【霧雨家シリーズ:嘘】『過去からの追っ手』
こんなに苦しい思いをするくらいなら記憶なんてなくなればよかった。
「ーーーーーー」
うるせぇ
「ーーーーーー」
うるせぇうるせぇ
「ーーーーーー」
そんな風に『俺』を評価してんじゃねぇ
「ハッ!ハァッ!ハァッ!」
呼吸を乱しながら、彼は身を起こした。
目を開いたはずなのに周りは真っ暗、何も見えない状況である。
「起きたか、霧雨」
聞き覚えのある声が聞こえ、彼は声のした方向に視線を向ける。
「そっちじゃねぇ、コッチだコッチ」
人間とは思えないほどに体温の無い冷たい手が彼の髪に触れた。
その手を握り自身の頬に当て「師匠…」と安堵の声を漏らした。
「おぅ、お前の大好きな師匠ことネロだぜ」
「別に大好きってわけでも無いですけど」
「チームリーダーなのにベタベタ触れてくる奴だ〜れだ?」
ネロはニマニマとしながら霧雨に向かって言った、対する彼は顔を真っ赤にしながら視線を下に落とした。
それよりも、気になるのはこの状況である。
「それより、私の目どうなってるんですか?さっきから何も見えないんですが?」
「先の奇襲作戦、その際に財団職員連中による反撃に遭って一時的に目が見えなくなってるんんだ最悪の事態を想定して、半面の中に義眼を組み込むことも考えたが…お前はどうする?その状態では作戦を続けることは不可能だぞ」
「ふむ……」
霧雨は少し考えてから、口を開いた。
「ちなみに今、玲音さんたちは何処にいるんですか?」
「手分けして食糧確保に行っている、いよいよ飯が底を尽きたらお前ら人間は死んじまうからな」
「そうですか、では私の眼が治るまでは待機もしくは食料確保を続けましょう陽の円卓も私の視力を奪ったことを考えると向こうも私達が攻撃を仕掛けない限りは動くことはないでしょう」
「ま、確実とは言えないがそうなるな『俺たちが動けば対策として向こうが動く』至極当然のことだが恐らく向こうは朝灯に対する警戒を強めるだろう」
「その時はその時です、そういうことが起きても大丈夫なように複数のアジトを確保したりしたんでしょう」
「それもそうだな」
そう言うとネロは霧雨の頭を撫でた。
「師匠」
「んー?なんだ?」
「頭撫でるのやめてください」
「ただでさえ目見えないんだから、我慢しろそれにしばらくは俺がお世話してやるよ」
霧雨は少しため息をつきながら「そう言えば師匠は元いた世界では高等吸血鬼の従者なんでしたね」と言った。
「まぁな、そう言うわけだから俺が世話係に任命されたってわけだ」
「そうですか、じゃぁ…しばらくの間よろしくお願いします」
「おぅ、そういやさっきまで随分とうなされていたな悪夢でも見たか?」
霧雨は口を噤んだ、さっきまで見ていた夢のことを誰かに話したくはなかった。
「なんでもないですよ、少し昔の夢を見ていただけです」
「そうか…なら、無理に話さなくて良いうなされるほど嫌な思いしたのなら尚のことだ」
(師匠、私に優しくしないでくださいよ 今にも泣き出しそうなくらいに心が痛いです……嗚呼でも、このまま戦いが終わらなければいいのに例え終わってしまっても元の世界に戻れない結末が訪れればいいのに)
霧雨は、ネロの胸に頭を押し当てて深く呼吸をした。