文アル沼から大阪食べ歩きに飛んだ話
1.文アルと織田作と食欲
8月初頭。
人様のX(Twitter)の画像欄で見かけたキャラクターに目を惹かれ、そのキャラがあのクトゥルフ神話の創始者、ラヴクラフトがモチーフだと判明した瞬間、文アル沼に犬神家ポーズで沼ってました。
「文豪とアルケミスト」。
約6年続いているDMMゲーとの唐突な出会いでした。
近代の文豪・作家(とその著書)のイメージを持ち合わせた育成キャラゲーということで、知っている好きな作家もちらほらいることもあり、気になるキャラをかたっぱしから触っているうちに1ヵ月経過。
ラヴクラフトを確認したら終わるつもりがしっかり遊び倒してました。
本記事ではその実在した作家のうちの一人、オダサクこと「織田作之助」についてピックアップしてお話します。
織田作之助については、私自身もゲームを始めるまで作品どころか作家名も存じ上げないところからの出会いでした。
興味を持ったきっかけも、最初は中の人(声優さん)と大阪弁という点でしたが、徐々に調べたり、作品を読んだりするうちに作家本人への興味がわきました。
そんな彼の印象強い点は、なんといっても根強い飲食のエピソード。
例えばゲーム内で何度も上がってくるカレー好きの話。
ことあるごとにプレイヤーに「カレー食べに行かへん?」と問いかけたり、「卵とカレーを混ぜて~」という独特な食べ方の話を披露してくれます。
これは大阪に現存する「自由軒」の混ぜカレーを本人が好んで食べたという逸話から来ています。
予めルーとご飯を混ぜ炒めた、辛口のドライカレーの上から、生卵とソースを混ぜて食べるというものでした。
あまりの好きっぷりに何度も通ったどころか、店に「トラは死んで皮をのこす、織田作死んでカレーライスをのこす」という言葉を残したほど。
織田作之助を倒したら「カレー」が固定アイテムでドロップするみたいな、そんなイメージが浮かびやすいこの言葉が面白くて好きです。
飲食エピソードのもう一つに、「夫婦善哉」というものがあります。
こちらも大阪に実在する、同名のお店の看板商品。一人分を注文すると、同じお膳が2つセットで出されるのが特徴です。
織田作之助は出世作の短編小説、『夫婦善哉』にて、キーアイテムとして取り上げ、喧嘩しながらもなんだかんだで離れられない夫婦を、この善哉になぞらえてラストを印象的に描いています。
作品自体は、読み手が最後まで救いようのない旦那を許せるかどうかで読む人を選びがちではありますが、作品が書かれた戦前当時の大阪の空気感が味わえたり、夫婦善哉を絡めたオチが綺麗な終わり方をしているので私は好きです。
※作品は青空文庫でネット上で読めます!→『夫婦善哉』
織田作之助作品の作中には飲食シーンが何度か挿入されていて、それがまたおいしそうに描かれるのが、読んでいて面白い点でした。
どれも簡潔な文なのに食欲をそそるのはなぜなのか。
読んでいて小腹が減ってくる小説は、私の中では前例がなかったのも衝撃でしたし、惹かれるままにカレーに生卵をのせて食べる真似をしばらく続けていました。
「自由軒」のカレーだけでもそのうち本物食べて見たいね~
という気持ちだけがほんのりと湧いていました。
2.大阪おのぼり
そんな中、9月初旬。
偶然が重ねに重なって、なんと1日大阪観光の話が決定。
しかもメインの行先はちょうど、「自由軒」と「夫婦善哉」のある難波。
これとない大チャンス。乗るしかない。このビッグウェーブに。
当方は戦国沼にも潜伏しているので、せっかくの機会ということで両方の沼のルートを組みました。
①真田幸村ゆかりの真田丸跡
↓
②織田作之助墓所・楞厳寺(りょうごんじ)
↓
③大阪城を目指しながら細川家屋敷跡・石田三成屋敷跡周辺を散策
↓
④大阪城
↓
⑤難波(「自由軒」「夫婦善哉」)
なんと①から④までの徒歩移動時間だけでも1時間掛かってるという、壮大な散歩ルートになっていますが、何が何でも史跡は歩いて見たいというオタク魂故に決行。
普段の観光から先人・偉人の史跡か墓参りしかしていないので、いつも通りといえばいつも通りの組み方です。脚はもれなくしぬ。
ここでは織田作之助だけに絞るので、関連の場所のみご紹介します。
戦国観光の写真はX(twitter)にも載せてますので、ご興味があれば探してみてください。
元気があれば戦国版もそのうち。そのうち…?
