Cory Wong初来日!「どこよりも詳しい」ライブレポート
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、46回目の連載となる。では、講義をはじめよう。
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2023年7月29日、フジロックフェスティバルの2日目、夜の9時。会場の最奥となるステージ、FIELD OF HEAVENにて、Cory Wongの初来日ライブが行われた。
当マガジンの読者…そして、もちろん私にとっても、これは長年待ち望んできた、記念すべき瞬間であった。
Coryは2020年にもフジロック出演が決まっていたが、コロナ禍によってそれがキャンセルになったため、今回は3年越しのリベンジ。満を持しての初来日となっていた。
今回の記事では、そんなCoryの初来日を、私の個人的体験をベースに、ライブレポートとしてまとめていきたい。
Cory Wong相関図を渡しに行く
私にとってこのフジロックは、非常に特別なものだった。なぜなら、Cory Wongに会うというミッションが課されていたからだ。
私は今年のフジロックに向けてCory Wong相関図というものを作り、それを公開していた。これはCoryの許可を得て公開されており、その許可を得る過程で、私は本人に
「相関図をフジロックで渡したい」
という意思を伝えていた。彼の返事はOKで、それは非常に嬉しかったが、実際にタイトなスケジュールの中、本当に私に会ってくれるのか?という不安は尽きなかった。
そして迎えたライブの日、2023年7月29日、昼の12時半。
多くの幸運に恵まれ、私はついにその時を迎えた。
Coryは相関図をとても気に入ってくれて、何度もその内容を褒めてくれた。――こんな嬉しいことがあるだろうか?
私はVulfpeck公式の赤いサウナハットを被っていったので、Coryが「君はジャックに似ているね」と言い出し、自分のスマホで私のことを撮影した。Vulfpeck愛を伝えるためにサウナハットを被ったので、これも非常に喜ばしいことのひとつだった。
握手をし、肩を組んで写真を撮影してもらい、大興奮のうちにその時は過ぎ去った。この場を借りてCoryと、手を貸していただいた方々に最大限の感謝を伝えたい。
こうして最大のミッションは終わったが、今日という日が終わったわけではない。――メインディッシュはこれからなのだ。
初来日ライブ
フジロックは天気が不安定なことで有名。大雨のなかでその時を迎える可能性もあったが、幸いなことに、2023年7月29日の苗場は、一度も雨が降ることなく過ぎていった。
昼は焼けるような灼熱だったが、夜になると少し肌寒くなってくる。
だがそれも、FIELD OF HEAVENの熱気があれば気にならなかった。UAの素晴らしいライブが終わり、私は可能な限り、ステージ前まで移動した。ステージ前はすでに人だかりができており、私は最前列から数列後ろに陣取った。
FIELD OF HEAVENはフジロックの中では比較的小さめのステージだが、それでもキャパ(会場に入れる人数)は5000人。今回のCoryはヘッドライナー(最後の出演者)なのだが、果たして5000人もCoryを観にやってくるのだろうか…というのは、少しの不安としてあった。
Coryの知名度が不足しているかどうか、という話ではない。実はこの時間、メインのGREEN STAGEでFoo Fightersが、2番目に大きいWHITE STAGEでLouis Coleが演奏していたのだ。
特にFoo Fightersに至っては時間がほぼ完全に被っており、これらの誘惑を断ち切らないと、Coryのステージは観れなかったのである。タイムテーブルのいたずら、フェスの醍醐味と言えなくもないが、それが集客に影響を及ぼすことは十分に考えられた。
――だが、待っているうちに、もしかしたらそれは杞憂だったかもしれない、と思うようになった。
人だかりがどんどん大きくなっているのである。
私は前のほうにいるが、まったく最後尾が見えない。まだライブは始まっていないのに、気づいたらどこまでも人で埋め尽くされている。3年越しのリベンジ、皆の高まった期待が、このFIELD OF HEAVENに集まり、巨大な渦となっているのが感じられた。
すると――。
ステージにキーボードのKevin Gastonguayが現れた。鍵盤を調整している。と思ったら、後ろにトロンボーンのMichael Nelson、サックスのKenni Holmenもいる。まだライブまで30分もあるのに。
と思った瞬間、割れんばかりの歓声が巻き起こった。
なんとCoryが出てきたのだ!
