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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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新人SCP著者だけどインタビューされた〜〜〜い!!!!


こんにちは、drikaraです。普段はSCP財団という創作コミュニティで記事を書いたりしています。

この夏にSCP財団で行われた恐怖のコンテストにて、拙作・全国一斉霊的感知力テストがなんと優勝しました。まだ二つしか著作のない未熟者ですが、評価していただいたことを非常に嬉しく思います。

ところで…

調子乗るな?

うーん…でも…

自分語りした~~~~~~い!!!持っているノウハウや創作における苦労なんかを語ってすごいって言われて承認された~~~~~い!!!!


実際SCP財団ではついこの前10周年インタビュー企画が行われたばかりなんですよ。ただ当たり前なんですけどインタビューされる人なんて本当に一部の超すごい人ばかりなわけです。

でも…

というわけで金ヶ森さんというインタビュワーを呼んでインタビューしてもらいました。

大学時代ヨットサークルあたりに
入ってそうな雰囲気の金ヶ森さん

ちなみに金ヶ森さんは実在しません。今僕が生み出した架空の存在です。画像もさっきAIで作りました。

今回はインタビューされたすぎたので、妄想で生み出した架空のインタビュワーを使って先述の恐怖のコンテストの事後インタビューというテイで自作自演のインタビュー記事を書きたいと思います

内容はガチ語りなので、SCP著者を含む物書き、そしてdrikaraのファンという奇特な人向けです。


この記事には以下の恐怖のコンテスト参加作品のネタバレを含みますので鑑賞後にお読みいただくことを推奨しています。

またSCP作品以外の以下の作品のネタバレを含みます。

  • チェンソーマン(第二部 15巻 123話に登場する悪魔の名前が出てきます)

  • アクロイド殺し(ラストの大オチに触れています)

  • シックスセンス(ラストの大オチに触れています)



恐怖のコンテストを振り返って

──drikaraさん、まずは恐怖のコンテスト優勝おめでとうございます。

ありがとうございます。いやぁ、新星コンと合わせて二冠ですね(笑)

──あっ、自分で言うんですね。今回のコンテストの感想はいかがですか?

びっくりでしたね。謙遜とかではなく本当に。

──自信はなかったんでしょうか?

はい。本当に反応が分かるまではこれでいいのかどうかが全く分からなくて不安だった、というのが正直な感想です。実のところホラーは苦手なんですよ。読み手としてではなく書き手として。

──確かに前作のSCP-3055-JPも若干のクリーピーさはありつつ、ホラーを全面に押し出したものではなかったですね。

そうですね、あれは怖がらせることは目的にした記事ではなかったですね。というのも僕は「怖い」っていうのがよく分からないんですよ。一応誤解なきように言っておくとホラーは好きなんですよ。ただ面白いとか、お話の上手さに唸ってしまうとか、不気味だとか、グロいとか、そういうものは感じても、怖いかというと…って感じだったんですよね。

──というと今回のコンテストは相当困った感じですね。

そうですね。いつものコンテストはテーマって形なんですけど、今回は「読者を恐怖させる記事を書いてください」って思いっきり言われてしまっていたので。それまでの「テーマは出すけど解釈は自由、この要素を入れてやりたいことをやってくれ!」って感じとは毛色が違うんですよね。もし従来のような感じで「恐怖」をテーマにしたコンテストって感じだったら、きっと恐怖を揶揄するようなコメディ記事を書いていたと思います。

──しかし今回は「恐怖させる記事」から逃げられなかったと。

はい。もう本当に困りました。

drikara氏が感じる"恐怖"とは

だからまずはwikipediaで「恐怖」を調べることから始めたんですよ。

── 随分初心に立ち返りましたね(笑)

でもこれが意外と収穫があったんです。恐怖は…ちょっと待ってください、今調べますね。えっと「有害な事態や危険な事態に対して有効に対処することが難しいような場合に生じる感情」ということらしいんです。その中でも具体的な事態になっておらず明確な対象があるものが「心配」、具体的な事態になっておらず明確な対象もないものが「不安」って定義されてるみたいです。

インタビュワーにwikipediaを見せるdrikara氏

──恐れの中に心配と不安が内包されていると。

はい。この恐怖の定義でいうと、目の前にトラがいるとか、高い所が怖いなんてのもしっかりと恐怖ですよね。トラには食べられるかもしれないし、高い所から落ちたら死ぬかもしれない。さらに言うと「ジャンプスケアは怖いのか?」とよく議論されていますが、この定義でいうと明確に恐怖ですよね。

