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【フジロック初来日記念!】8分で分かるVulfpeck

KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、60回目の連載となる。では、講義をはじめよう。

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ついに待望の初来日が決定したVulfpeck(ヴォルフペック)!

画像出典:Vulfpeck – Live Performance Review by WRSU-FM

しかもその舞台はフジロック、2日目のヘッドライナーだ。


というわけで今回は、いま世界中で大注目のこのバンドを簡潔に紹介していこうと思う。

今回のフジロックの発表で初めてVulfpeckを知った方、ちょっと聞いてはいたけど、どんなバンドなんだろう?と思っている方々……。また、現在のVulfpeckはどうなっているの?という方にも、面白い記事になれば幸いである。

それでは、始めよう!




Vulfpeckって?

Vulfpeck(ヴォルフペック)は2011年にアメリカのミシガン州アナーバーで結成されたファンクバンドだ。

画像出典:Wikipedia

結成時のメンバーは4名、現在は8名。ほとんどのメンバーがミシガン大学出身である。

2010年代中期から有名になり、2019年には世界でもっとも有名なアリーナと言われる、マディソン・スクエア・ガーデンでの単独ライブを成功させた。


近年では、世界的にもトップクラスの音楽フェスである、ボナルー・フェスティバル、モントルー・ジャズ・フェスティバル、ノース・シー・ジャズ・フェスティバルなどにも出演した。まさにいま世界中の大型フェスが出演を待ち望んでいる、大人気バンドである。


日本でも、星野源さんをはじめとして、川谷絵音さん、休日課長さん、TENDRE(河原太朗さん)、ハマ・オカモトさん、スガシカオさん、SuchmosのYONCEさん、またOfficial髭男dismのメンバーなどがVulfpeckのファンであることを公言しており、日本の音楽界にも影響を与えている。

星野「最近は、ヴルフペックがすごい好きですかね。昨日、マーク(筆者注:マーク・ロンソン)のステージと僕のステージの間にかけた……」

マーク「ああ、ヴルフペックだね。いいバンドだよね、僕も好きだよ」

出典:rockin'on 2019年3月号

― ところで、最近のベーシストで共感する人はいますか?

ハマ : Vulfpeckというミニマルファンク・バンドのジョー・ダート。僕は基本的に、そういう現行のバンドをあまり聴かないのですが、この人のベースはすごく良くて。かなり聴いていますね。メンバーがみんなすごく野暮ったくて好きです(笑)。

出典:高みを極めたミュージシャンシップ|ハマ・オカモト インタビュー【後編】


(ちなみに名前の読みは「ヴルフペック」が一般的に浸透しているが、より正確に発音するなら「ヴォルフペック」になると考えられる。また、バンド名は「狼の群れ」のドイツ語風発音である、という説が有力だ)


どんなサウンド?

Vulfpeckの曲は、そのほとんどが16ビートのファンク、ソウル、AORだ。


初期は日本でミニマルファンクと呼ばれるような、少人数編成でミニマルな(歌やソロをあえて入れなかったり、演奏時間を短くした)インストのファンクを中心に演奏していたが、

近年では4名のヴォーカルをフル活用し、非常に爽やかでポップな曲を演奏するファンクバンドへと変化している。

画像出典:VULFPECK /// Big Dipper & Matter of Time (From Clarity of Cal)

サウンド的には主に70年代のファンク、ソウル、フュージョン、ディスコ、そしてAORから強い影響を受けている。

また、特に多くのメンバーが好んでいるSteely DanなどのAORからの影響によって、最近の曲はサウンドが非常に爽やかになっている(と考えられる)。


歌いやすく覚えやすいメロディー、ワクワクする楽しそうなコード感、というのもVulfpeckの曲の特徴だが、最大の魅力は曲のリズム、踊りやすさにある。つまり、何よりもグルーヴが素晴らしいのだ。

