KINZTOのDr.ファンクシッテルーです。今回は、いま世界的に注目を集めているアーティスト、Louis Cole(ルイス・コール)について、どこよりも詳しい紹介をしていきたいと思います。
(この記事は前後編です。後編はこちら👇)
Louis Coleという名前、本当によく聞くようになったと思います。もはや、音楽ファンであれば誰もが知っている名前だと言っても過言ではないかもしれない、それくらい有名なミュージシャンです。
ドラムンベースのような高速ドラムを叩く姿を、YouTubeか何かで一度は観たことがあると思います。
彼はただ有名なだけではなく、Quincy JonesやRed Hot Chili Peppers、Björk、John Mayer、Snarky Puppy、Vulfpeck、Thundercat、Flying Lotusなど、世界的な著名アーティストからも非常に高く評価されています。
ThundercatはLouisのことがあまりに好きすぎて、Louisとの共作曲の名前を「I Love Louis Cole」にしているほどです。
この曲では、Louisはドラマーとして参加しています。同じように、さまざまなコラボや動画など、Louisを観る機会はドラム椅子に座っている時の姿が多いのではないでしょうか。
しかし、それで終わってしまうのはあまりに勿体ない。彼は、ただのドラマーではありません。
Louis Coleは、
・全ての楽器を自分で演奏し
・自分で作曲・レコーディング・ミックスを行い
・自らMVの監督・撮影・編集をしている
究極のDIYアーティストなのです。
これほどの才能の塊が、なんとなく「うまいドラマー」という見え方で捉えられてしまうのは、本当にもったいない。
そこで今回の記事では、Louisの多面的な魅力をたっぷりと紹介し、彼のインタビュー記事などの引用も用いながら、彼の音楽と映像、歴史に迫っていきたいと思います。
彼がどういった人物か?どういったサウンドを演奏・作曲するのか?といった話や、彼のサウンドを生み出した影響元、また歌詞や映像の秘密に至るまで、Louisの世界を深く深く掘り下げています。
また、初めてLouisを知る方に向けた基本的な話から、すでにファンの方々へ向けたマニアックな話まで、幅広い情報を集めました。
Louisは2023年のフジロック、7月29日にホワイト・ステージのトリとして出演します。フジロックに行かれる方にとっても、今回の記事を読んでおくと当日のステージが楽しめるかもしれません。
ジャズとファンクとブロステップと任天堂に影響を受けた偉大な男のストーリーを、一緒に体験しましょう。
人物紹介
Louis Coleはロサンゼルス生まれで、現在もロサンゼルスを拠点に活動するミュージシャンです。
短く「LC」と呼ばれることもあります。
プレイヤー、作曲者、アレンジャーとして世界的に高い評価を受けており、2022年の第65回グラミー賞では、自作曲「Let It Happen」が、Best Arrangement, Instruments And Vocals賞にノミネート。
現在は世界的に有名なアーティストですが、意外にも有名になったのはここ最近のことでした。
そして世界でも特に日本にファンが多いようで、本人も親日家です。
プレイヤーとしては先述の通りドラマーとしての姿が有名ですが、キーボード、ベースなど、どの楽器も非常に上手く弾きこなしています。
さらに自分で歌い、コーラスも付け、ひとりだけで曲を完成させることも多く、例えば2022年の「I'm Tight」なども、完全に自分だけでレコーディングされた曲となっています。
MVも自分で監督・編集を行い、シュールでユーモアたっぷりの映像世界に、中毒者が続出。
他にも、自宅(借家)の至る所に楽器を置いて、リビングにビッグバンドを入れてしまう動画が大人気に。スタジオに入ることを好まず、自宅ですべてを完結させてしまうのは、まさにDIY精神のなせる業です。
しかも驚くべきことに、レコーディングに使っているのはMacに無料で付いてくるソフト「Garage Band」だとのこと。
ここまで来ると、もはやDIY精神の塊と言っても差しつかえありません。
――昨今、VulfpeckやGinger Rootのように、自分たちだけで作品を作り上げてしまうアーティストのことを「DIYアーティスト」「DIYバンド」と呼ぶようになりましたが、
Louis Coleはまさにその中でも究極のDIYアーティストにして、世界的にもっとも有名なDIYアーティストのひとりである、と思います。
LouisはFlying Lotusのレーベル、Brainfeederと契約し、そこから2018年、2022年に自身のソロアルバムをリリースしていますが、
それ以外にも、Knower(ノウアー)というバンドで活動を行っています。
Knowerは元々はGenevieve Artadi(ジェネヴィーヴ・アルターディ)という女性シンガーとのデュオなのですが、Louisのソロとよく似た音楽性・映像になっているため、Louisのソロが好きな方はすぐに楽しめると思います。
(ちなみに、KnowerでもLouisは自宅で撮影した動画をアップしています)
Knowerも世界的に成功しているバンドで、2017年にはRed Hot Chili Peppersの前座として一緒にツアーを周っています。