──よく議題に上がる話題ですね。

恐怖コンでは画像のみによるジャンプスケア演出も見られましたが、ここでは大きな音を伴う演出とします。大きな音でびっくりさせられた場合、大きな音を発してる存在、野獣や、ヤバい人間や、爆発なんかの有害な存在が瞬時に想像できます。被害の具体性は低いので不安に分類されるかもしれませんが。人間が生まれつき持ち合わせている恐怖は高所と大きい音だけだって聞いたことすらあります。

──あっ、それチェンソーマンで落下の悪魔が出てきた時に話題になっていた話ですね。

その通りです。よく分かりましたね。

──はい、何となくdrikaraさんチェンソーマンとかHUNTER×HUNTERとか小難しい異能バトルが好きなタイプのオタクだろうなという雰囲気があったので。

金ヶ森さんヨット部出身のゴリゴリ体育会系ですみたいな雰囲気なのに、意外とオタクの解像度高いんですね。それでこの定義から思ったのは、僕がホラーを怖いと思えないのは当事者意識がすごく関係しているんじゃないかって。

──当事者意識?

例えば日本の古い家屋なんかを舞台にしたホラーは怖いなと感じても、エクソシストのような海外を舞台にしたホラーは比較的怖く感じないみたいな話あるじゃないですか。距離感が遠いと怖いと感じにくい。多分僕は例えばホラー映画を見ている時に何か不気味だなと感じていても、同時に映画内で起きていることは絶対に自分に関係のない与太話だと思って観ているんです恐怖における、自分に害をなすという定義から外れてるんですよね

──究極的に他人事だと思ってるみたいな。

そうです。でも実は僕お化け屋敷絶対ダメなんですよ

──あれ、なんか言ってることが違うような(笑)

それこそホンテッドマンションですらダメで。もちろんホンテッドマンションに入ってもそこにいるオバケに襲われて死ぬなんてことはないんですよ。それでも周りが暗闇で不気味な音が鳴っていたら、もう冷静ではいられないんですよね。廃墟での肝試しとか絶対無理です。あっでも廃墟ロケしてるYouTubeとかは全然大丈夫です。多分廃墟に行ったら呪われたりオバケに会ってしまうなどの実害があって、YouTubeの動画にはそれがないと思ってるんでしょうね。

──ホンテッドマンションで冷静さを失っている成人男性、ちょっと見てみたいです。

画面の前の読者を物理的に囲うという試み

──drikaraさんの恐怖の線引きとして、物理的に囲まれているというのが重要そうですね。

はい。だから僕は普遍的な当事者感、没入感に加えて、その中でも読者を360°囲うという物理的なアプローチに特に注目したんです

──読者はモニターで記事を読んでるだけなので、それは難しいような気がするのですが。

最初「背後に霊がいる」という感じの記事を書こうと思ったんです。背後に忍び寄る霊に対する記述を並べて、途中途中で背後を確認してもらう。例えば報告書を閲覧する上でそれがプロトコルとして組み込まれてるとか。

──その方向性は辞めてしまったんですか?

なんか面白くなかったんですよね。これは多分アイディアがダメだったわけではなくて、上手く形にできなかったという話だと思います。

──理由は少し漠然としていたものの、手応えを感じなかった。そこから改めてクオリティを上げるためにテストという方向に思いっきり舵を切ったわけですか。

はい。ただまるっきり新しいことを始めるわけではなくて、一度アイディアをリフレッシュするために、本当にやりたかったものとそれに適している部分だけを残して他は全部変えてみようと。その時に自分は当事者感、物理的に囲うというアプローチ、そして「行為」を重視しているんだということを整理できたんです。

──「行為」というのが物理的に囲うということにつながるんでしょうか?

物理的な包囲の一部に行為というアプローチがあるイメージですね。

当事者意識について説明するdrikara氏

例えば第2問の問8に柏手を打たせたり文言を音読させたりといったことがありましたが、実際に声を発させたり動作をさせると、自分自身や自分の周囲の空気まで記事内の世界に取り込まれたような感覚になりませんか?記事内だけで完結していたものが、メタの壁を一枚超えてくるような。

──確かにあの箇所は没入感がすごかったです。

他にも第1問の問8ではもうあなたのそばに霊が来ていますと言っちゃってます。これもメタの壁を越えようとした試みです。

──読者を丸ごと記事の登場人物にしてしまおうと。

あとは行為ではないのですが、音声ファイルなんかもかなり効果的だったんじゃないかなと思います。目の前に平面的にしか存在できない文字や画像と違って、音の波は物理的に読者を囲いますからね。そういったことを積み重ねて読者を恐怖で囲いたかったんです。ちなみに第1問問4の女性の声は僕が必死に女性っぽい声で喘いでます。

──それは聞きたくなかったです(笑)

テスト形式を採用したのは没入感を高めるため

──テスト形式というのも大きな特徴だと思うのですが、これも物理的な包囲を実現するために選択されたということでしょうか?

