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3M™ Adhesive Transfer Sheet 467MP

21世紀から、つまりは2000年以降(正直なところ調べがついていません) Martin も Gibson も一部のアコースティックギターのピックガードの素材を変更します。

Gibson は“フラバーガード”と呼ばれる、表面が弾力性のある素材に変更します。インターネット上にはその評価として、アジア人が入知恵したとか、トーンサッカーだとか、ネガティヴな事が結構書かれていますが、ピックガードの存在目的はピックなどからトップを守る事とデザイン性。新たに素材をギター市場に提案したという点で、個人的には評価のできる事だという認識です。

必ずしもピックガードの表面が硬質である必要性はなく、1960年頃から販売が始まった Gibson Hummingbird は弾き語りプレイヤー向けの製品だったようです。ゴルペ奏法をする演奏者は他のギターを選択するかもしれません。

分厚い存在感、印刷がピックガード内部に施されており、弾き込むほどに絵が消えていく問題は解消、特筆すべきは凹み傷がついても消える。つまりは美しさが保たれる。日本では自己修復塗料と呼ばれているものと同等のウレタン樹脂系の素材であると思われ、そして原材料コストもそれなりに抑えられたのでは。これはかなりの費用対効果を生んでいると思われます。

しかしながらこのピックガード、保管状況にもよりますが、割と早い段階で反っちゃって浮いてきちゃいます。

現行品は接着素材の変更などがされているかとは思いますが、特にハミングバードなどは一部が弦の下に深く潜っているため、弦に当たってしまって演奏に支障をきたします。

剥がしてみると、ギターの保管状況にもよりますが、ボディ側の塗装面に糊が残る事もなくキレイに剥がれました。

端から接着素材を剥がしていくと、それなりに時間がかかるものの、これまたキレイに剥がれていきます。

なぜこんなにも後処置のしやすい接着素材を選択したのでしょうか。製造段階では経年変化の試験までは行わなかったのか、反ってしまうことはわかっていたが、最適な接着素材が見つからなかったのか。存在していてもコストが見合わなかったのか。それとも販売後にこういう修理仕事が生まれる事も見込んでいたのか。

とにかくまずは市場に放出して様々な状況下で使用していただいて、どう変化するのかといった様子を伺う消費者主導型の雰囲気を感じますが、お客様が楽器を持ってまたお店を訪れる、一定期間使われた楽器がまた戻ってくる。ここに意味がありそうですね。

裏面に印刷などの凹凸がなく、表とは感触が異なるため、2層(もしくはそれ以上)構造になっている事がわかります。

感触としては PVC のような素材。PVC といえばアコースティックギターのピックガード素材の一つとして昔から存在しています。この時点で、トーンサッカーとは言い切れないと私は考えます。

ガラス板で挟み、熱を加えたり冷やしたりで反りを矯正し、接着素材を貼り付ける準備をします。

反りを直す、しかし成形後の樹脂板材の反りを修正する事は難しい部類です。昔から反ってしまう可能性の高い樹脂板材に対してはプライ構造にするなど、様々な工夫がなされてきました。

定番ですが、選んだ接着素材はやはりこれです。3M™ 接着剤転写シート 467MP (粘着剤の種類は200MP)。高温下でも耐えうる接着剤として米国MILスペックにも合格しています。

通常のいわゆる両面テープの類は基材の両面に粘着剤(接着剤)を塗布した、構造としては3層になっていますが、この 467MP は、接着剤のみで構成され、厚みも0.05mm という、イメージとしては接着剤を板の裏に均一に塗布する事ができるという、作業をする人間からすると、こんなものがあったらいいな的な、ピックガードの裏に接着剤を均一に転写してくれるシートです。
さすが 3M 、作る側の都合よりも、使用する側を優先した視点や発想がとても尊敬できます。

平らになったからといって、放置しておくとまた反ってくるので、平らなうちに 467MP を貼り付け、わずかにはみ出すエッジの処理をし、再度ガラス板で挟み、ピックガードと接着剤を馴染ませます。

比較的剥がれやすい鋭角の部分はクランピングして圧着しました。その際、クランプの跡がピックガードについてしまった!のですが、しばらくすると元に戻りました。最高です。

Gibson Hummingbird Vintage Cherry Sunburst 、やはり目を引くHartford Snider 氏デザインのこのピックガードの存在感。この厚みとツヤ感が、やはり嬉しくなる要素の一つだと思います。

残念ながら彼は1991年7月4日にお亡くなりになられたそうですが、Gibson が新たな技術を導入した事によってそのデザインが摩耗から守られる事になった事も、なんだか素敵なお話な気がしています。

接着剤を平面に均一に塗布するにはロールコーターなど専門的な機械が必要になりそうですが、この 3M™ 接着剤転写シート 467MP、接着面に均一に接着剤を転写できるという点は素晴らしく、ピックガードに限らず、様々場所で使えそうです。是非ともお試しください。

ご協力いただきました、このギターのオーナーに感謝申し上げます。最後まで閲覧いただき、ありがとうございました。Pōmaikaʻi

※ 当記事の内容につきまして、あくまで筆者独自の視点から執筆された内容であり、できる限り正確性等を保つため最大限の努力をしておりますが、執筆及び編集時において参照する情報の変化や実体験により、誤りや内容が古くなっている場合があります。
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