Vulfpeckには世界トップクラスのファンクベーシストとファンクギタリストが在籍しているため、バンドが生み出すグルーヴも世界最高レベル

ファンクバンドというのは、グルーヴがそのバンドの価値を大きく決める。この圧倒的なグルーヴ、とにかく踊れてしまうノリの良さ、ファンキーさが、世界中で高く評価されているのである。


ライブの魅力

Vulfpeckは全体の演奏力が非常に高いバンドで、それが最大に発揮されるのはやはりライブだ。


彼らのライブは一切打ち込みがなく、すべては生演奏。世界最高レベルの、ファンキーな生のグルーヴで踊りまくれるのだ。


もちろん、ヴォーカルの歌唱力も非常に高く、まさに非の打ち所がない。現在ヴォーカルを務める4名は、ほとんどがソロでも活躍している実力派のシンガーソングライターなのだ。

また、一部のメンバーは複数の楽器を兼任しているため、曲によってドラマーやキーボード、ヴォーカルなどが頻繁に入れ替わる。

「さっきの曲のヴォーカルが次の曲のドラマー」というようなことがライブ中に何度も起こり、これは視覚的にもかなり面白い。

画像出典:Vulfpeck Live at Madison Square Garden


さらに、Vulfpeckのライブでは必ず、「ベースライン大合唱」という、非常に面白いシーンが観られる。これはフジロックでもやってくれるだろう。

「Dean Town」という曲で、百聞は一見に如かず。ぜひ👆の動画を一度観ていただきたい。こんなバンド、他にありえない。


サウンド以外の面白さ

Vulfpeckにはサウンドやライブ以外にも面白い点がたくさんある。そこについても簡単に紹介していきたい。


全てがDIY、インディーズ運営

Vulfpeckは自主レーベルのVulf Recordsに属する、完全なインディーズ・バンドである。

レコーディング、ミックス、マスタリング、撮影、動画編集、レーベル運営など、バンドに関わるほとんどの仕事をDIYで行い、作業はバンドと友人たちだけで完結。マネージャーも雇っておらず、さらに広告費も基本的には一切使わない方針となっており、

2019年のマディソン・スクエア・ガーデンのライブは、広告費ゼロ、マネージャーなし、大手レーベルの関与なしでチケットを完売させた。これはファンクバンドとしては世界初の快挙だった。


無音のアルバムで大バズり

2014年にVulfpeckがSpotify限定でリリースしたアルバム『Sleepify』は、すべての曲が完全に無音だった。

これは、「みんなが寝てる間にこのアルバムをリピート再生してくれたら、その収益を使って、無料で観れるツアーをやるよ!」という、前代未聞のアイデアだったのである。

当時、Spotifyの1再生あたりの収益は約0.005ドル。だが、たとえばこの10曲入りのアルバムが100回再生されたら、それだけで5ドルの収益になる。

画像出典:SLEEPIFY /// The Spotify Funded Vulfpeck Tour

Spotifyは強制的にこのアルバムを削除したが――それまでに多くのファンが夜通し再生してくれていたため、結果的にVulfpeckは約2万ドルの収益をSpotifyから受け取ることに成功したのだ!

ちなみにこの無音はフリーソフト「Audacity」で作られていたため、Vulfpeckは完全にゼロコストで約2万ドルを手に入れていた。

Funk band Vulfpeck have worked out a way to make money from Spotify – release short clips of silence and ask fans to stream it repeatedly overnight. Could other bands take note?

ファンクバンドのヴォルフペックは、Spotifyでお金を稼ぐ方法を編み出しました。無音の短いクリップをリリースし、ファンに一晩中繰り返しストリーミングしてもらうのです。他のバンドも参考にできるかも?