いや、それは「背後に対する恐怖」の時点で十分達成されていたんですよ。行為や物理的な包囲を組み込める形式の中で色々探していたところテストを思いつき、その時テストという形式には物理的な包囲以外のアプローチで没入感を高められる点がたくさんあり、総合的に感情移入の度合いが高くなると思ったんです。

──「背後に対する恐怖」の時点で感じた何か違うという感覚はそこにあったのかもしれませんね。

そうかもしれませんね。テストという形式を選んだのも没入感が理由なんですけど、例えば名前を表示するってとこも大きな当事者感を抱かせる仕組みの一つですね。あとは能動的に答えを選ばせる

──drikaraさんが仰っていた「自分に関係のない与太話」という問題を解消しようとしたわけですね。

まぁ読者はフィクションだと分かっている以上限界はあるんですけどね。そして没入感とは関係ないんですけど、分からない単語が出てきても解説しなくていいというのもテスト形式を採用した大きなポイントです

──分からない単語というのは?

特別な意図がある場合を除き、読者の大半が知らない単語を出す時は注釈を入れた方が良いですよね。分からないまま置いてけぼりにすると多少なりとも読者にストレスが溜まります。でもテストなら解説不要。なぜなら知らないのが悪いから(笑)読者の置いてけぼりが正当化されてる環境なんです。逆にその置いてけぼり感がテストっぽかったりする。

──この言葉の意味分からないなぁっていう状況、テストだとありますもんね。

ところで先ほどトラが目の前にいて食べられちゃうかもというのは恐怖だと言いましたが、これってホラーだと思いますか?

──何か違うような気はしますね。

そうですよね。直接的すぎる恐怖はホラーっぽくない。害やそれを与えてくる脅威が謎に包まれていた方がホラー、特にJホラーっぽいんです。トラが目の前にいるより、暗闇の中から正体は分からないけど敵意があることだけは分かる何かが自分を見ている。そっちのが怖い。そういう意味でJホラーは恐怖の中でも不安や心配に近い感情を想起させることが分かりますね。ただ没入感を高めるだけではなくて、何だかよく分からないけどそれが良くないものだということだけが分かる。そういう正体不明なものの中に読者を沈めたかったんです。そのために解説不要な環境が必要でした。

──テストという形式がまさにバッチリ当てはまったというわけですね。

これは特に記事と関係のないうろ覚えのハンマーブロス

オチで大切にしたのは心当たりとリアリティ

──では大オチの亜霊についても伺いたいのですが、あれも没入感を高めるための仕掛けでしょうか?

そうですね。まぁああいう巻き込み方の展開は言ってしまえばお憑かれ様と言ってよくある形式ではあるんですが、徹底的に読者を記事の一部にしたかったということはオチまで一貫しています。

──あのだんだんとオチが判明していく感じはすごく怖かったです。

オチへの導線で大切にしていたことが2つあって、それは「リアリティ」と「心当たり」です

──その2つも当事者意識を持ってもらうための仕掛けなわけですね。

はい。第1問、第2問、第3問と各セクションの最終問題がオチへの大きな導線となっているんですが、これらは全部他の設問よりも俗っぽく特に身近に感じるように作ったんです。張り紙、掲示板、LINE、全部見たことあるものですよね。多分ここが「イギリスの教会を舞台にした、亜霊化のために生贄に捧げられた少女と呪術師の話」とかだったら全然怖くなかったと思います。LINEのやり取りとか、実際に家族のやりとりってこんな感じだよなって思えるから怖いのかなと。

──あそこは本当に、お母さんの口調がうちの母親そっくりで…(笑)

あっ僕の妄想の中の人なのに母親とかいるんですね(笑)あとは微妙に虚実織り交ぜているところとかも意識していて、例えば第2問の問4に感染呪術という言葉を使っているのですが、これはジェームズ・フレイザーという方が定義したもので、実際に文化人類学で使われている言葉なんです。言葉自体は嘘ではなく実在するものなので、どことなくあれ?このテストって本当の話?みたいに思ってくれないかなっていう狙いで入れています。白石晃士監督のノロイっていう映画に芸人さんのアンガールズがアンガールズ役として出てくるんですけど、あれと同じですね。

──最近流行っているモキュメンタリー形式のコンテンツ、祓除やこのテープもってないですかなどにも見られる手法ですね。

はい、祓除のよしぴよさんなんてどこまでが作り物なのか自分は未だにわかっていません(笑)もう一つは「心当たり」なのですが、第4問はこれを畳み掛けるように問題を作っていて、問5のホラー好きなら思い当たる舞沢さんの話とか、最近体調を崩した人は問6に心当たりを感じてくれるかもしれない。特にこの記事を出した時期は夏風邪を引いている人が多い時期でしたからね。