ステージ衣装に身を包み、笑顔で客席に手を振る。ギターを手にして準備をしていると、いつの間にか他のメンバーもステージに立っていた。そのままサウンドチェックに入る。
なんとここで演奏されたうちの1つが、Steely Danの「Black Cow」(1977) だった。
VulfpeckやCoryがSteely Danが大好きだというのはこれまでの発言やカヴァーなどで明らかになっていたが、サウンドチェックで演奏するほどにそれがバンドの共通言語になっているとは。
サウンドチェックが終わり、バンドが袖に消えていく。それを見ながら、私はさっきのCoryが現れた瞬間の歓声を思い出していた。
これだけ多くの人間がCoryを望み、憧れ、その演奏を心待ちにしている。Foo Fightersの誘惑を断ち切って。――なんということだろう。彼が日本で愛されていることが、肌で感じられた。
そして、改めて思う。これから始まるライブは、ただのライブではない。
私たちの記憶に永遠に残る、伝説のライブになる。
時刻は9時。いよいよその時がやってきた。
時間ぴったりに、バンドがステージに現れる。それだけで、会場は興奮のるつぼだ。地を揺るがすような大歓声、もはやどれだけ人が集まっているのか想像もつかない。
皆の期待を一身に受けて、ついにライブが始まった。
最初の曲は「Flyers Direct」。
もともとはThe Fearless Flyersで作曲された曲だ。Coryはこれを自分のバンドに持ち込み、管楽器を入れ、さらに高速ファンクとしてアレンジしている。この曲はライブの1曲目に選ばれることが多く、今回もその流れでライブがスタートした。
始まった瞬間から、120% Cory Wongと言わんばかりのステージに、思わず胸が熱くなる。
信じられないくらいタイトなファンク、Tower Of Powerばりに豪華なホーンセクションによる縦横無尽のアレンジ。そしてそれらを束ねているのは、中央でひたすらカッティングを続ける男なのだ。
これがCory Wong。ヴォーカリストでもない、速弾き系のギタリストでもない。リズム・ギタリストというスタイルでバンドをまとめ上げるこのスタイルは、もはや他にはNile Rodgersぐらいしかいないだろう。
そして、そのカッティングのグルーヴ!これを聴くためにここにやってきたのだ。我々が長年求めていたものがここにある。あのカッティングを、直接この耳が聴いている。この喜び!
次は「St. Paul」。
その次は、「The Grid Generation」が演奏された。
「The Grid Generation」は、フジロックの数日前に発表された曲で、音源のゲストはLouis Cole。本来であれば一緒にフジロックに出演したLouisがライブにも参加したかっただろうが、今回は同じ時間でLouisがWHITE STAGEに出演していたため、それは叶わなかった。
だが、いかにもフェス向きな、シンプルに盛り上がるこのファンクが、たとえLouisがいなくても会場のボルテージを上げていく。ドラムのPetar JanjicもまるでLouisのように、マシンガンのごとくタイトなグルーヴを刻んでいく。
そして「Bluebird」「Let's Go」「Massive」と続いていく。
「Let's Go」はもともとCoryの「Airplane Mode」という曲をベースに、VulfpeckのJack Strattonがアレンジを行った曲。CoryとVulfpeckの共作とも言えるような曲で、さきほどの「Flyers Direct」同様、Vulfファミリーの遺伝子を感じられる曲だ。
今回のCoryの初来日ライブは、実はこうしたVulf関係の曲が、初めて本家のメンバーによって複数演奏される機会となっていた。過去のCoryライブのセットリストから、こうしたVulf関係の曲がたくさん演奏されるであろうことは十分に分かってはいたが、実際にこの耳で、生で聴くと、その感動は語り尽くせないものがある。
そして本家といえば、この曲。次は「Cory Wong」だった。
この曲が演奏されたことが、私にとってはライブ前半のハイライトとなった。
Cory Wongが演奏するCory Wong。Vulfpeckのマディソン・スクエア・ガーデンでも演奏された、モニターアンプに足を乗せて弾く「あのカッティング」。その本物の演奏を、いま聴いている!筆舌に尽くしがたい感動があった。
