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Epiphone®︎ P-90

Epiphone Casino 。所謂フルアコ、薄いボディ。イメージ通りなエレキギターの音。日本の住宅事情に適した音量の生音。the Beatles をはじめとする有名アーティストの使用により世界的に有名なギターとして認知されています。 

Chicago Musical Instruments が  Epiphone を買収した流れにおいて、Gibson 傘下となり、一連の Gibson ギターの Epiphone バージョンが Gibson カラマズー工場で多数デザインされ、Gibson ES-330 の Epiphone バージョンが1961年に発表された E230TD Casino であるとされています。

これは、それまでのライバルであった Epiphone ディーラーも、Gibson 工場製のギターを Epiphone ブランドとして販売することで、ユーザーを惑わすことなく、商権や商圏の混乱を招くこともなく扱うことができる等の面もあったようです。

その後、日本、韓国、中国と製造国が変わるにつれ、レギュラーカジノ(カシーノの方が海外では通じそう)という言葉までも生まれ、どんどん品質が悪くなっていると嘆く諸兄も多いですが、2004年中国工場開設以降の製品は、手作業の部分は相変わらずの仕上がりとするも、機械加工の精度が驚くべき向上を見せ、その販売価格と品質とのバランスは、20世紀の感覚では理解が難しいほど、道具としての工業製品価値は高いように感じます。

生産数の区切りを更新するにつれ、工場出荷状態も改善されており、驚かされるばかりですが、販売価格を抑えなければビジネスとして厳しいギターという工業製品が、古き良き時代のように販売店が深く調整して店頭に並ぶ事は稀で、新品購入時の不満をなんとか抑えたいものです。

先日、改善させていただいた2014年製の casino coupe のストック状態には以下のような感想を持ちました。

・軽くて最高
・ボリュームでフィードバックがコントロールできそう
・レギュラーカジノにはないハイフレットの弾きやすさ
・頼りなさげなチューナー
・ビザール感の高いナットとフレット
・太くて最高なんだけど違和感を感じるネックグリップ
・よく見ると気になる塗装の仕上げ
・ピックアップバランスの悪いミックスポジションの出音
・Alpha B500kΩ ボリュームポット
・made in Korea A500kΩ トーンポット
・2A223J (brown) キャパシター
・Epiphone ブランド ジャック
・アジア製?トグルスイッチ
・汎用配線(音声信号に関してはシールド線)
・細い弦を張った時のトラピーズテールによるテンション感

などなど

上記の中で、不満点と言える部分について手を加える事は、プロの手を借りるか、腕に覚えのある方でないと、どれも簡単に処理できるとは言い切れません。
せっかく手に入れたにもかかわらず、さらに時間とお金をギターにかける段階でもなく、我慢できる範囲と捉え、黙ってピッキングや楽曲の練習をすべきかもしれません。

もしも出音としてピックアップバランスが悪いと感じ、現場で使いづらさを感じるようであれば、最初のうちに出来る限りのバランス取りをしておかないと、サウンドメイクに関わってしまい、ギターの好きな部分や良い部分よりも、気に入らない部分が気になってしまって、このギターのおいしいところを引き出せないまま、手放してしまうハメになりかねません。

ストックの状態でも、例えばミックスポジションで、ネックピックアップのボリュームを下げ、トーンも駆使しバランスを取ると、ある程度のサウンドメイクは可能で、ミックスでの使用よりもピックアップ単体でそれぞれの音の違いを生かすといった音作りもあるかと思います。

しかしながら、 音量を稼げない環境では、そうやって構築したミックスポジションのサウンドではアンプからの出音に元気がなくなってしまう感も否めず、結果レンジの狭い音作りをせざるを得ない状況に追い込まれ、音量の異なるピックアップというだけで、単純に音作りが難しい場面は多いのではないかと思われます。音作りの調整幅は広いに越したことはないと考えています。

シングルコイル特有のノイズはあるものの、ボリュームコントロール、トーンコントロール共にリニアに反応し、ピッキング位置の違いでガラッと変わる表現や、フルボリューム設定であってもクリーンから歪みまで指先でコントロールできてしまうP-90 は、最高のギターピックアップの一つです。

1946年にギブソンから発表されたその樹脂製ボビンはポリスチレンかと思われます。コストダウンに貢献したのかクリア素材に変更された時代もあり、ベースプレートについてもニッケル製やブラス製の採用など、最近ではフェンダー系のようなファイバーとメイプル材を組み合わせたボビンやベイクライト製のものも発表され、独自の進化をしています。

