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Vulfmonニューアルバム『Dot』徹底解説 /// Jack Strattonが辿り着いたミニマル・ポップの世界

KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、55回目の連載となる。では、講義をはじめよう。

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2024年7月、ついにVulfmonのニューアルバム『Dot』の予約販売がスタートした!

今回はQratesではなくDiggers Factoryで注文を受付。USA盤、UK盤、日本盤の3種類を買うことができる。販売期間は7月末まで。

そこで今回はこのニューアルバムについて、いつものように徹底解説を行っていきたいと思う。

それでは始めよう!



アルバム概要

Vulfmon 『Dot』
画像出典:Vulfmon Dot (USA First Pressing)

このアルバムはVulfpeck(ヴォルフペック)のリーダー、Jack Stratton(ジャック・ストラットン)のソロプロジェクト、Vulfmon(ヴォルフモン)としてリリースされる3枚目のフルアルバムである。

※Vulfmonについて知りたい方は、こちらの記事を参照のこと👇

前作『Vulfnik』が2023年6月にリリース。そこから2024年7月までにリリースされてきた曲、リミックスをまとめたものが今作『Dot』である。

画像出典:Got To Be Mine | Vulfmon & Evangeline

前作までもVulfmonが自由に、ミニマルにレコーディングしていくアルバムであったが、今作もその方向性は大きくは変わっていない。

ただ、楽曲はさらにポップに、さらにファンキーになっている。

Vulfpeckはファンクの比重が高いためファンクバンドであると言えるが、今作までのVulfmonの曲を聴いてきたなかで総合的に受ける印象は、ファンクというよりはファンキーなポップスだ。Jackはポップスというフィールドのなかでファンキーな曲も書くし、もちろんそれ以外の曲も書く。例えばスティーヴィー・ワンダーのように。例えばマイケル・ジャクソンのように。

そして、それらをすべて、ミニマルなアレンジでレコーディングしていく。今作も、すべての曲に共通しているのは、ミニマル(少人数編成)であるということ――Jackの、Vulfmonのシグネチャー、美意識だ。

そうして作られた『Dot』は――Jack Strattonが辿り着いた、彼独自のミニマル・ポップの世界だと言えるのではないだろうか。

画像出典:It Feels Good To Write A Song | Vulfmon, Antwaun Stanley & Jacob Jeffries

参加ミュージシャンは前作までと同様に、Jackと関係が近いミュージシャン、またコラボを希望したミュージシャンが選ばれている。

前作で全体の半分に参加したLAのシンガーソングライター、Jacob Jeffries(ジェイコブ・ジェフリーズ)は今作でも10曲中4曲に参加。JacobはVulfpeckのライブやレコーディングにも最近頻繁に参加しており、現在、もっともJackの近くにいるミュージシャンである。

Jacob Jeffries(ジェイコブ・ジェフリーズ)
画像出典:How Much Do You Love Me | Ellis Remix | Vulfmon & Jacob Jeffries


また今作では、前作にチラッと登場したLAのシンガーソングライター、Evangeline(エヴァンジェリン)が重要な役割を果たした。冒頭の3曲に参加し、その爽やかな歌声でアルバム全体の雰囲気をポップに仕上げていると言えるだろう。

Evangeline(エヴァンジェリン)
画像出典:Got To Be Mine | Vulfmon & Evangeline


本作はこの2名、Jacob JeffriesとEvangelineと、Vulfmonのコラボ作だというような見方もできるだろう。それほどこの2名の存在は大きい。

ただもちろん、それらをまとめあげているのは紛れもなく、Jackの、Vulfmonのミニマルな美意識だ。その点において、本作は間違いなくVulfmonのアルバムである――。

