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Freedom Custom Guitar Sp.Parts Stainless FRET

なぜか楽器屋さんが売れてしまった楽器を SOLD OUT と表記されている場面を昔からよく目にします。沢山の在庫があるはずもないヴィンテージものなどは特に、一点物に対しては単に SOLD で良いはずなんですが。

Gibson L6-S 又は L-6S の詳しいことは諸先輩にお任せするとして、 調べてみると L6 Midnight Special は、1973~1979年の間に2,000本程度の製造だったようです。当時カタログや価格表に掲載されたり、広告が打たれることはなかったとのこと。

本体のシリアルナンバーからは製造年の判別が困難であったのですが、KISS の PAUL STANLEY が 1975年にMidnight Special TV Show でプレイする企画に合わせて前年から製造が始まり、このスパークルバージョンは160本程度だったとされる説があり、ポットのシリアルナンバーの一部が1975年製造を示していることから、1975年製の線が濃厚です。

やはり目を惹くのはボディカラー。SG モデルなどに採用された、Gibson Cherry とは明らかに違う青みの強い Wine Red で、さらにラメ剤が散りばめられています。
照明の当たり方によっては様々な色に美しくきらめき、腕の確かなカメラマンが撮影すればかなり映えると思います。サイドポジションマークもワインレッド素材です。

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薄いボディに、このカットがある事で SG のような抱き心地のギターです。

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24フレット、メイプルネック&ボディ。ギブソンのバジェットブランドである Kalamazoo で採用していたボルトオンネック構造を用いていますが、ネックプレートは Marauder に採用されたものと同様のようで、4点のスクリューの間隔はヘッド側がわずかに狭くなっています。

今回はフレット交換をメインに、各部メンテナンスのご依頼いただきました。いわゆるネック起きが確認できたため、セオリー通りの修理を考えると指板整形研磨をすべき場面と判断できます。しかしながらオーナーからの依頼はルックスを変えずにフレット交換。貼り指板は削るためにある、その視点ももちろん理解します。ですが一点物と呼べる楽器を削るという行為は余程のことがない限り避けたいと個人的には考えています。時間も工賃もかかってしまう“後からレリック”は不可です。

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トラスロッドを締め切っても順反り状態は解消できなかったため、スペーサーをかまして限りなくストレートを目指します。ナットはブラス製に交換されていましたが、このタイミングで Tusq に変更させていただきます。トラスロッドカバーのスクリューの穴が、かなり際どい位置に開けられていました。

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ネックはスリーピースで R12 メイプル指板、中央にトラスロッドの溝の蓋と思われる部分も確認できます。

この時代はフレット打ちにエポキシ系接着剤を使用していたようで、溝内にその存在が確認できました。擦り合わせは、ギブソンスケールの24フレットという条件に加え、指板を削っていませんので一筋縄ではいきません。ご存知のように、フレット交換はフレットを新品に打ち換えて終わり、という修理ではありません。

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ネックを外して驚いたのが、このネックポケット構造。真鍮と思われる材質の金網が低音弦側に入っています。セットネック用の溝を埋めた痕跡がありますので、元々セットネック用に削り出したボディーであると想像できます。

先に述べた、カタログや価格表に掲載されなかった部分とのつながりを感じてしまいますが、この方式を採用するに至った真相は謎です。さすがに国内では売れないから輸出に回したんだろうなとか考えだしたらキリがありません。

大音量時代にフィードバックしすぎるのを抑えるためか。加工に失敗したボディーを廃棄しないためのボルトオンネック化だったのか。金網を使用することでわずかに木部に食い込み、ネックをボディにセットする際のズレ防止にもなっています。

正直に申し上げると、角度をつけたシムを作製し面接触を目指したいところですが、出音が魅力ある仕上がりになっているだけに、これは常識や思い込みを覆す衝撃でした。

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ピックアップは Bill Lawrence によるスーパーハムバッカー 。ポールピースの露出がないクロムミラーのようなクールなピックアップ。ピックアップリングは弦に対してピックアップが斜めに向かうタイプとなっています。

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セラミックバーマグネットが3本使用されており、広い磁場で弦の動きを捕らえる設計で開発が進められていたことが伺われます。

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直流抵抗値を測るとネックピックアップがわずかに低く設定されておりましたが誤差の範疇かもしれません。

様々な資料を参照すると、当時はハムノイズのないシングルコイルのサウンドを目指していたとされ、確かに広い磁場を持つ P-90 の雰囲気も感じ、センターポジションのミックスサウンドは、かなり気持ち良いと感じます。

キャパシターはセラミック ②Z5U .02μf 100V。トーン全閉の音がまた美味しいので、アンプをうまいことセッティングし、トーンを積極的に使いたいギター。あくまでもイメージですが、誤解を恐れずに言えば、全開でシングルコイルトーン、Teisco の Gold Foil に似た雰囲気、全閉でハムバッカートーン、歪ませれば Santana っぽい雰囲気で、バンドアンサンブルでの音抜けに問題なければ、どちらも使い勝手の良さそうなサウンドです。