さらに言えば、この曲はもともと10年前、出会ったばかりのVulfpeckとCoryによるセッションによって生まれた曲。👇
それがいま、10年の時を経て、ついに日本で演奏されている。これもまた感動を呼んでいた。あらゆる面において、この曲が本人によって演奏されたことは非常に深い意味を持っていたのである。
次の曲は「Separado」。
この曲に限った話ではないが、今回のCory Wongバンドを観て強く感じたのが、バンドの面白さ、エンターテインメント性の高さだった。
メンバー全員が客席を飽きさせないように、表情や動き、プレイなどにユーモアを交え、そしてとても楽しそうに演奏している。
ヴォーカルがいないインスト・バンドにおいて、どうやって観客の興味を持続させるか?というのは非常に難しい命題なのだが、Coryバンドは個人個人が繰り返しユーモアを挟み込み、ライブをエンターテインメント化することでそれを解決していた。
Coryはステージを縦横無尽に動き回り、彼がドラムの前に行くとドラムが激しくなり、またキーボードの前に行くとキーボードが激しくなる、といった視覚的な面白さを追加。
同様にホーン隊も音が上がったり下がったりするのに合わせて手を振ったり、
特にドラマーのPetar Janjicに至っては、動きだけでなく、緩急をつけたユーモアのあるプレイが素晴らしかった。
激しいドラムソロの中に一瞬とても静かなパートを入れ、それを大げさな表情・動きでアピールしてみたり👇……。
Petarのドラムはかなりバンドのエンターテインメント性に寄与しており、これは実際にライブを観たことで実感できた大きなポイントだった。これらはCoryのフォロワーとしてギターや楽器を演奏する多くのプレイヤーにとっても、非常に参考になる部分なのではないかと考えられる。
そして次は「Lunchtime」。ここで、ライブ前日に発表されていたゲストが登場となった。ギタリスト、シンガーソングライターのReiである。
バンドの定番曲として演奏される、超高速ファンク。非常に難易度の高い曲だが、難なく合わせていくRei。さすがと言わざるを得ない。
バンドも明らかにギアが上がり、一緒に日本のギターヒロインを支えていく。ベースのYohannes Tonaやホーン隊もステージ前に出てきて、大盛り上がりで曲が終了した。
(Reiはアルバム「QUILT」(2022) でCoryと2曲コラボレーションしているので、今回のゲスト参加に繋がったのである)
ここで上がり切った会場のボルテージをいったん下げるかのように、「Meditation」が演奏された。
これは「Home」という曲と並び、ライブ中盤に演奏されるバラード。イントロにCoryのギターソロが演奏されるのが常なのだが、今回は直前の会場のテンションが上がりすぎていたからか、静かなイントロが非常に長く演奏された。
この瞬間は――息を吞むほどに美しかった。照明も落ち、苗場の夜の森の中で演奏される、瞑想的なチルギター。
目を閉じると、宇宙が観える。永遠にこうしていたいと思わせるほどの解放感。まさに「FIELD OF HEAVEN」に相応しい時間だったと言える。
イントロからバンドインすると演奏は徐々にヒートアップし、最後はロックなギターソロで曲は大団円を迎える。こういったバンド全体での緩急の付け方もまた素晴らしかった。
次は「Smokeshow」。ミドルテンポで、比較的ゆったりとしたグルーヴのフュージョンだ。
こちらもVulf関連の曲。Vulfpeckのキーボード、Woody GossとCoryが共作した曲である。
この曲ではサックスのイントロが演奏されるのが常で、今回はAlex Boneが担当。
Alexは比較的最近ツアーに参加したメンバーだが、若さ溢れるフレッシュな動き、プレイでバンドを牽引できる名プレイヤー。「Smokeshow」ではジャジーなイントロだけでなく、テーマのメロディーやソロも担当。
この曲はホーン隊の曲でもあるので、Alexや他のメンバーも曲中はよく動き、最後はサックスのKenni Holmenのソロを中心に、ホーン隊5人だけでエンディングを迎えていった。
次は「Welcome 2 Minneapolis」。この曲もライブ定番となるファンクで、原曲はCoryが初めてリリースした2016年のソロアルバムに収められている。
イントロからCoryお得意のカッティングが鳴り響き、それをリズム隊が的確にサポートしていく。
実は今回、来日メンバーがフジロック公式サイトの発表と一部異なっていたのだ。それがAlex Boneの参加と、ベースがSonny T.ではなく、Yohannes Tonaだったことである。