また、おそらくLouisはClown Core(クラウン・コア)という覆面バンドでも活動を行っています。
こちらは非常にアヴァンギャルドなバンドで、ピエロのお面を被った2人組によるデュオです。
一切素顔は明かされていないのですが、ドラマーの手足が長い体躯、叩く時に常に背筋がピシッとしている姿、プレイスタイル、両手が交差しないオープンハンドという叩き方、さらに動画の編集スタイルなど全てが非常にそっくりであることから、Louis Coleがドラム演奏・動画編集を行っていると言われているのです。
Knower、Clown Coreについては次回の記事で詳しく紹介していこうと思いますが、特にKnowerはLouisの活動を知る上で欠かせないファクターなので、この後も度々名前が登場します。
サウンドとその影響元
それではLouis Coleのサウンドと、その影響元を解説していきます。
もっとも聴く機会が多いLouisのドラムは、非常にタイトで正確な(ジャストな)リズムによる、ドラムンベースのような高速ドラムです。
これは非常に特徴的で、このドラムを聴けばすぐに「Louis Coleだ」と分かるほどのトレードマークになっています。
そしてもちろん、Louisはドラマーだけでなく、作曲家でもあります。
Louisが書く曲のスタイルは複雑で、そのジャンルを一言で表すことはできません。ジャズ、ファンク、ドラムンベース、ブロステップ、そしてゲームミュージックなどが混ざり合ったサウンドを、聴きやすいようポップにまとめていったようなものになっています。
このジャンルの混在がまさに現代アーティストであり、しかも「とにかく好きなものをごちゃ混ぜにした」ような奇跡的なバランス感が、Louisの曲を唯一無二なレベルへ押し上げているのだと思います。ある意味においては、このごちゃ混ぜもDIY精神の現れだと言えるかもしれません。
それでは、それら混在サウンドの影響元を紹介していきましょう。
Louisは8歳でドラムを始め、大学ではジャズドラムを習っていました。こちらの動画ではフェイバリット・ドラマーにBuddy Rich、Jack DeJohnette、Tony Williams(どれもジャズドラムのレジェンド)などの名前を挙げており、彼のバックグラウンドに、深いジャズへの愛情があるのは間違いありません。
Louisの曲にはジャズ特有の複雑なコードやリズム、メロディーが入っているのが特徴で、それを他ジャンルと融合させることによって独自のサウンドを生み出しています。さらにSam Gendelなど、ジャズミュージシャンの友人がゲストに入ることも多く、それによってLouisの音楽にどんどんジャズの要素が入り込んでいるのです。
ファンクからの影響も強いものがあり、その中でも特に、ファンクの帝王James Brownへの愛を公言しています。
実際に先ほど紹介した「I'm Tight」という曲は、James Brownの影響で誕生したと語られています。
また「Weird Part of the Night」で聴けるようなグルーヴィーなポップス要素や、メロディ、小さなシャウトなどに関してはMicheal Jacksonからの影響を感じます。実際に本人も、その影響を語っています。
しかし、こういった伝統的なブラックミュージックの影響だけで終わらないのが、Louis Coleの面白いところ。
なんとLouisはSkrillex(スクリレックス)からも非常に大きな影響を受けています。
SkrillexはブロステップというEDMの派生ジャンルの第一人者で、攻撃的なサウンドに中毒性があるアーティスト。これは主に、Knowerのアルバム『LIFE』(2016)などに大きな影響を与えています。
そして、最も興味深いのが、マリオカートを始めとした、スーパーファミコン時代のゲームミュージックからも強い影響を受けているという点です。
Louisは任天堂などのゲームミュージックから、ピコピコした電子音をグルーヴィーに聴かせる術を取り入れています。実際に、Louisのサウンドは彼の友人からも「Nintendo-y(任天堂っぽい)」と評されています。
例えば「Bank Account」「Thinking」「park your car on my face」などを聴けば、そのシンセサウンド、グルーヴにゲームミュージックが反映されていることが分かると思います。
言われなければ気づかないかもしれませんが、一度その類似性に気付いてしまうと、そうとしか聴こえなくなるから面白いものです。
他にもこちらやこちらのインタビューで、トーキング・ヘッズ、ビートルズ、ステレオラボ、ラッシュ、ビーチ・ボーイズ、ハービー・ハンコック、ジェームス・チャンス、スティーヴィー・ワンダー、ニルヴァーナ、グリーン・デイや、
さらにリゲティ、モーツァルト、バッハなどのクラシックも好きで聴いていたと語っています。
歌詞の世界
Louis Coleを語るときに、その歌詞の世界を避けて通ることはできないでしょう。
彼の書く歌詞は、時に下品で、時にふざけて、時に真面目に世の中を皮肉っています。非常に独特で、とても面白い詩を書いているのです。
以下3つほど、多くの人が話題に挙げている印象的な歌詞を紹介します。
いかがだったでしょうか。キャッチーで強烈な世界観だったと思います。