もちろん他にも魅力的なゲストが参加し、それぞれ素敵なコラボとなっている。

それでは、各曲を細かく見ていくことにしよう。


1. Got To Be Mine

written by evangeline & vulfmon
evangeline — vocals, choreo
nate smith — drums
joe dart — bass
ella rae feingold — guitar
aaron kruziki — winds, arrangement
vulfmon — keyboards, guitar, mixing
cinematography by daniel rashid
video edit and color by jack stratton

まず1曲目は、Evangelineとの共作。アルバム全体の方向性を示すような、爽やかでファンキーなポップスだ。

歌詞はおそらく、Evangelineによるもの。こういう場合、Jackは共演者に歌詞も任せるケースが多い。

遅すぎた
一瞬でわかったの
私はあなたがほしいって
いま言わないと

あなたを見てると
何か懐かしい感じがする
ずっと前から知っていたような
もう私のものね

あなたが望むなら、手に入れられる
あなたが感じたなら、そうさせるべき
帰ってしまうのなら、私に教えてほしい
あなたが踊っているなら、私はダンサー
リスクを取るなら、私は冒険家
質問があるのなら、私が答え

今、あなたを見た
もう私のものね

そのままで
見たままで呼べば、あなたは夢で見たように見える
ザラザラのフィルムのような顔
去ってしまうなら残念ね

あなたを見てると
何か懐かしい感じがする
ずっと前から知っていたような
もう私のものね

あなたが望むなら、手に入れられる
あなたが感じたなら、そうさせるべき
帰ってしまうのなら、私に知らせてほしい
あなたが踊っているなら、私はダンサー
リスクを取るなら、私は冒険家
質問があるのなら、私が答え

今、あなたを見た
もう私のものね

訳:筆者

この曲はJoe DartとNate Smithがリズム隊と書かれているが、実のところは「The Joe Dart II Bass」の動画のために行われた過去のセッションの録音が使われている。

こうやって過去の素材をうまく活かして1曲完成させてしまうあたりも、Jackらしいミニマルさである。

JoeとNateによるファンキーでディスコっぽいグルーヴが、Jackのアレンジ、Evangelineの爽やかな歌とメロディーで見事にファンキーなポップスに仕上がっている。ベースとドラムのグルーヴだけであれば完全にファンクだったので、これはJackが意思をもってポップにアレンジしたと言えるのではないだろうか。

画像出典:Got To Be Mine | Vulfmon & Evangeline

特徴的なぼやけがあるMVは、Kern Paillard(ケルン・パイラード)のレンズを使って撮影されたと動画クレジットに書かれている。過去のJackはiPhoneのアプリでレトロな画質を作ってきたが、ここ最近はリアルなカメラとレンズでレトロな撮影を行っているようだ。

ちなみに、MVのロケ地はロサンゼルス川に架かる「テイラーヤード自転車道橋」とその周辺道路。


2. Letting Things Go

written by evangeline barrosse and jack stratton
evangeline — vocals
vulfmon — keyboard, taps
cinematography and editing by jack stratton

こちらもEvangelineとの共作。完全なデュオ演奏で、ヴォーカル、キーボード、4つ打ちのタップ音だけと非常にミニマルな編成でアレンジされている。

楽曲的にはEvangelineが得意とするメロウなポップ路線で、そのままEvangelineの曲だと言われても納得できるような内容になっている。

冒頭、髪の長いJackと、向かい合って座るEvangelineが一瞬だけ映るが、

画像出典:Letting Things Go | Vulfmon & Evangeline

これは前のアルバムに収録された「James Jamerson Used One Finger」のラストシーン(セリフ)を引用している。

「James Jamerson Used One Finger」ではEvangelineは最後にひとこと「No」とだけ言う役だったが、そのコラボから発展し、今作はそのふたりのデュオ曲である、という流れが演出されている。服装や髪型は違うが、撮影場所は同じ。

画像出典:Letting Things Go | Vulfmon & Evangeline

また、「James Jamerson Used One Finger」でも使われていた、本来レコーディングでは使われるはずもない極小のミニマイクを使ってレコーディングされている。これもミニマルさや、画の面白さを狙うJackらしい手法だ。