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ストリングフェラルをボディトップ側に配置、保護し、ブリッジとの距離を弦毎に変えた弦裏通しの構造は、ボディの伝達性と弦のテンション感を考慮したギブソンらしさを感じます。

Schaller Wide Range tune-o-matic Bridge、通称ハーモニカブリッジ。メカニカルなルックスは、当時の男の子の心をくすぐったのではないでしょうか。製造時にブリッジを斜めに設計する必要がなく、様々な弦のゲージに対応でき、当時の工程上発生してしまう可能性のあった木工加工や接着のわずかなズレにも対応可能で、時代背景も加え生産性向上にもつながる「当時としては」画期的な製品だったと想像します。

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Made i W.Germany 。西ドイツ産と刻印されているところに歴史を感じます。
スタッドにブラスを使用しているため、耐久性が低く、スロットの角が潰れてしまっている個体はよく見かけます。ネジの目も粗めのものが採用されているので、スロットにバッチリ合う工具を使用しなければ高さの微調整が難しく感じます。

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ブリッジの高さ調整は面倒でもある程度弦を緩めてから調整すべきと感じます。ネックの問題も抱えていますので、高さの微調整が今後も必須と思われ、調整のしづらさはストレスになりますのでスロットの痛んだスタッドも交換します。
ここは純正に習えばニッケルメッキのものを採用すべきとは思いますが、今回は表面硬度が高く耐久性の向上が望めるクロムメッキのものを採用させていただきました。個人的にはスタッドがブラスである事は伝達性の面でも疑問を持っており、表面が硬い部品を使用する事でごく僅かにでも改善が望めればという思いもあります。

電装系や他の部品の話も始めると終わりが見えませんが、このギターからは、Paul Reed Smith が、なぜあのスケールやボディ厚を採用したのか、Bill Lawrence がどんな目線でスーパーハムバッカーを発展させていったのかなどを垣間見た気がします。
沢山の気づきや学びを頂戴しました。

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さて Freedom Custom Guitar Sp.Parts Stainless FRET です。
この WARM シリーズのフレットは、柔らかいステンレスとされています。素材としてのステンレスにはかなりの数の種類があり、フレット製造の為に新たな組成を採用するとはコスト面からも考えにくく SUS301あたりではないかと想像します。柔らかいとはいえステンレス、作業させていただいた感想は、“かってーなぁ”です。

さて、この L6 Midnight Special から抜いたオリジナルと思われるギブソンフレットは、実測で幅約2.75mm。今回は通称ジャンボフレットと呼ばれる類の SP-SF-08W を採用させていただきました。高さが増した状態での仕上げになるため、オーナーが今後違和感を感じるようであればすり合わせで対応可能です。
しかしながら演奏時に指が指板に触れにくいギターの弾きやすさという部分は、やはり格別なんです。

ギターをはじめようと思う方々にこそ、高めのフレットのギターを選択していただきたいと個人的には思います。フレットが低いと指板に指が当たってしまうために、ついつい強く押さえがちになる可能性があるため、弦を押さえる適切な力を体得することに時間がかかりがちです。例えば、爪をもっと切らなきゃ!指の関節がもっと細ければ、きれいに鳴ったのに!などなどという場面もおさらばです。

以前、このフレットが打たれたギターを初めて直に触らせていただく機会に恵まれ、一触惚れでした。フリーダム製のテレキャスタースタイルのギターで、レリック加工の施された、音についてもヴィンテージ感溢れる素晴らしいギターでした。

ならではのサステインはそのままに、それまでのステンレスフレットのイメージだった音色としてのギラつきといったものは感じず、フレットを仕上げた後のツルツル感、そしてそれが環境の影響を受ける事も少なく、表面の滑らかさが持続する。放置されたニッケルフレットの酸化膜といったら、結構なストレスです。

弦振動が持続して、スムースなベンディングとヴィブラートが可能な事は、演奏時の重大な要素である“リラックス”にもつながり、特筆すべきはヴィブラートし続けて音がだんだんと小さくなっていく音の消え方。弦の響きからフレット擦れ音に変わる時のその滑らかさが、弾いていてなんとも気持ち良い。

フレット交換をするとギターの価値が下がる。この価値観は残念ながら存在しますが、長く付き合いたいギターに出会った時、フレットを何度も交換するような機会こそ避けるべきで、それには耐久性能が必要になってきます。そしてそれに伴う音質変化は最小限に抑える必要があります。

私達の日本の先輩がこんなにも素晴らしい製品を作ってくださいました。発注元、製造元の方々には感謝しかありません。それを容易に手に入れることのできる環境に私達は暮らしています。

ご協力いただきました、このギターのオーナに感謝申し上げます。最後まで閲覧いただき、ありがとうございました。Pōmaikaʻi

※ 当記事の内容につきまして、あくまで筆者独自の視点から執筆された内容であり、できる限り正確性等を保つため最大限の努力をしておりますが、執筆及び編集時において参照する情報の変化や実体験により、誤りや内容が古くなっている場合があります。
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