Dimarzio PG-13™️ DP243
ミニハムバッカーを最初にデザインしたのは Epiphone であると言われています。 Gibson は、ジョニー・スミス、ファイアーバード、クリス・アイザックなど、Mini Humbucking Pickup をバリエーション展開させたそうです。
1957年に Gibson の親会社である Chicago Musical Instruments が 、Epiphone を買収した流れにおいて、Epiphone Sheraton には Mini Humbucking Pickup、Gibson ES-335には Gibson Humbucking Pickup といったように、ほぼ同じ設計のギターをブランド違いで販売する手法の中、Seth Lover も Mini Humbucking Pickup の開発に加わり、発展していったようです。
Gibson では1960年代半ばからギターの製造工程も大幅に見直されており、Seth Lover も1967年に Gibson を去ります。1968年に Gibson が発表した Les Paul Standard Reissue は Gold Top に P-90 搭載であったものの、1950年代半ばの設計に沿ったものであり、現代の評価は高いです。同時期の Les Paul Custom Reissue には Gibson Humbucking Pickup が搭載されていること等から、すでに在庫していた部品や素材を効率的に使用してギターを生産し、商品としても明確に差別化する必要性があると考えていたように感じます。
Chicago Musical Instruments が Ecuadorian Company Ltd. に吸収される事になり、いわゆるノーリン・ギブソンとなる流れの中、再発表された Les Paul model については1950年代半ばの設計に沿った物と新設計の物が混在しているようです。
ファーストロットだけ昔の工法で作って好評を得るなんてどうなの?と思いますが、Les Paul Standard Reissue の発表された1968年といえば、アメリカの財政収支が赤字となり、泥沼化するベトナム戦争、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア暗殺事件やロバート・ケネディ暗殺事件などの暗い話題、経済優先による環境破壊に対する懸念の高まり。アポロ8号 から地球を撮影した「地球の出」の写真が、人々の意識に大きな変化をもたらしたとされています。
こういった時代背景や経営状態からも贅沢に高級木材を使用することが困難であったことも想像され、当時、部品としての在庫が過剰気味であったとされる Epiphone mini Humbucking Pickup を P-90 サイズのピックアップルートに収まるよう、それまで別の用途であった部品を加工して流用する事で可能にし、無駄遣いを抑えながらも商売を成立させていく企業努力も感じます。そして1969年モデルのラインナップとして Les Paul Deluxe を加えました。
大きいヘッドやフタコブチューナー、ボディトップのカーブ形状、いわゆるパンケーキボディ等々のお話は諸先輩方にお任せするとして、今回はこの1969年 Les Paul Deluxe に搭載された Epiphone mini Humbucking Pickup をリプレイスメントピックアップと交換します。
オリジナルは経年変化による樹脂の収縮もあり得ると考えられるものの、ピックアップリングとクロムメッキカバーとの隙間が絶妙の仕上がりです。
ベースプレートにはパテントナンバーデカールが貼られていました。このマウント方式が独特です。リングの裏側の金型跡は P-90 のピックアップカバー (UC 452 B) にも見られます。
長年この Les Paul Deluxe を愛用するオーナーは、ネックピックアップの音色を特に気に入られており、一方でブリッジピックアップのサウンドには不満を感じておられました。ピックアップの高さやポールピースの調整をするもなかなかに難しいものがあり、ネックピックアップとの入れ替えも検討しましたが、ワイヤーの変更が必要になり、オリジナル性も限りなく保ちたいこういった場面では現実的ではありません。
このギターはブリッジピックアップの方が明らかに直流抵抗値が低いです。当時もおそらく巻き数で管理していたであろうコイル。これは誤差範囲と考えられていたのか、これが良いとされていたのか。はたまた当時の部品選別時には特に考えられていなかったのか。可能性を考え出したらキリがありません。
シールドワイヤーは2本網で長さも適正、最初からこの状態でありオリジナルが保たれていると考えるのが妥当でしょう。
内部配線は何度か手が入っているようですので、オリジナルかどうかはわかりませんが、キャパシターには、Cornell Dubilier TIGER CUB .015μf 400v が取り付けられていました。トーンのカーブも非常に滑らかで Epiphone mini Humbucking Pickup との相性は抜群です。
別のギターでピックアップ交換の経験のあるオーナーは、ご自身のトレードマークとされる Les Paul Deluxe にも新たなサウンドを吹き込みたいとブリッジピックアップの交換という決断をされました。
手元のボリュームを積極的に使うオーナーが今回選択しましたのは、大胆に出力アップされ、磁力も強く、価格も抑えられた Dimarzio PG-13™️ 。スペックとしてはヴィンテージとかけ離れていますが、ここをあえて変えてみるという漢気が、サウンド探求には近道な時もあります。
Dimarzio PG-13™️ のトーンガイドを見ると、高音域よりも中低音域が強めなバランスとなっているようです。これはブリッジピックアップでは美味しい結果が期待できそうです。ワックスポッティングされていることは現物を見て初めて確認できました。
マグネットはセラミック。2017年発表の最新と呼べるピックアップが、1969年の Les Paul Deluxe に搭載されるという、20世紀の固定概念を破る感じがなんともロックです。音色の変化はあれど出力の大きいものはそれを抑えられますが、小さいものはボリュームを上げようがそれまでです。
1960年代の Epiphone mini Humbucking Pickup と Gibson mini Humbucking Pickup のサイズが異なるのは、前述のような流れによるものと思われます。