ご存知のように、Gibson J-160E に搭載されたピックアップは、P-90 です。John Lennon もGeorge Harrison も自身の J-160E にピックアップを移動したのか追加したのか、ネックポジションとは別の位置に取り付けた痕跡が見られます。話はズレましたが理想的な取り付け方法、部品構成を追求すれば、アコースティック感溢れる出音も期待できます。

平たく巻かれるコイルと2枚のマグネットを使用した構造。その先にトーンコントロールとボリュームコントロールがある前提で、単純に幅広い磁場は弦の振動を拾う範囲(弦の振幅によって変化する磁場の範囲)が広く、個人的にはこれこそがこのピックアップの有利に働いている点と考えています。

前身とも言える P-13 で採用されていた金属カバーとは異なるドッグイヤーメタルカバーの P-90、これが魅力であり今回の注目点です。近年の真鍮製のものについては樹脂カバーと比べて若干のハイ落ち感があるかと思われますが、これはこれで美味しいサウンドですしノイズの抑制にはもちろん貢献しているように感じます。

Epiphone USA デザインと明記されたラベルには、特徴が書かれています。マグネットは AlNiCo(アルミニウムニッケルコバルト合金、番手は不明)、コイルワイヤーはエナメルコーティング(番手は不明)、ワックスポッティングされている部分は、個人的には好きではないですが、フルアコという観点から、ハウリング防止には理想的かもしれません。

Mosrite 並みの高い抵抗値。これは見方を変えれば、コイルをほどけば好みの抵抗値に下げられるという汎用性も見出すことができ、ならばネックピックアップだけでもほどいて抵抗値を下げて使用したいところ。
しかしながらこの方法は技術と道具を必要とし、時間も(他人に依頼すればお金も)かかります。

1960年代のオリジナルは、抵抗値は8kΩ程度、カバーもドッグイヤー部が薄く、全体的なラインの美しいプレス精度の高いもの。素材はニッケルシルバーかと思われますので、ブラス製のものよりもサウンドの透明感については差があるか思われます。

樹脂製カバーのピックアップと同じく、ピックアップベースの脚をドッグイヤー部で挟んでギターにマウントする方式。これはボディからの振動の影響も受ける構造をあえて狙っているように感じます。

現行品のメタルカバーのP-90は、ピックアップのベースプレートがカバーにハンダ付けで固定されています。振動によるハウリングやノイズの抑制、アースの確実化、組み上げ工程の簡略化など、おそらくは日本製になってからの案かと思われますが、韓国製造以降は、カバーのプレス精度も落ち、不恰好で、ドッグイヤー部が厚いのはハンダ付け前提の作業性向上などを考えた成型と思われます。

ブリッジピックアップ用、ネックピックアップ用としてカバーの高さに大きく差がつけられているので、これをうまく利用すれば、ピックアップ本体の高さ調整が可能なのにもかかわらず、カバー内部では、なんとも惜しい感じのハンダでの固定のされ方でした。

このデフォルトの状態では、ネック側は低音成分過多でトーンコントロールの効きにくい出音、ブリッジ側はせっかく抵抗値が高いのにもかかわらず、コシのない出音となってしまい、ブリッジポジション特有の豊富な倍音も拾い切れてない印象。ピックアップが2個搭載されているギターとしての醍醐味の一つであるミックスポジションに至っては、残念ながら存在意義の不明な音になってしまっていました。

カバーの高さではなく、ピックアップ自体の高さという視点で、外観からの見た目よりもブリッジピックアップは抵抗値が高いにもかかわらず弦に近すぎ、ネックピックアップは抵抗値が高いにもかかわらず弦から遠すぎ、という状況。

ドッグイヤーP-90は、基本ポールピースでの音量調整しかできず、弦に対してのマグネットとコイルの位置による影響は固定されています。

そこで私の推奨する、比較的手軽にできる“多少の加工と改造”と考える箇所2点を紹介させていただきます。

・ピックアップの取り付け方法変更
・ナットの溝切り

実際の作業では、各ポイントで考えながら行う必要があり、気をつけなければならない点が多々あるのですが、やり方も人によって考え方や目線の違いがあり、細かすぎてキリがない為、こうすれば改善できるんだという大まかな流れ、概要を記します。

今回、2014年製の casino coupe を題材とさせていただき、ピックアップのコイルをほどかない方法で、できるだけ簡単に、この二つのピックアップから理想の出音を!となると、二つのコイルと弦との距離でバランスを取るという方法が考えられます。

