読んだものメモ

 W・F・ハーヴィー「Mrs. Ormerod」「Double Demon」「The Tool」「The Heart of the Fire」、ロード・ダンセイニ「The Golden Gods」を読んだ。

「Mrs. Ormerod」

 ある婦人が友人へ向けて書いた手紙という体裁の話。
 語り手の「わたし」が知り合いのインチペン夫妻の家に押しかけると、そこにはミセス・オームロッドという家政婦が働いていた。夫妻のところに滞在しているうちにわかってきたが、この家政婦は恐ろしい人物で、夫妻を操って家事をやらせ、自らの子どもさえも動物のようにしつけ、こき使っているのだった。
 「わたし」は家政婦を解雇するようインチペン夫人にすすめるが、そんなかわいそうなことはできないと断れられ、インチペンもあいまいな答えしか返さない。
 「わたし」が帰る日、車中でインチペンはオームロッドを解雇すると話すが、その後の手紙によると、彼は帰途で、オームロッドに呼ばれて飛び出した子どもをはねて大けがを負わせてしまったらしく、結局そのまま雇っているということだった。
 ミセス・オームロッドは一見穏やかそうな人物なんだけど、インチペン夫妻をすっかり丸めこんだり、子どもを働かせたり、湯たんぽに細工をして布団をびしょ濡れにさせたりとかなり悪辣で、読み終わってもいやーな味が残った。

「Double Demon」

 主人公のジョージは姉とその看護人の婦人を殺そうと考えていた。そこで、看護人には姉を殺そうという話を持ちかけ、姉には看護人を消そうと話し、ボート遊びに誘う。両方ともいっぺんに片づける計画なのだった。
 だが、当日、昼食のあとにジョージの姉のかかりつけ医師がやってきて、精神に異常があるとしてジョージを連れていく。
 うまくだましおおせたと思ったら、だまされていたのは主人公だった……というオチのようで、皮肉ぽいところがおもしろい作品だった。

「The Tool」

 おもしろかった。
 牧師補の「わたし」は荒野へ徒歩旅行に出たことがあった。そのときにひとっ子ひとりいない丘で外国人の死体を見つける。通報しようと最寄りの村へ向かうが、犯人とまちがわれるのではないかと考えて、結局とりやめる。彼はその日は土曜日だと思っていたが、宿に帰るとおかみから日曜日だと知らされる。さらに、自室にあった雑誌を読んだとき、主人公が恋敵を殺す場面の挿絵についていた、「その光景を忘れられるならなんでも差し出しただろう」というキャプションを読んでひどく不安になる。
 月曜日(だと「わたし」が思っている日)、彼はまた丘に出かけるが、死体はなかった。宿に帰って雑誌を見ると、例のページもやはりなく、すべて幻覚だったのだと安心する。だが翌日、カレンダーには水曜日と書かれており、再び記憶が飛んだことを知る。しかもおかみによると、「わたし」は月曜日に鏝を持って出かけたという。不安になって雑誌を調べてみると、例のページには破り取られた跡が!
 記憶が失われていると判明する前にも、それとなく疑問を抱かせるような描写がちょいちょいあって、たくみに読者の不安をかき立てている。一連の不可解な出来事を神からの使命だと解釈して説明しようとする、語り手の倒錯した狂気もなかなか怖い。
 本作には邦訳があって、「道具」(八十島薫 訳)の題で〈幻想と怪奇〉1973年11月号に収録されているぽい。

「The Heart of the Fire」

 古い旅籠である〈ムアコック〉の名物は、台所にあるこれまた古い暖炉で、マントルピースには、この炉床に火があるかぎり、幸運の女神がこのエイズラビーの家にほほえむという詩が刻んであった。
 かつて〈ムアコック〉が繁盛していたころ、宿の主である野心家のエイズラビーは、夜にある客を迎える。その男はやたらと大きなかばんを大切そうに持っており、おどおどしていた。彼はエイズラビーのすすめも聞かずにすぐ出て行ってしまうが、落馬してまたもどってくる。暖炉のそばで寝たいというので、エイズラビーは毛布を取りに行くが、もどってきたときに、男がかばんの金貨を数えているのを目撃する。
 男が眠りこんだそばでエイズラビーは暖炉の火を見つめ、その声を聞いて男を殺害し、死体を炉床の下に埋める。
 以後、エイズラビーはその金で財を成し、地元の名士となるが、時が経つにつれ金はなくなっていき、〈ムアコック〉もさびれていく。それでもエイズラビーは暖炉の火をずっと見つめており、やがて台所で寝るようになる。
 高齢になったある日、彼は息が苦しくなって倒れるが、それでも暖炉に燃料をくべようとする。そうしているうちに足音が聞こえてきて……。
 幽霊の姿そのものは出てこないけど、ゴーストストーリーっぽかった。殺された男がすぐに化けて出るわけではなく、エイズラビーが豊かになり、死を迎えるというタイミングでやってくるあたりが独特でおもしろかった。

「The Golden Gods」

 ジョーキンズもの。
 その昔、彼はアルプスの麓の村で、流しの歌い手がサハラ砂漠の山に眠る財宝についてうたっているのを聞く。そのあたりは行ったことがあったので、知り合いのアラブ人ハンターと合流の手はずを整え、さっそく出発する。
 彼は財宝を独り占めしたかったので、ハンターたちにはなにも言わず、アルイ(高地に住む羊)を狩りに行くということにしていた。砂漠を進んでいくと、本当にその山々は存在しており、日暮れ時にはこの世ならぬ美しさを見せるのだった。
 しばらく狩りをした後、ジョーキンズはうまいことハンターたちにうそをついて、自分ひとりで宝のある高峰に登る。途中、岩が落ちかかるという出来事に遭いながらも、無事に宝の洞窟に行き着く。そこには黄金の神像が三体鎮座しており、その前には宝石の入った鉢と、呪いを記した巻物が置いてあった。ジョーキンズはサファイアをごっそりいただいたが、それにかけられた呪いは、夢で登山の記憶に悩まされるというものだった。
 夜になり、彼が眠っていると、本当に岩が落ちかかる場面が夢に出てきて……。
 だれによって、なんのために建てられたのかも判然としない異教の神像と、そこに置かれた財宝、それを盗んだものにくだる不可思議な罰という、初期のダンセイニ作品ぽい要素が出てきておもしろかった。ジョーキンズが文明批判ぽいことをしゃべりつつ、それとなくウイスキーのおかわりを催促する(たぶん催促していると思う)場面では思わずにやりとしてしまった。

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