Dimarzio PG-13™️ の方がオリジナルと比べてポールピースのピッチもわずかに広く、ニッケルカバーのサイズもわずかに大きく、角のRもわずかに小さい事がわかります。もちろんベースプレートの形状も異なります。
1969年 Les Paul Deluxe の P-90 サイズのピックアップルートには、P-90 のピックアップカバー (UC 452 B) であっても、スッキリと収まります。
Gibson P-90 カバー、1969年ピックアップリング共に内側の特徴的な形状が同じと言える見え方であり、初代 Les Paul Deluxe の Mini Humbucking Pickup リングは、P-90のピックアップカバーを加工したもの、という認識は間違いないでしょう。
オリジナルで P-90 のカバーを切削して Epiphone mini Humbucking Pickup 用リングを作成していたとすると、そもそも Gibson の樹脂パーツ外注先にも Deluxe 用リングの金型は存在しないと想像できます。
ミニハムバッカー用ピックアップリングは ALLPARTS®︎ などから最近まで販売されており(現在は各地販売店の在庫限りと思われます。)、それは残念ながら外寸がわずかに大きく 1969年 Les Paul Deluxe のピックアップルートには収まりません。内寸もわずかに大きくピックアップとの隙間が広く感じます。その為、このリングを採用するには加工が必要になります。
オリジナルとサイズが合わないとなると日本のコピーモデル隆盛時代が絡んでいるように思えてなりません。
この不合理を考慮し改善された Deluxe 用ピックアップリングキットも以前まで販売しているところがありましたが、現在は需要を満たしたのか、次回ロットの予定は今のところはないようです。
Wilkinson®︎ ブランドのものはマウント方式が違い、ルックス的にも今回は採用できません。
ここはオリジナルに習って P-90 のカバーを切削すべき場面ですが、今回は先程述べたサイズの合わない既製品を加工するという方法を選択しました。
加工を終えたリングはスッキリと収まりましたが、色調が違いすぎるため、ピックアップアッセンブリーを組む前に合わせていきます。
ピックアップの裏に残っているのは緑色のワックスです。マウント方式は、Dimarzio PG-13™️ のネジ穴を生かし、新たなマウント方法も検討しましたが、ここはやはり1969年 Les Paul Deluxe に習った方法でいくことにしました。ネジ穴は潔くブチ抜きます。そして別に用意したナットやスペーサーなどを使用してリングに留めます。
Dimarzio PG-13™️ のポールピース位置はオリジナルと比べてピッチが若干広いため、弦間隔との関係性も少しだけ改善されました。個人的にはこの点だけでもかなり意味があると思っています。ピックアップワイヤーは 4 Conductor 。デフォルトの Red Hot/Green Cold でネックピックアップと位相は合いました。錆止めにもなりますので、ハイトスクリューのレリック塗装も検討します。
さて1969年 Les Paul Deluxe に載せた Dimarzio PG-13™️ の音ですが、控えめに言って最高です。これにしかない音だと思えた時、最高としか言いようがありません。
ネックピックアップの存在がある以上、ワックスポッティングによると思われる気のせいレベルの不透明感を感じてしまうものの、センターポジションのミックストーンもまた格別です。
ブリッジポジションの低域が増した事で、聴感上ネックポジションとの切り替えの変化がスムースに感じ、各弦の低域の存在感はヴィンテージと比べてしまうと好みが分かれるところかもしれませんが、ある程度の調整は可能です。
見方を変えるとエレキギター自体の出す低域が増える事はギターアンプ側のセッティングとしてベースを下げることができ、ベーシストとの周波数帯域の被りを避けやすいかもしれません。
各弦が独立して立体的に聞こえる雰囲気はシングルコイルに迫るものがあり、全ての弦の低域の存在感により、いわゆる太くて明るい音が気持ち良いですが、ケーブルによって印象は異なるかと思われます。
このギター、ピックアップに限ったお話ではありませんが、ギターのジャックにつながるプラグ、ケーブルこそは気をつけていただきたく、次々変更してしまうことで得られたサステインがどこかへ行ってしまったり、どこかの周波数が強調されてしまったりと音作りの基準を失い、彷徨い続ける事にもなりかねないと、個人的には常々思っています。
この直流抵抗値でマグネットはセラミック。コイルワイヤーはどんなゲージが選択されているのかが気になります。構成素材の変更で他にどんな倍音が出てくるのか、ワックスポッティング無しで透明感が増すのか、磁力の強さは個人的には吉と出ていると思いますので AlNiCo Ⅴ や AlNiCo Ⅷ も試してみたくなります。
ミニハムバッカーのサイズという部分がやはりキーポイントでしょうか、この音の分離感がフルサイズハムバッカーにはない感じのひとつかもしれません。ファイアーバードピックアップの構造も含め、キットも一般的になるなど、21世紀に入ってからの各ミニハムバッカーの再評価もうなずけます。
マウンティングスクリューはフィリップスとスロットの2種類、スプリングも付属してきます。2種類のネジを付けてくれるところがユーザーを理解しているなと尊敬できます。色々な面でフィリップスの方が現場では使いやすいと思いますが、ルックスは大切な要素です。
取り外したオリジナルをディスプレイしておけるケース入りというのも男の子の心をくすぐります。日本の販売代理店で購入すると、神田商会の保証書と、かなり詳しい配線図集も付いてきて、日本総代理店としてのプライドを感じさせてくれます。
現在 Gibson や Seymour Duncan、Lollar Pickups などは、Deluxe/P-90 用のリプレイスメント Mini Humbucking Pickup として、リング込みのアセンブリーで販売されています。これらは P-90 のカバーを加工して使用しているかどうかは確認できていませんが、Gibson Les Paul Deluxe 2015 には、ファイアーバードのようなルックスのピックアップが搭載されていたのも記憶に新しいです。
ご協力いただきました、このギターのオーナーに感謝申し上げます。最後まで閲覧いただき、ありがとうございました。Pōmaikaʻi
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