──なるほど、リアルタイムの読者を意識されていたんですね。

問7の画像と問9の音声の問題は「自分にだけこう見えてる?聞こえてる?」と思ってほしかったところなのですが、YouTubeなどで全国一斉霊的感知力テストを扱ってくれている配信などを見る限り、その目論見はあんまり上手くいってなかったみたいです(笑)とにかく第4問全体的に「もしかして自分の話してる?」とうっすら思ってくれるように匂わせています

──意図通りにいかなかった問題もあったと。

自分の作品が実況配信されるメリットはそういうところにもありますね。上手くいってるかどうかの答え合わせができます。そして第4問の問12、「被験者が自主的に勘付くようにしなければならない」なんですけど、これはここまで読んだ読者なら心当たりを感じてくれるだろうという、言わば僕から読者への信頼の証です。「なんかオバケになる話ばかりしてるな」とか「これ罠にはめようとしてない?」などと勘ぐった読者ほど怖く感じてくれたんじゃないかと思います。こういうものの積み重ねが全て一つの大きな「当事者意識を持ってもらう」という目的に収束していく感じになってます。

──ホラーを書くのが苦手だと仰っていましたが、こんなに緻密に計算して記事を作られていたんですね。

緻密だなんてそんな…妄想で作った人にそんなこと言わせてしまうなんてお恥ずかしい限りです。でもホラーを書くのが苦手だからこそかもしれません。ホラー作品を怖いと思えなかったからこそ、じゃあ何なら怖いと思えるのかっていう、自分というハードルを基準にしやすかったんです。

記事が拡散された要因とその影響は

──今回記事がかなり拡散されていましたがこちらはどうお感じになられましたか?

本当に運が良かったなって感じです。いくつもの理由が重なって拡散につながったと思うのですが、例えば梨さんやましろ爻さんに拡散されたこと、今回から記事にX共有ボタンがついたことなどが大きく、本当にこれはラッキーでした。

──予想外だったと。

そうですね。かなりびっくりしました。まさに絶句って感じで。梨さんからは記事のディスカッションにもコメントをいただいたのですが、驚きすぎて返事を書くのに数日かかってしまいました(笑)その他にもテストという形式がキャッチーだったことがありますが、これは先ほどお話した没入感を目的としたものなのでこれも本当に偶然です。唯一意図的と言えるのは宣伝ツイートにキャッチーなスクショをつけたことでしょうか

drikara氏が行なった宣伝ポスト

──怖い画像が貼られていましたね。確かにあれは目を引きます。

まぁあれも拡散、ましてやSCP界隈以外に広がるなんて全く想定していませんでした。実は最初に広まったのはSCPサイトメンバーに向けた「下書きを書きましたよ」と知らせるツイートだったんです。SCPはまず下書きを作成し、コミュニティ内で相互に批評してから投稿するという文化があるんです。なのでSCPサイトメンバーの目に止まって批評コメントがついてくれればいいな、程度の狙いしかありませんでした。

──完全に内輪に向けたものだったと。しかしサイトメンバーに向けたフックが偶然外部にまで拡散するきっかけになったということですね。

これは特に記事と関係のないしまじろうの実印

でも拡散されたことに予想外のデメリットもあって…。

──デメリットですか?

テストなのに診断結果が出なかった!がっかりした!という声が結構あったんですよね。

──なるほど。そういった声はdrikaraさんにとって想定外だったわけですね。

でもこれはSCP作品であるという前提があると忘れがちなんですけど、テスト、診断形式なのに結果が出ないってめちゃくちゃ大きいデメリットなんですよね。しかもあのテスト、しっかり悩むと一時間ぐらいかかるんですよ。だからオチが理解できた、できなかったに関わらずがっかりするのは当然です。

──私はSCP作品だという前提で拝読したので、逆に真っ当に診断結果が出るだけなわけないなと勘繰ってしまっていました(笑)

はい。そういう読者以外を想定できていなかったんです。そもそも投稿した時点ではまさか普段SCPを読まない人にまで拡散されるなんて夢にも思わなかったので想定するのはかなり無理ゲーなのですが…。なので投稿して少し経った頃、記事のディスカッションに一応の診断結果を載せることにしたんです。

──不満を感じた読者へのフォローですね。

しかしここで根拠もなく診断結果を出してしまうとSCPを読み慣れている読者からの評価に響きかねない。フィクション作品として見た時に、テストに擬態した呪いの儀式なのに律儀に診断結果を出すのはおかしいですからね。なのであくまで作品外の世界観で著者のdrikaraが余談として診断結果を出したという形にしたんです。

──SCPを読みにきている読者にも配慮されていたんですね。余談ですが私は1点でした(笑)

金ヶ森さん脳筋って感じですもんね(笑)

『相談役』が演出する恐怖の斬新さ

──では他に霊的感知力テストについて反省点というか、ここはもっと改善できたかもしれないなと思う点はありますか?

