読んだものメモ

アダム・ネヴィル「What God Hath Wrought?」、ラムジー・キャンベル「The Gap」、マシュー・G・リーズ「The Griffin」「The Comfort」「Bait Pump」「The Dive」「Sand Dancer」、皇帝栄ちゃんさん「ロボットの心」を読んだ。

「What God Hath Wrought?」
とてもよかった。
舞台は1848年のアメリカ。
主人公は、かつて竜騎兵として戦争に参加していた。戦後、故郷の町にもどると、ほとんどの住民が姿を消しており、唯一の家族である妹もいなくなっていた。
近くの町で得た情報によると、疫病が流行った際に預言者を名乗る男がやってきて、住民を救ったのだという。だが、こうして病から回復した者たちはもはや人間ではなかった。似非預言者は町中の女をめとり、住民を連れ去り、約束の地へ向かったらしかった。
主人公はその男に復讐すべく、一味を追跡し、かつて人間だったものたちを倒していく。そのなかで判明したところによると、似非預言者は、ある洞窟で「天使」と呼ばれる存在と接触し、忌まわしい力を授かったという。その「天使」は、大昔からネイティブアメリカンを食らっていた怪物たちだったが、戦士の手でほとんど撃滅された。だが、彼らはなぜか最後の一体を殺さず、件の洞窟に封印したのだった。似非預言者は欲に目がくらんで、封印を解いてしまい、魂だけとなっていた天使に乗っ取られたのだ。
主人公は戦いをつづけるうちに、ついに似非預言者一派の本拠地の近くまでやってくるが……。
クトゥルー神話用語が出てこないコズミックホラーと西部劇が融合したような作品。驚くべきは、両方の要素が喧嘩せずにうまくかみ合っているところで、恐怖とかっこよさを見事に両立している(敵の様子を探りながら、手元を見ずに銃をリロードするなど、ディテールが本当にかっこいい)。後半はとくにアクション多めで、読んでいるときは時間が経つのを忘れたほどだった。

「The Gap」
こちらもとてもよかった。
主人公はジグソーパズル好きのホラー作家で、魔術にまつわる長篇を完成させたところだった。
そこに友人の作家夫妻が新人作家のカップルを連れて泊まりにくる。この新人作家は魔術を研究しているらしく、レストランで不可解な力を見せたりするが、早朝に書斎に侵入して原稿を漁っており、主人公は激怒して全員を家から追い出す。
その後、差出人不明の箱が届く。なかにはジグソーパズルが入っており、主人公は友人が謝罪のつもりで贈ってきたのかと考える。だが、パズルの絵柄に気がついた途端、不安を覚える。それは書斎の写真で、彼自身も写っていたが、いつ撮られたのかはまったくわからなかった。彼の背後にはデニム姿の男がこっそり忍び寄っていたが、頭のピースが欠けているせいで、正体はわからず……。
ジグソーパズルを題材にしたホラー。ピースの欠落というごく日常的な出来事が途方もない恐怖につながっていくさまは、まさにキャンベル氏ならではといえる。怪物も出てくるし、最後の最後まで不気味だし、とても完成度が高い作品だと思う。

「The Griffin」
主人公は大学生時代、道に迷ってある酒場にたどりつく。そこは奇妙なほど古めかしく、コーラの値段も安かった。彼は酒場を出たあと、大学の先輩に尋ねてみるが、そんな酒場は知らないと言われる。後日、その場所に行ってみると、酒場などどこにもなく、何年も空き地のままになっているようだった。
彼はたびたびその酒場に遭遇し、給仕と恋仲になるものの……。
神出鬼没の酒場というアイデアがおもしろい。それも主人公がたまたま酒場に出くわすのではなく、酒場のほうが主人公を見つけて姿を現すというのが変わっている。

「The Comfort」
主人公は、人生に意味を見出せぬまま年を重ねていた。ある日、彼はネットで〈安息館〉という廃墟を見つけて心を惹かれ、そこを購入する。
屋敷はひどい状態で、玄関の扉は開かなかった。壁紙も朽ちていたので、寝室のひとつでそれをはがしていると、壁には女性の絵が描かれていることが判明する。
その後、彼は庭で生い茂る草木を刈りとろうとするが、相手は手ごわく……。
廃墟の壁の絵が露わになったのをきっかけに、灰色の現実が変貌を遂げていく話で、月夜の空を全裸で飛びまわるラストがシュールだった。

「Bait Pump」
主人公は海辺の町で子ども時代を過ごした。そこに戦時中につくられた〈砦〉という構造物があり、主人公と友人のディークの遊び場となっていた。だが、ある年の夏、ディークは行方不明となり、やがて水死体として発見される。
その年の夏は海が後退するという異常な現象が起きていたこともあり、町民は気が立っていて、主人公も疑いをかけられる。彼は家族旅行で町に来ていた子どもと友達になり、〈砦〉に連れていくという約束をするが……。
正直、この話はよくわからなかった。子どもは海を取りもどすためのいけにえなのかなと思ったけど、いまいちはっきりしない。アーケードのゲーム台の描写はノスタルジックでよかった。

「The Dive」
主人公の老人はプールに飛び込むが、いつもより勢いがつきすぎて、指が排水口にひっかかってしまう。彼のあがきもむなしく、指は抜けないままで、頭にはこれまでの人生や幻が去来しはじめる。
これもおもしろさがいまひとつわからなかったのだが、おじさんの脳内に現れる光景は幻想的だった。

「Sand Dancer」
おもしろかった。
主人公は金属探知機で浜辺を探るのが生きがいで、町の人間からはたびたび嘲笑されていた。
ある日も探知機の反応に従って砂を掘っていたが、そこで出てきたのはドイツのUボートで、ハッチからはトラウトマン艦長と名乗る男が姿を現す。彼によれば、第二次大戦中にウェールズの入り江を探っていたのだが、嵐に遭って砂に埋もれてしまったらしく、水が不足しているという。
潮が満ちてきたので、主人公はとりあえず引きあげる。おじが戦死していたので、乗組員を助けることに対しては複雑な気持ちだったが、最終的にボトルに水を詰めて浜へ向かう。
砂浜の下に埋もれたUボートというのが超現実的でおもしろい。主人公は結局海に沈んでいくんだけど、その前に艦長や乗組員と交流しているためか、結末は穏やかだった。

「ロボットの心」
「星露の探求」の第三話。テーマは題名の通りで、貴族趣味の科学者の恋人ロボットが登場し、星と露は彼女の悩みを解決しようと知恵を絞る。
機械の心という題材(そして心とはそもそもなんぞやという問題)はとても奥が深いものだけど、本作がすごいのは、議論を深めつつも、ちょうどいい長さにまとめあげているところだと思う。心は生物のみに宿るという星の考えも、機械でも(超科学を使えば)心を持ちうるという露の考えも否定せず、なおかつロボットの悩みもちゃんと解決しているのがよかった。
以下のリンク先で読めます。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18177971

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