画像出典:Letting Things Go | Vulfmon & Evangeline

歌詞は以下のとおり。

あなたが言ったことにこだわった
予想すべきだった
あなたは私の心をかきみだす

あなたは起きて
私はベッドにいた
何かを言おうとしたけど
何も言わなかった

そのままにするのがうまくなっていった
でもあなたは私が知りたい人
私を愛しているなら、早く見せてちょうだい
私はそのままにしてしまうから

そんな気がする
あなたは私が間違っていると証明できる
長い間感じたことのない気持ち
我慢できる
戯れることもできる
あなたを忘れるのと同じくらい速く許して
だから、私を前に進ませないで

そのままにするのがうまくなっていった
でもあなたは私が知りたい人
私を愛しているなら、早く見せてちょうだい
私はそのままにしてしまうから

離れたくないからあなたに知ってほしい
私はやり遂げるのがうまくなってきたって

訳:筆者

歌詞では、ふたりの関係を進ませることに臆病だった主人公の心の変化を描いている。

前半では「私を愛しているなら、早く見せてちょうだい 私はそのままにしてしまうから (if you love me then let it show, cuz i’ve been getting good at letting things go)」と相手の行動を待っている状態だったのに対し、

ラストのヴァースで「離れたくないからあなたに知ってほしい 私はやり遂げるのがうまくなってきたって (don’t want to leave so i’m letting you know, that i’ve been getting good at letting things go done)」と、doneの一語を加えることでふたりの関係を先に進ませる決意を示している。


3. Tokyo Night

Written and Performed by Vulfmon Jacob Jeffries Evangeline Barrosse
Sax Solo Joey Dosik
Audio Engineer and Mixing Philip Weinrobe
Cinematographer Rob Stenson
Translation by Dr. Funkshitteru

本アルバムを象徴するような1曲。Jacob Jeffries、Evangeline、そしてVulfmonの共作となっている。

SaxにVulfpeckのJoey Dosikが参加。

画像出典:Tokyo Night | Vulfmon, Jacob Jeffries & Evangeline

演奏はJacobとEvangelineのヴォーカル、Jackのピアノ、Joeyのサックス、そしてドラムはマグカップや鍋などを叩いて鳴らしているだけと、こちらのレコーディングもミニマルで、かつ画的に面白いものになっている。

画像出典:Tokyo Night | Vulfmon, Jacob Jeffries & Evangeline

曲的にはやはりポップスで、Jackがピアノを弾くにしては珍しいGのキーとなっている。通常、Jackは鍵盤ではDbなど黒鍵が多いキーを好むが、今回は白鍵ばかりで弾いている。

また、曲のブレイク部分でThe Doobie Brothersの「What a Fool Believes」のピアノリフがオマージュされている。

この曲はVulfpeckのライブでさっそくバンドアレンジが披露され、JacobとEvangelineがゲスト出演した。


ちなみに本作では本編動画内に日本語の字幕が入っているが、こちらの翻訳は筆者が担当した。ある日突然Jackから「この歌詞を訳してほしい」とメールが入り、すぐに翻訳して返したところ、そのまま動画内に使ってもらえた、という経緯である。

画像出典:Tokyo Night | Vulfmon, Jacob Jeffries & Evangeline

そこで今回は、Jackに送ったメールに載せた訳文をそのまま転載しよう。

ねえ、いまなんて言ったの?
またいつか帰ってくるって
君は最高さ、まるでダイナマイトみたい
帰る前に、東京でもう一晩だけ一緒に過ごさない?
みんなが左って言えば、僕たちは右に行く
みんなが帰っても、僕たちは夢中になって一晩中一緒にいるのさ
君の腕に抱かれたんだ           
だから、きっとまたそうなるよ
                       
みんなが左って言えば、僕たちは右に行く
みんなが燃え尽きても、僕たちは輝き続ける
みんなが帰っても、僕たちは夢中になって一晩中一緒にいるのさ
君の腕に抱かれたんだ
だから、きっとまたそうなるよ
もう一晩だけ、東京で一緒に過ごそうよ!