「読者巻き込み型のコンテンツ多すぎ」というコメントはSCPサイトメンバーやYouTubeのコメントなど多方面からいただきました。実際やってることはお憑かれ様系や自己責任系というジャンル名があるほど確立された手法なので目新しさはないんです。そこに「またこういうやつか」と辟易してしまった人はいたみたいですね。

──最近そういったコンテンツはある種流行のようになってますよね。

もちろん全国一斉霊的感知力テストにもテストという形式などオリジナリティはあるっちゃあるのですが、「この話を聞いた人には幽霊が憑きます」とか「この言葉を唱えた人には呪いが降りかかります」といった従来のものと体験として大きな違いがあるかと言われると微妙で、フレームが同じなのは否定できません。

──そこがある種のマンネリ感につながってしまったということですね。

ここですごいのが相談役なんですよ。人様の記事を分析するようなことを言うのは少し憚られるんですけど、参考にしたいところがたくさんあるんですよね。全国一斉霊的感知力テストも相談役もどちらも読者自身と恐怖の距離感を近くする当事者意識へのアプローチが含まれているのですがその手法が異なっていて、全国一斉霊的感知力テストはいわゆるお憑かれ様系ですが、相談役は主人公自身が実は異常だったという信用できない語り手型のホラーなんです

──信用できない語り手というのは?

物語の技法というか型の一つで、普通読者は語り手が言っている内容を信じるというか、真に受けるじゃないですか。でもそれが間違っていることで読者のミスリードを誘うという手法です。細かく分類すると語り手が読者に対して意図的に嘘をついているアクロイド殺しのようなパターンと、意図的はないが語り手自身の認知に問題があって嘘の情報を語ってしまうシックスセンスのようなパターンに分けられます。相談役は、悩むんですが後者に近いパターンだと思います。

──大久保さんはまるで自我があるかのように、そしてスパムの存在を知っている、というかすでに接触すらしているのに知らないような振る舞いをしていますね。確かにこれは意図的と言っていいか無意識と言っていいか迷います。

少なくとも最初読者は大久保さんはまともな人間だと思って読んでいるわけです。大久保さんの立場に自分を投影させてるわけですね。その大久保さんが実はとっくにスパムの手に落ちていた。大久保さんに自分を投影させていた人はまるで自分自身がすでにおかしくなっていたみたいな感覚に陥りませんか?そう考えるとやっぱりシックスセンスにかなり構造が近いですね。

──まさに当事者意識そのものに訴えかけてくるやり方ですね。

しかもこれをDMという形式でやったという作品はあまり見ないですよね。ここがすごいんです。

──DMであるということにそこまで大きな意味があるんでしょうか?

大アリですよ。まずDMなので主人公である大久保さんの姿は見えないし声も聞こえない。しかも何か話し方も無機質だし、一応お話として聞き役の立場ではあるんですけど、本来決して感情移入しやすい存在ではないんです。じゃあなんで感情移入先として機能してるかと言うと、右側だからです

──送信側=自分側だと認識してしまうということですね。

はい、なので相談役の大久保さんは正体不明な不気味さを残しながらも主人公として感情移入させる機能を獲得している。これってシックスセンスとは体験が全く違いませんか?

──確かに!シックスセンスのおじさんはそれまでに人柄などを散々知っていたので、幽霊だと判明した後も怖いとか不気味という印象にはならなかったですね。

文字ベースの小説でも外見を視認しないので似たような状況を作れそうですが、その場合は地の文が一人称独白体(*1)か三人称視点になるんです。一人称独白体の場合は要するに心の中が見えているわけで不気味さが減ります。三人称の場合は感情移入度が減ります。この体験はDM形式だから成されたものなんです

*1…主人公が一人称視点で語るような文体。

──すごい!相談役の斬新さにはそんな秘密があったんですね。

これまであまり無かったタイプの恐怖ですし、ちゃんと恐怖について向き合って長時間考えないと出てこないものだと思います。てるさん(*2)はとにかく手数が多くて著作の数も膨大な方なので、本当にたくさんの試行錯誤の末生まれた作品じゃないかなって、すごいなぁって思います。