Sonny T.をいつも動画で見慣れていたファンが多かったと思うので、がっかりした方もいるかもしれないが、私はそれは違うと伝えたい。Yohannes Tonaの参加は非常に大きな意味を持つのだ。
実はCoryは、2013年ごろに大学を卒業したあと、大学の友人たちとバンドを組んでしばらく活動していた。それが当時はほぼ無名だった、「Foreign Motion」である。
これはメンバーがギターのCory Wong、ドラムのPetar Janjic、キーボードのKevin Gastonguay、そしてベースがYohannes Tonaという4名のバンドだった。
ここまで読んできたあなたならもうお気づきかもしれない。
今回のCory Wongバンドのリズム隊が、この10年前の「Foreign Motion」のメンバーとまったく一緒であることに。
しかも、ベースのYohannes Tonaは常にCoryのライブに参加しているわけではない。どちらかというと参加はレアなほうである。
実は今回、私が昼にCoryに会ったときは、とあるメディアのインタビューに帯同させてもらってのことだった。その際、「Foreign Motionのメンバーが揃って今日も演奏できていることをどう思いますか?」という質問に対し、明らかにCoryのテンションが上がっていた。よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、懐かしそうにKevinと初めて会った時のことを語るCory。やはり彼にとって、このメンバーで演奏できることは重要な意味を持っているのだ。
そんな貴重な編成で演奏されたCory Wongバンド。大学時代の友人と組んだバンドが、名前を変え、今や世界をツアーしているのだ。そんなバンドを今回我々は聴くことができたのである――例えSonny T.がいなくても、何の不満があろうか。むしろ、彼らの深い友情とお互いへの尊敬を、こうやって生で観ることができて、私はとても感慨深かった。Vulfpeckが大学の友人たちで結成されて、いまだにその友情が続いているように――Yohannes TonaがいるCory Wongバンドも、その友情の証になっているのである。
Cory「最後にあと2曲、演奏しよう」
そう言って演奏された曲は、まず「Asassin」だった。
この曲も元はThe Fearless Flyersで作曲された曲で、Coryが自分のバンド用にアレンジして演奏しているものである。
これぞ超・超・超高速ファンクで、最近ではライブの中でもっとも速い曲になっている。ありえないくらいのスピード、しかし全くタテのラインが崩れない。
しかもこのスピードの中でも、ホーン隊は涼しい顔で、空いている手を振ったり挙げたりしている。もはや人知を超えた感のあるクオリティ、間違いなくいま世界一のファンクバンドのひとつに数えられるだろう。
狂乱のスピードに会場のボルテージは最高潮に。エンディングではさらにスピードが上がり、限界の限界に挑戦し、爆発するように曲が終わった――その瞬間。
「Dean Town」が始まった!!!
これはVulfpeckでもイントロとメロディが観客によって大合唱される曲で、Cory Wongバンドではホーン隊による豪華なアレンジが施されている。
私は今回のCory Wong初来日で、この「Dean Townを歌う」という瞬間を非常に心待ちにしていたので――曲が始まった瞬間、何か意味の分からない絶叫を上げていた。
Coryもジャンプし、手を上げて客席を煽る。分かってるよな?と言わんばかりの動き。もちろん、分かってる。そのために、何年も何年も、ずっと聴いてきたのだから。
そして、みんなで合唱する。
「オーーーーーーーーーーーーー👆」(合唱)
「オーーーーーーーーーーーーー👇」(合唱)
「オーーーーーーーーーーーーー👆」(合唱)
「オーーーーーーーーーーーーー👇」(合唱)
会場の盛り上がりも異様だ。皆思い思いに手を掲げ、歌い、間違いなく今日一番盛り上がっている。これから始まる瞬間に、期待が爆発し、燃え上がっている。さぁ、次はベースによるテーマのメロディだ。
来る!
来るぞ!!!
「パパラパラパラパン!!!」(合唱)
「パッパ!!!」(合唱)
「パパラパラーパッパッパラー!!!」(合唱)
ここまでは良かった。
「パーぱらぱららら…ぱらぱらら…ぱら…エホッエホッ💦」
――なんと、声が出ない!