出典:How to make money from Spotify by streaming silence

この痛快なストーリーは世界中で話題を呼び、当時無名だったVulfpeckが有名になるきっかけとなった。


サステナブルな運営

Vulfpeckは「長続きするバンド」を目的として運営されている。つまり非常に現代的な――「持続可能性(サステナビリティ)」を意識したバンドなのである。

そのために具体的に何をしているのかというと……

  • 基本的にリハーサルをやらない

  • 全員が集まる日数を最低限にする

  • バンドよりメンバーのソロ活動を優先させる

という施策が取られている。これにより、アルバムのリリースも近年は遅くなってきているし、ライブ回数は極端に少なくなっている。2025年のライブはフジロックを含めて、たったの3回のみだ。

だがこの施策により、ソロ活動でも世界的に有名になってきているメンバーたちが、ソロを優先するためにバンドを去ることがない。事実、結成から14年が経過したが、誰一人メンバーが辞めていない。

Vulfpeckは活動頻度を最低限にする代わりに、終わることのないバンドとして機能し続けているのだ。なんという新しいバンド運営だろうか。

“The core vision has always been sustainability, and a big part of that is even trying to have other projects succeed simultaneously with it,” Stratton said. “So I think Theo doing his thing, Joe, Woody and me doing our stuff are all important to the sustainability of Vulfpeck counterintuitively."

Jack:コアとなるビジョンは常に「持続可能性(サステナビリティ)」であり……つまりそれは、Vulfpeck以外のプロジェクトも同時に成功させようとしているということだ。

だからTheoが自分のバンドをやっていることも、Joe、Woody、そして私が自分自身の音楽をやっていることも、Vulfpeckの持続可能性にとってはむしろ重要なことだと考えているんだ。

出典:Can’t Fake the Funk | The Story of Vulfpeck’s Start


ここまで紹介してきた、DIY・インディーズ運営、無音のアルバムで大バズり、サステナブルな運営は、すべてリーダーのJack Strattonのアイデアによるものである。


メンバー紹介

それでは、最後にそのJack Strattonをはじめとした、個性豊かな8人のメンバーを紹介しよう。


Jack Stratton(ジャック・ストラットン)

画像出典:VULFPECK /// Big Dipper & Matter of Time (From Clarity of Cal)

バンドリーダー。ドラムをメイン楽器として、ピアノ、キーボード、ギターも担当。マネージャー業務、バンド運営、レコーディング、ミックス、動画編集などもすべて自分で行う。恐れを知らぬ精神力と行動力を持ち、その特性はメンバーからSteve Jobsのようだと評されている。

70年代のファンクを愛し、サウンド面でもバンドの舵取りを担っている。また、Vulfmon(ヴォルフモン)としてソロ活動も行う。


Theo Katzman(ティオ・カッツマン)

画像出典:VULFPECK /// Tender Defender (feat. Theo Katzman)

結成時の初期メンバー。ヴォーカル、ドラム、ギター、ピアノを担当。彼とJackが頻繁に楽器を交代する。どの楽器も熟練の腕で、曲によってはドラムを叩きながら歌ったりもする。

優れたシンガーソングライターで、ソロ活動も順調。60~70年代のロック・ポップスに影響を受けた楽曲を書き、また彼の書く詩はとても美しい。


Joe Dart(ジョー・ダート)

画像出典:VULFPECK /// Big Dipper & Matter of Time (From Clarity of Cal)

結成時の初期メンバー。ベース担当。世界トップクラスのファンクベーシストの一人。Theoのバンドのベーシストも務めている。圧倒的なグルーヴ感と、歌心のあるフレージングに世界中の音楽ファンが魅了された。

レッチリのフリーや、ピノ・パラディーノ、ジェームス・ジェマーソンなどに影響を受け、前に出る花形プレイヤーとしての面と、曲の後ろでグルーヴを支える面の両方に長けている。


Woody Goss(ウッディ・ゴス)

画像出典:VULFPECK /// Big Dipper & Matter of Time (From Clarity of Cal)

結成時の初期メンバー。ピアノ、キーボード担当。控え目な性格なため、表だって派手に演奏したりはしないが、ジャズ/フュージョンを研究した高度なハーモナイズや、作曲面でバンドに大きな貢献をしている。「Dean Town」「Tee Time」などを作曲した。バードウォッチングが趣味。