*2…相談役の著者・teruteru_5さん。

『どろんこばあ』は文章が五感に訴えかけてくる

あとは同じくtale作品のどろんこばあに追いかけられているにはとても感銘を受けました

──taleの中でもかなりオーソドックスな形式の作品でしたね。

仰る通り、どろんこばあは画像や音声などのギミックのない小説然とした正攻法の作品で、ギミックてんこもりの僕の記事とは戦い方が真逆なんですよね。でも実は恐怖と読者との距離を極限まで近づけようという指向しているところは同じなんです

──ずっとdrikaraさんが重視していたところですね。

そうですね。僕はかなり早い段階から読者を物理的に囲うという道を選んでいましたし、文章で読者を恐怖に引き込むのは自分には無理だと思ってしまっていたので、正攻法でこんなにクオリティの高いホラーが作れるというのを見せつけられて驚きました。

──文章だけで勝負されるのは確かに技術が要りそうですね。

どろんこばあは文章なのに五感に訴えかけてくるんですよ。いきなり冒頭嗅覚へのアプローチから始まる。うわっ嫌だなと思いましたね。五感の中でも嗅覚を選ぶセンスも素晴らしいです。見た目や音と違ってその場にいないと伝わりにくい情報なのでここをしっかり描写すると特に臨場感がある。それで次に視覚的に嫌な情報をたくさん描写し、油っぽい泥や、裸足、気温などの描写で触覚を想像させ、そしてここぞと言うときに擬音を際立つように描写するんです。じゃあさすがに味覚はないだろうと思ったらあるんですよ(笑)

──味覚まで!

ここまで五感を刺激されたら臨場感はかなりのものです。もう文章の中の出来事ではなく、自分の身に起きているかのような錯覚すらある。音声データとか僕がたくさんのギミックを使って必死に実現したことを文章だけでやってるんですよね。闇雲に怖さを描写するのではなく、リアリティや臨場感を感じるものを特に狙い撃ちで描写しているので、あれは確信犯じゃないかなと思います。

──YaKUYaMoSiO(*3)さんもどういったアプローチで恐怖を演出するかという戦略をかなり練られたのかもしれませんね。

*3…どろんこばあに追いかけられているの著者。

僕も今まで小説形式の文章を書こうと試みたことが何度かあるので分かるのですが、物書きの初心者は最初状況説明だけで必死なんです。ホラーとして大事なすぐそこにあるようなリアリティを描写するのなんて後手後手に回っちゃう。そこをしっかり抑えつつ冗長にならない文を書くってなかなか難しいですよ。

──どろんこばあがやってくるの妙なリアルさはそういった技術に支えられているんですね。

ホラーに必要な要素は3つ

それで、他の方の作品を読むうちにホラーで抑えておいた方が良いポイントみたいなものが段々整理できてきたんです。

──ポイント?

はい。それは「身近さ」、「曖昧さ」、「わざとらしくなさ」、の3つです

drikara氏によるホラーで抑えておきたいポイントの図

「身近さ」というのは僕が全国一斉霊的感知力テストで重視してきた、作品内に登場する恐怖と読者との距離の近さです。これは臨場感と当事者意識にざっくり分類できるかもしれません。

「臨場感」というのはそのまんまリアリティのことです。どろんこばあがすごかったのはここです。あとは相談役のトヨリさんのなんとも言えないこういう学生いるなぁって感じとか。

──生々しい描写がこれにあたるわけですね。現実味を帯びてきて読者が身近に感じてくるというか。

それと「当事者意識」ですが、これは私事に感じられるか自分に関係のない与太話だと思ってしまうかというところで、全国一斉霊的感知力テストをテスト形式にしたのがこのためです。海外の話より和ホラーの方が怖いというのもこれかもしれませんね。

──なるほどですね。では「必然性」というのは?

一言で言ってしまうとわざとらしくなさです。恐怖のコンテストの参加記事の中には「その表現めちゃくちゃ面白いし、怖いんだけど、わざとらしいなぁ」と思ってしまったものがいくつかありました。例えば全国一斉霊的感知力テストでは第3問までにたくさんの怖い画像や音声を載せたんですけど、前半は霊的感知力を測るために必要な設問であるという、後半に判明する真相ではMorris値を上昇するためという建前があるんです。だから怖い画像や音声を載せても良かった。だけど第4問の本当にラストの大オチに、例えば急に画面全体に怖い顔が出てくるようなジャンプスケアを仕込んでいたら、どうですか?

──理由は分かりませんが、個人的にはちょっと…納得はできないかもしれませんね(笑)

僕もその納得できなさを言語化しようと試みて、それでこれはわざとらしさ、つまり必然性の無さではないかと思ったんです。あのテストは自身が亜霊化しているということを受験者に自覚させたい何者かが作ってるわけで、ラストで受験者をジャンプスケアで怖がらせる動機がないんです。そこでジャンプスケアなんて入れてしまったらそこに読者を怖がらせたい作り手の意図や存在感がめちゃくちゃ臭ってしまう一気にわざとらしい作り物っぽさが出てしまうんですよね。これは臨場感やリアリティというホラーとしての長所を打ち消してしまうんです。

これは必然性のないシロノワール

──では最後に曖昧さについてもお伺いできますでしょうか?

