じゃあ、売れるためにはどうすればいいのか。」
みんなが悩み、壁にぶち当たる。いい楽曲をつくり、提供しなければと思う。だから、練習に練習を重ねる。
それでも、集客は増えない。
つまり、バンド練習の努力とは別に、集客努力も必要なのだ。
多くの実力あるバンドが、ライブをやる度に疲弊していく。自腹のチケットノルマの負担は大きくのしかかっていく。
そして、解散という道を選ぶことも。
有名バンドは、そうしたバンド達がほしがるピラミッドの頂点の世界にいる。しかし、わずか1割にすら満たない数である。
誠司も仁志も、そのことを今河から聞かされており、十分に理解していた。
テレビで紹介されているアーティストは、数いる多くのアーティストのほんの一握りに過ぎない。
しかし、メディアの力はすさまじく、まるで「この国では、その人達のやっている音楽がすべてである」と若年層に錯覚を起こさせるかのようだ。
dredkingzなど、誰も知らない。誰も知らないバンドを見るために、時間と労力をかけてライブを見に来る人などいないことは当然だった。
そうして迎えた今日。
待ち合わせ場所に集合した5人。
ジョンが言った。
「友人のアメリカ人と女2人が来てくれることになったよ。」
「おう!ありがたい!3人だけだけど、0よりはマシ!」
少し、気持ちが晴れやかになってきた。
「今日はこの3人のために、頑張りましょう!来てよかったと言って、帰ってもらえるように!」
5人は、3人と2人に分かれて車に分乗し、秋田市のライブハウスclub swindleに向かった。
リハーサルの時間は、猛暑が予想される14:00となっていた。
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