①ピックガードを外す。弦を可能な限りゆるめる。又は弦交換のタイミングで作業をする。

②ピックアップをドッグイヤー部のスクリュー2本を外して本体から離す。この時、fホールから指を入れて、ネックピックアップ、ブリッジピックアップ共に、ボディ内でピックアップのワイヤーを引っ掛けているクリップから外す事で、本体からピックアップを割と離すことができる。

③作業中の事故防止の為、適度なサイズにカットしたダンボールや、厚めの布などでギターのボディーを覆う。

ボディ内部で引っ掛けているクリップから、ワイヤーを解放し長く引き出せれば、ボディ脇に台などを置いて、その上で作業が出来る事は理想的ですね。

④ドッグイヤー部にハンダづけされている、ピックアップベースの脚部を、ハンダゴテで加熱、ハンダを溶融させ、ピックアップカバーを外す。

⑤ ピックアップを、メタルカバー内で理想的な位置に変更する為、外したピックアップベースの脚(耳?)を状況に合わせて曲げる。

この部分を、ブリッジピックアップはカバー内で弦へ近づける位置に、ネックピックアップはカバー内で弦から遠ざけるイメージで、確認しながらうまいこと曲げた後、カバーにハンダ付けし直す。

⑥本体に取り付け、弦を張り、ポールピースで音量調整をする。

やはり抵抗値は高すぎに感じます(個人の感想です)。ブリッジピックアップについては、この抵抗値が幸いしてか、パワフルで使いやすくなったという感想を持ちました。
ネックピックアップについては、やはり少し抵抗値を下げたらアコースティック感が高められる気がしていますが、懸案だったミックスポジションについてはキャンキャンした、いかにも箱モノエレキギターの音という感じになり、気持ち良く演奏できそうです。

次にナットの溝切り。

ナットの指板側の弦溝の深さ、弦が乗る頂点だけをキープし、ヘッド側の溝だけを深くする。

全体的に溝を深くしてしまったら問題が起こるので、集中して作業する事が何よりも重要です。弦がナットに乗る際の、弦とナットを線接触から点接触に変更してあげるイメージ。

ナットからチューナーまでの弦の角度がわずかにキツくなり、テンションを稼ぐことができ、張り方にも気を使えば、弦も良く響くようになります。アコースティックギター界隈では定番の加工ですが、弦の張力、圧力がナットに対して点で掛かるようになり、響き方が “ベンベン” から “ビンビン” に変化した事を感じていただけると思います。

トラピーズテール仕様であり、弦のテンションが緩めなので、太い弦を張りたいところ。細い弦を張る場合、そのテンションの緩さが弾き心地や出音に影響すると思われます。

ただ弦の太さについては個人の好みなので、好みの弦を張った時に弾きやすく、出音が良ければ何も問題はなく、つまりは弾き手がストレスを感じていなければ良いと思っていますが、ナットやブリッジの調整による弾きやすさの向上を感じていいただければと思います。

比較的手軽にできる“多少の加工と改造”を、まとめると

・メタルカバー内でピックアップ本体を適度な高さに変更し、ハンダでの固定をし直す。
・ナットの溝を調整して弦が効率的に響く環境を作ってあげる。

他にも改善した方が良くなるであろうポイントは沢山ありますが、新たな部品の購入は更なる出費になりますし、箱モノは配線作業がそれなりに手間なので、リスク少なく改善できる上記2点を紹介させていただきました

今回は、ポットやスイッチは生かし、配線、キャパシター、耐久性向上のためジャックのみ交換させていただきました。中でも Alpha B500kΩ ボリュームポット は信頼性が高い印象ですが、個人的にはやはり交換したいところ。このギターでもやはり内部配線の選択が重要です。

現在流通している中国製ギターは、多少の加工と改造を施すことによって、驚くべき出音レンジの向上が望めるものが多く、ネックの耐久性が高いものに当たれば長い付き合いも可能、Epiphone のラインナップもそんなギター達です。

Casino coupe に至っては、街を歩いているとケースが空なのではと思うくらいの重量、SG並みのハイポジションの弾きやすさなど、箱モノである事も相まって、かなりの汎用性を誇ります。

見た目が自分に合っていて、出音の不満は小さく、演奏に集中でき、移動は軽く、出費が抑えられて丈夫なギター。これこそが理想的だと思います。

ご協力いただきました、このギターのオーナーに感謝申し上げます。最後まで閲覧いただき、ありがとうございました。Pōmaikaʻi

※ 当記事の内容につきまして、あくまで筆者独自の視点から執筆された内容であり、できる限り正確性等を保つため最大限の努力をしておりますが、執筆及び編集時において参照する情報の変化や実体験により、誤りや内容が古くなっている場合があります。
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