これは納得できる理由や背景情報を用意しすぎないということです。例えば相談役では、スパムアカウントの正体とか明かさないじゃないですか。もし「これは宇宙人が地球人の射倖心を刺激し自分たちに依存させるために行った政策で…」みたいな説明あったら少し興醒めしませんか?

──納得はしますが、不気味さは下がってしまうかもしれませんね。

仰る通りで、ホラーとして考えるなら僕は種明かししすぎない方が良いと思います。逆説的に言うと断片的な、不十分な情報しか描写されない状況は恐怖につながりやすいとも言えるかもしれません。僕も全国一斉霊的感知力テストは誰が仕組んだものなのか、最後まで明かさなかったんですよ。脅威の対象の正体を不明にする方が恐怖の質が不安や心配に近づいていきますからね

──不安や心配、つまりよりホラーっぽくなっていくということですね!

そうですね。またtaleよりはSCP報告書の方がこの点は有利かもしれませんね。報告書なので生々しい情報を削ぎ落とし客観的な情報だけにすることによってすごく淡白な印象にすることができます。情報が少ないと起きている事象の具体性が下がり、より不安や心配っぽくなります。報告書のような簡素な情報では脅威の対象の正体不明度が上がります。

──報告書形式なら情報量を自然に絞ることができますね。

しかし画像や会話記録をつけることで情報の具体性が上がります。こうすると正体不明度が下がりますが、逆にリアリティが上がります。つまりどっちの戦い方でも恐怖を担保することは可能です。

──理解できなさで不安を煽るか、リアリティで身近さを煽るかということですね。

また内容によっては具体性を上げても正体不明度を保つこともできます。意味分からない化け物の写真や、合理性を欠いた会話記録は具体的かつ意味不明ですからね。

──なるほど。ありがとうございました。かなり恐怖という要素を分解して捉えられているように感じましたが、コンテスト参加作品から学び取り、こういったことの言語化につなげられたわけですね。

はい、まさに仰る通りです。

恐怖コンはとてもストイックなルールだった

──冒頭でも軽く触れられていましたが、今回のコンテストルールは従来のものと少し趣が違っていたと思います。この点著者の方々の間でも議論になられていましたが、その点どうお考えですか?

「読者を恐怖させる記事を書いてください」というやつですよね。それまでは「○○という言葉をテーマに記事を書いてください」って感じでしたが、今回にその法則をあてはめると「恐怖という言葉をテーマに記事を書いてください」って感じでしょうか。そうですね、この2つでは大きく事情が違ってきますよね。

──困惑されていた方が多かったと伺っています。

まず良かった点でいうと、従来のものより強制力があった分、本来なら挑戦できなかった分野に飛び込んだ著者も多かったのではないかなと思います。自分自身そうでしたから。先ほど申し上げた通り僕はホラーを書くのが得意ではなかったので、従来の方式のルールだったら間違いなく恐怖を題材にして怖くない記事を書いていたと思います。結果的には良い結果を残せましたし、自分の守備範囲も広がった感覚があるので、ここは今回のコンテストに本当に感謝しています。

──今回のコンテストルールでなければ全国一斉霊的感知力テストは生まれなかったということですね。

はい。一方でやはり難易度の高いルールではあったと思います。今回のコンテストは、なんというか、仕事っぽいストイックさがあるんですよね

──仕事ですか?

例えば作品を作っていく段階を、何を主題とするのかという「発想」、具体的にどういう中身にするかという「手段」、最終的にどういう作品にしたいかという「着地」の3つに分けるとするじゃないですか。従来のコンテストはテーマが決められているだけなので、発想のみがやや縛られていて、それ以外が自由って感じですよね。それに対して今回のルールは着地が縛られて他が自由って感じなんじゃないかなと思うんです

コンテストルールについて説明するdrikara氏

──従来のテーマは最終的にどんな作品になっても良かったですが、今回のルールでは最終的に怖いと思わせなきゃいけないですもんね。

従来のコンテストは創作サイトの公募や学校の課題に近い状況ですね。一定の縛りは与えるんですけど、これはむしろ足がかりになる。例えば個人で物を作っているアーティストとかはどんな作品を作るか0から考えなければいけない。そのように発想すら自由だと逆につらかったりしますからね。

──全て自由にやっていいよと言われると結構大変なんですね。

そうですね。何食べたいか聞いても何でもいいと返されてしまったお母さんみたいな状況というか(笑)がっつりよりはさっぱりがいいかなとか、多少ガイドがあった方が考えるコストが低くなる場合がありますよね。