いま例に挙げたように、彼の歌詞は、
①まず強烈でセンシティブなワードが入り
②その直後にちょっとシリアスになったり
共感を生むような流れに進んでいく
というケースがしばしば見られます。
そして、実はこういった独特な歌詞は、意識的に書かれたものだと本人が語っているのです。
また、時には人々の感じている不条理、不安や悲しみなどを拾い上げ、歌として昇華しているようです。
独特なワードセンスに関しては、自分らしい表現、言葉使いを心がけているとのこと。
Louisの歌詞はこういったキャッチーな方向だけではなく、内省的で難解なものも数多く見られます。基本的には内向的な性格だと自ら語っているだけに、それもまた、彼の一面だということなのでしょう。
映像の世界
では次は、Louis Coleの映像を解説していきましょう。これも非常に個性的で、また面白い世界観です。動画が面白かったから、という理由で、Louisのファンになった方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
まず、簡単にLouisの動画の概要を紹介します。彼の動画は、
・基本的にすべてDIY
・フォントはドット文字
・シュールな衣装/ダンス/映像
・唐突なパロディーや、下品なジョークの挿入
このあたりが定番になっています。
さらに、Jacob Collierのような多重録音の動画や、
前述のように自宅で撮影された動画などもアップしており、このあたりがLouisの映像世界だと言えるでしょう。
そしてこれらの動画は、もちろんLouis本人が企画・編集を行っています。これも驚異的なDIY精神です。
ちなみに、使用ソフトはFinal Cutだとのこと。
毎回毎回、新作のたびにヘンな衣装でMVを撮影していますが、それらも全て自分で探し出しているそうです。
いろんなMVでやっている、下半身を動かしまくるシュールなダンスについては、モンティ・パイソンの影響があると語っています。
ちなみに、唐突なパロディーや下品なジョークを数多く入れてくることについては、YTPと呼ばれるYouTubeのパロディー動画に影響されているそうです。
YTPは、基本的にはニコニコ動画のMADなどに近い作品群です。かなり下品なものも多いのですが、YTPを知っておくと、Louisが編集する動画の方向性がかなり理解できるようになります。
もっとも、ここ最近のLouisの動画はシュールさは変わっていませんが、下品なジョークの類は少し減ってきました。これは有名になったこと、年を重ねたことで彼の意識に変化があったのかもしれません。
「DIYで低予算で笑える」という方向性はまったく変わっていませんので、ぜひ、どんどんYouTubeで動画を検索して観てみてください。
(👇こちらからも観れます)
ライブの世界
それでは、今回の記事の最後に、Louisのライブを紹介して終わりにします。
Louisのライブはいくつかのスタイルがありますが、一番よく見かけるのが、ホーン隊を入れた「Louis Cole Big Band」のスタイルです。今回のフジロックも、このスタイルで出演します。
2022年12月にも「Louis Cole Big Band」で来日。ホーン隊は日本のミュージシャンを現地でアテンドし、素晴らしいライブを繰り広げました。この時は星野源がライブを鑑賞しており、ラジオでその興奮を語っていました。
ちなみに、来日回数も多いです。
・Knowerとして 2016年8月(初来日)、2018年5月
・Louis Cole名義で2017年4月、2018年12月、2022年12月、2023年7
月(フジロック)
・Thundercatのドラマーとして 2022年5月
これだけ来日できているというのも、やはり彼の日本における人気と知名度によるものなのでしょう。
衣装はおそろいのスケルトン・スーツを皆で着るのが定番となっており、これについても本人がその理由を語っています。
他にも、トリオやデュオ、少人数のバンド編成でライブを行うこともあります。Louisがさまざまな楽器を演奏でき、ルーパー(音を繰り返す機材)も扱えるので、少人数でも多才なステージを行うことができるのです。
ライブの曲については、現在はアルバム『Quality Over Opinion』(2022)が出たばかりなので、アルバムから「Bitches」「I’m Tight」「Let It Happen」「Park Your Car On My Face」などがよく演奏されています。
また過去曲でも、「F it up」「Bank Account」「Thinking」などは比較的よく演奏される傾向にあるので、覚えておくとよりライブを楽しめるかもしれません。
いかがだったでしょうか?以上で今回の記事は終わりです。
ぜひこのあたりの話を知ったうえで、ふたたびLouis Coleを聴いたり、またライブ、フジロックなどでLouisの音楽に触れてみてください。
次回はこの続きとして、Louis Coleの経歴や、Knower、Clown Core、またLouisが参加したゲスト作品などを紹介していきます。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)
ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」