以上4名が結成時のオリジナルメンバーだ。過去のJackのインタビューによればこの4名が正式メンバーで、次に紹介する4名はゲストだとされていた。
(ただ実質的に常にこの8名体制で動いているため、現在となっては全員が"メンバー"だと考えてもよいのではないかと思われる。フジロックもこの8名で来るだろう)


Joey Dosik(ジョーイ・ドーシック)

画像出典:VULFPECK /// Tender Defender (feat. Theo Katzman)

サックス、ヴォーカル、ピアノ、キーボードを担当。自身もシンガーソングライターとして活躍。70年代のソウルをオマージュした作曲や歌声が高い評価を受けている。過去にThundercat、Kamasi Washingtonなどとも共演。

2012年からVulfpeckに参加。「Running Away」「Grandma Song」などの自作曲をバンドに提供した。


Antwaun Stanley(アントワン・スタンレー)

画像出典:VULFPECK /// Big Dipper & Matter of Time (From Clarity of Cal)

ヴォーカル担当。2013年、Vulfpeck初のヴォーカル曲「Wait For The Moment」で参加して以来、数多くの重要な曲を歌っている。

ゴスペル出身で、ソロ活動も行う。非常に高い歌唱力を持ち、メンバー内ではもっとも若くしてプロになっていた。ライブでは体を大きく動かし、ステージを飛び回るアクションも見どころ。


Cory Wong(コーリー・ウォン)

画像出典:VULFPECK /// Big Dipper & Matter of Time (From Clarity of Cal)

ギター担当。世界最高のファンクギタリストの一人。ソロ活動も非常に盛んで、自身のアルバムやレコーディング参加曲などがグラミー賞にノミネート・受賞した経験も持つ。

同世代では右に出る者がいない圧倒的なカッティング技術で、2016年以降のVulfpeckのグルーヴを飛躍的に引き上げた。自身のバンドで2023年のフジロックにも出演。

また、Vaundyの楽曲「トドメの一撃 feat. Cory Wong」に参加。同曲はアニメ『SPY×FAMILY Season 2』のED曲になった。


Jacob Jeffries(ジェイコブ・ジェフリーズ)

画像出典:VULFPECK /// Big Dipper & Matter of Time (From Clarity of Cal)

ヴォーカル、作曲担当。もともとはTheoの音楽仲間だったが、2022年にJack(Vulfmon)と初共演してから、Jackの作曲パートナーとなった。

以降、Vulfpeckのアルバムとライブに必ず参加し、近年のVulfpeckの曲をよりポップでキャッチーな方向へと導いている。もっとも新しいメンバーだが、現在のVulfpeckサウンドを語るうえで非常に重要な人物。



おわりに

以上、駆け足でVulfpeckというバンドを紹介してきた。ここまで読んでいただければ、フジロックのライブや、その予習のためにもいくらかは力になれるはずだ。

さらにこの素晴らしいファンクバンドについて知りたいのであれば――まだまだ、私の書いた記事がnoteにはたくさんある。👇

しかし、noteの記事が多すぎるというなら――まずは私の書いた、Vulfpeckファンブックをお読みいただくのがいいかもしれない。👇

こちらは、Kindleで無料で読むことができる。リーダーのJackの許可を得て出版した、世界初にして唯一のVulfpeck本だ。また、noteには書かれていない「Vulfpeckの歴史」も第1章にまとめてある。

どうかこれを読んで、よりVulfpeckの世界を楽しんでいただきたい。そして一緒に2025年のフジロックを、Vulfpeckの初来日ライブを盛り上げよう!



◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー

イラスト:小山ゆうじろう先生

宇宙からやってきたファンク博士。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。「KINZTO」と並行して、音楽ライターとしても活動しています。

■バンド公認のVulfpeckファンブック■


■ファンクの歴史■


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Dr.ファンクシッテルー
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