──いつも母親に何でもいいと答えていたので、今更申し訳ない気持ちになってきました(笑)

あとはある程度似たジャンルのものが揃うと比較もしやすい。これは選考しやすいということよりも、読者や著者が同じ話題でわいわい盛り上がれるお祭り感を担保できるというような感じでしょうか。とにかくテーマを設定することには縛りとしての機能はあまりなく、むしろ創作をしやすく、楽しみやすくする装置なんじゃないかなと思うんです

──では今回のルールはいかがでしょうか?最初が縛られている状況が最後に変わっただけで、自由度はあまり変わらないのではと思ってしまうのですが…。

今回のルールはゴールが指定されているわけですが、このルールには課題に答えてクリアしなきゃいけないという感じが多少なりともあるのではないかと思います。走り出した方向性がそのゴールとマッチするか分からないので、ずっと狙って走らなきゃいけない。そうなると全体の自由度も下がっていきます。創作の要素の一つに自己表現というのもあると思うんですけど、これが薄くなりやすいですよね

──そういったあたりが仕事っぽいということでしょうか?

はい、仕事上では極論自分が何をしたいかって関係ないですからね。もちろん自分のやりたいことを併せて実現するということもできますが、そうなるとさらに難易度が上がってしまいます。

──今回のルールの難易度の高さが伺えますね。

ただ難しかっただけというわけではなくて、こういう難易度の高いルールは競技性が高いとも言えます。スポーツにも性質が近いかもしれません。求められたものをクリアしてやろうという自由な創作とはまた違った楽しさがある。先ほどの仕事の例えで言うと、僕は仕事でちょっと厳しめの制約が多いオーダーが来るとどうやってクリアしてやろうかワクワクするタイプなので、そういった部分を刺激されるルールでもありました。

──従来とは違った楽しみ方ができるコンテストだったということですね。

そうですね。個人的にはそういった部分もすごく楽しかったです。そしてもう一つ触れておきたいこととして、ルールの難易度が上がるにつれ、記事のクオリティとルールへの合致が半ばトレードオフの関係になっていく点があります。もちろんどちらもバッチリ満たしている記事が優勝すれば問題ないんですけど、そうじゃない場合もあるかもしれません。ルールが厳しくなればなるほど、クオリティはそこまで高くないけどルールに合致してる記事、もしくはクオリティは高いけどルールに合致してない記事が優勝する可能性が高まるわけですよね。決選投票で全員マイナス得票の末優勝とかも全然あり得るわけで。

──今回はその懸念は実現しなかったようで何よりです。

決選投票でマイナスになった記事も素晴らしい記事であることには変わりません。でもやはり今回のコンテストで求められているものに相応しいと皆が思う記事に優勝してほしいじゃないですか。これはイベント運営さんが留意すべきことでもあると思いますし、同時に著者が期待に応えられないとイベントが盛り下がってしまうという我々にかけられたプレッシャーでもあります

コンテストルールについて説明するdrikara氏

色々意見を申し上げましたが、結果的に僕はこのコンテストに肯定的な立場です。シンプルに楽しかったですし、今後もこういった方針のコンテストを開いてほしいと思っています。競技的な面白さに加えて、著者の守備範囲を拡張することにもつながりますし、そして何よりhannyahara(*4)さんの総評にあった「通常の文芸サイトでは考えられない程幅広い表現が可能なこのSCP財団という場で、ホラーの新しい形を見てみたいと思った」というのがすごい良いなと思いました。個人的にはやはりSCP財団には今後もアマチュアホラー創作の最先端であってほしいなと思います

*4…SCP財団日本支部の管理者。

最後に

──本日は貴重なお話ありがとうございました。とても興味深く拝聴させていただきました。このお話はnoteに妄想のインタビューとして掲載させていただきます。

ありがとうございました。インタビューされたいからインタビュワーを捏造するなんて、図らずも相談役みたいになっちゃいましたね。最後に金ヶ森さんが「次は何がほしいですか?」って言い出したりして(笑)

──いえいえ、そんなことはありませんよ。こちらもちょうどインタビューさせてくれる人を探してましたから。

え?

──私、雑誌記者に転職したいんです。けど未経験の職種なので一度こういうの経験してみたかったんですよ。

どういうことですか?

──drikaraさんは私にとっての練習相手だったわけです。

えっ、だって、金ヶ森さんって僕の想像の中の人ですよね?

──drikaraさんにはそう見えてるんですね。どちらにしろ非常に助かりました。この記事が役に立てば嬉しいです。それじゃあ、執筆頑張ってくださいね。


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