3.織田作之助墓所
飲食店に行くには開店時間にはすぎるので、先にお墓詣りの方をしていました。
入ってすぐに墓所がぽつんと立っていました。
お寺のお隣が高津高校ということもあって、時折学校からかすかに聞こえてくる吹奏楽部の「学園天国」を聞きながら礼拝。
小説作中で大阪のことを「下町感あふれる風情~」みたいなことを描いていて、わちゃわちゃした感じが好きが好きな印象を受けましたが、こちらの墓所はメイン通りは外れた、学校街に囲まれた静かな場所に立っていて雰囲気の良い場所でした。
ちょうどお彼岸の季節ごろにお会いできてよかったです。
4.「夫婦善哉」の善哉
真田丸跡から大阪城へと1時間かけて歩いた後、すでに歩行距離1万歩越えしたぼろぼろの脚で、「夫婦善哉」のお店にたどり着きました。
先に「自由軒」に寄ってもよかったのですが、混ぜカレーを旅の大トリにしたかったので、まずは「夫婦善哉」からトライ。
炎天下の中、大汗をかきながら来たので、冷製の夫婦善哉や、栗入りの夫婦善哉にも惹かれましたが、とりあえずはスタンダードなものを食べようと、温かい夫婦善哉を注文。
大ぶりの小豆を用いた、丁度いいやさしい甘さの善哉が、疲れた体と胃にじんわりと沁みました。
丹波小豆使用とあったので、ああ明智光秀の国からの小豆だ~!と少し戦国寄りの思考になりながらも完食。
塩昆布も善哉二杯目と合わせて食べると、塩気が善哉の甘さを引き出して、甘じょっぱいいい味変になりました。
お店を出たころには4時になっていて、ちょうど法善寺の提灯のライトアップに会えました。お店とお寺両方とも大変居心地がよく、結構長居していました。
5.「自由軒」の混ぜカレー
マップをみながらたぶんここかな~~とうろうろしてたら、商店街の道途中にありました。
周辺が福岡の中州商店街と同じ雰囲気がするので、初めて来たのに初めてじゃないような感覚が不思議な気分。先に挙げた織田作之助の「下町感~」の感覚がなんとなくわかった気がします。
ご飯の時間帯をぎりぎり外れていたので、店内は空いてました。
混ぜカレー自体が辛口と聞いていたので、興味本位でまず混ぜていない状態で一口。じんわりとくる辛さがあります。そのまま食べ続けていたら水が足りないくらいの感覚です。(辛さに弱い人間の個人感想)
早速上の卵を混ぜて、最初はソース無しでいざ実食。
辛口めのカレーを卵がカバーするので、ゆるやかに辛さが緩和されてておいしい! まだ辛さはあるものの、すいすい食べてしまいました。
ソースをかけて混ぜると、こちらはソースが甘めなので甘辛口のカレーに変化。おもしろい味変化にこちらもスプーンがスピードアップ。あまりのおいしさにいつのまにか完食してました。
混ぜ方によって3段階に分けて味が変わるのが衝撃的なおもしろいカレーでした。でもやっぱりソースまでしっかり混ぜた味が一番おいしいです。レッツまぶし。
本物を食べることができてよかった………ありがとうありがとう……
6.作中登場のごはんを食べること
織田作之助に限らず、小説でもなんでも料理をおいしそうに描写するのが上手な作家・作品はたくさんありますが、その中でも
「自分もこれをたべたい!」
「現地にしかないここの料理を食べたい!」
という衝動を実際に突き動かす作品は稀な気がします。
特に2段目は高難易度でしょう。
今回はそれが織田作之助作品だったのと、大阪で食べることができるという条件が合わさっての実現だったので、運の相乗効果が起こった状態ではありましたが、とても楽しい経験ができました。
また機会があれば再び食べに行きたいです。
善哉と混ぜカレーは本当に美味しかった………