当たり前である。ここまでずっと叫んできたのだ。
やれCoryが出てきて叫び、ギターを持ったら叫び、ソロを弾いたら叫び、カッティングしただけで叫び、
誰かがソロを取っても叫び、曲が終わっては叫び、また始まったら叫び、
しかも今日も他のバンドを観るときも、沢山叫んできたのだ。
今さら歌えるはずがなかった。
しかし一部の観客は、難しいメロディも歌いこなしていく。二回目のテーマからはCoryとホーン隊も加わり、さらに豪華な演奏になった。
テーマが終わると、拍手と大歓声。ここでソロではなく、グルーヴだけで進んでいくリズム・パートが演奏される。本来であればここは観客は歌ったりしないはずなのだが、今回は皆が自発的にイントロと同じメロディを歌っていた。これは私にとって予想外のことだった。
「オーーーーーーーーーーーーー👆」(合唱)
「オーーーーーーーーーーーーー👇」(合唱)
「オーーーーーーーーーーーーー👆」(合唱)
「オーーーーーーーーーーーーー👇」(合唱)
何百回と聴いてきた曲が、自分の想像になかった動きを見せている。この瞬間、自分がいまCory Wongを、Vulfファミリーの演奏を生で聴いているのだと、強烈に感じられた。これがライブであり、この瞬間にバンドと観客によって生まれた、その場かぎりの新しい音楽体験なのだ。
そしてまた、このリズム・パートでCoryが弾くリズム・ギターも、Vulfpeckのマディソン・スクエア・ガーデンなどでも演奏された伝説のパートである。いま自分はまったく新しい体験をしながら、同時に何百回と聴いてきた演奏を生で体験している。複雑に絡み合った歴史と現実の洪水に、もはや私の情緒は限界を迎え、ただワーとかギャーとか意味不明な雄たけびを上げるケダモノと化した。
ふたたびテーマに戻り、皆で合唱し、曲が大団円を迎える。そのままバンドは笑顔で袖へ消えていった。
――照明が付かない。
なんと、アンコールがあるのだ!なんということだろう!
皆で拍手をし、その瞬間を待つ。体感的にはとても長く感じられたが、おそらく一瞬だったのかもしれない――バンドがまたステージに戻ってきた。
Cory「君たちのためにもう1曲演奏するよ」
そう言って、「Ketosis」が始まった。
これまた高速ファンク。最初から最後まで、どこまでもやってくれる!
しかもこのハイスピードで、トランペットのJay Webb、トロンボーンのMichael Nelsonもソロを取った。どこまでもチャレンジ精神、そしてエンターテインメント性に溢れたバンドである。
アンコールが終わり、笑顔でマイクに向かうCory。
Cory「See you next time!」
また会おう!その言葉が、例え定型文だったとしても、我々にはさまざまな意味をもって聞こえる。
次はThe Fearless Flyersで? Cory Wongバンドで?
そして――Vulfpeckで?
また会えるその日を心待ちにして、その夜は終わった。
2日後、Fender Flagship Tokyoにて
また会おう、まさかその言葉が2日後だなんて思ってもいなかった。
Coryのライブの2日後、フジロック最終日の翌日、7月31日。突然Coryのインスタグラムのストーリーに、こんな文章が掲載された。
「今日の15時から、原宿のFender Flagship Tokyoで友人たちとジャムセッションを開催するよ 」
それに気づいたのは13時。
私はその日の朝9時に苗場から自宅である宇宙船に帰ってきたばかりで非常に疲れていたが、今から原宿に向かえばなんとかギリギリ間に合うのも分かっていた。
See you next timeって言われたからな。行くか。
いや、行くしかない!
会場に着いたのは15時05分ほど。なんとか滑り込みで、ほぼすべての演奏を観ることができた。
この日、Coryは築地で寿司を食べ、その後原宿のFender Flagship Tokyoに立ち寄っていた。
一緒にいたのは前述の「Foreign Motion」当時のメンバー、Petar、Kevin、Yohanness。非常にリラックスしたムードで、ときにギターの奏法やテクニックなどについても触れながら、和やかな雰囲気でセッションは進んでいった。
全体の時間は50分ほど。Coryは自身のシグネチャーギターの新色をFenderで出したばかりだったので、それらを実際に弾きながら、「今日買ってくれた人にはサインを付けるよ」とも言っていた。
このセッションではやはり、Petar、Kevin、Yohannessと一緒に行動している姿を観れたのが一番嬉しかった。分かってはいたが、彼らの友情は本物だということだろう。
その翌日、8月1日に彼らは羽田空港から、今度はハワイへ。次はハワイのブルーノートで、8月3日から5日まで、合計6回のショーがあるのだ。
さらにその後、秋にはふたたびヨーロッパで演奏することが決まっているCory Wongバンド。
またいつか、日本に帰ってきてほしい。次は単独で、願わくばブルーノートやビルボードなど、観客との距離が近いライブハウスで演奏してほしいと願う。
そして、これは個人的な話。相関図を喜んでくれて、Cory、本当にありがとう。
また会える日を楽しみにしています。See you next time!
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)
ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」