訳:筆者

Jackからのメールではこの歌詞の順序だったが、実際の動画ではもう少し歌詞が繰り返しなどで長くなっている。また、最後の「もう一晩だけ、東京で一緒に過ごそうよ!」は実際の動画には字幕として使われなかった(歌詞としては歌われている)。

この曲では非常に貴重な機会をいただき、筆者としては感謝に堪えない。Thank you Jack Stratton!!!


4. It Feels Good To Write A Song

Written by Jeffries & Stratton
Produced by Jack Stratton & Mike Viola
Antwaun Stanley — vocals
Jacob Jeffries — vocals, wurli
Vulfmon — drums, bass, vocals
Mike Viola — tambourine, engineer
kids! — leah, nacho and arturo
Mixed by Jack Stratton & Mike Viola
Video by Jack Stratton

恒例となったJacob JeffriesとJackの共作。それに、VulfpeckのAntwaun Stanleyが参加した、非常にキャッチーなファンク・ナンバーだ。

画像出典:It Feels Good To Write A Song | Vulfmon, Antwaun Stanley & Jacob Jeffries

この3人の演奏にJackが追加でベースを、Mike Violaがタンバリンを叩いているだけと、またもや非常にミニマルなアレンジ。曲構成的にもAパートとBパートをひたすら繰り返すだけとなっており、そちらの面でもミニマルな1曲だと言える。

画像出典:It Feels Good To Write A Song | Vulfmon, Antwaun Stanley & Jacob Jeffries

スタジオは以前から「Radio Shack」などで使われている、シンガーソングライターMike Viola所有の個人スタジオ。Mikeとは「For Survival」で共演して以来、良い関係が続いているようだ。

歌詞は以下のとおり。途中で子ども(Jacobの甥っ子?)たちの声が入っているように、キッズソングとしての側面もある歌詞。だが非常にキャッチーで、一発で覚えられる優れたメロディーと歌詞だ。

作曲って気持ちいい ×6

※[Bパート・コーラス]
どんな気分?
最高、最高、最高さ
どんな気分?
最高!
どんな気分?
最高、最高、最高さ
どんな気分?

自転車って気持ちいい ×6

[Bパート・コーラス]

ジュースを飲むのは気持ちいい ×6

[Bパート・コーラス]

[Bパート・コーラス]

猫を描くのは気持ちいい ×6

[Bパート・コーラス]

作曲って気持ちいい ×12

訳:筆者


5. Little Thunder

Written by Whitford & Jeffries
Produced by Jack Stratton & Mike Viola
Jacob Jeffries — vocals, drums
Harrison Whitford — vocals, guitars
Vulfmon — bass
Mike Viola — tambourine, engineer
Mixed by Jack Stratton & Mike Viola
Cinematography by Jack Stratton

前作でも共演したシンガーソングライターのHarrison Whitfordと、Jacobの共作。

先ほどの「It Feels Good To Write A Song」同様、Mike Violaのスタジオでレコーディングされた。

画像出典:Little Thunder | Vulfmon, Jacob Jeffries & Harrison Whitford

動画の冒頭にちょっとした解説が出てくるのだが、この文章がこの曲を端的に説明しきっていると言える。

画像出典:Little Thunder | Vulfmon, Jacob Jeffries & Harrison Whitford

2024年第1四半期、Vulfmon、Jacob Jeffries & Harrison WhitfordがMike Violaのスタジオに行って曲をレコーディングした。

3人ははViolaに「Rubber Soul」時代のレコーディング作業を厳守するよう頼んだ。結果的には「Revolver」のようなサウンドになったが、それでも、全員がとても興奮していた。

ここにあるように、この曲はビートルズオマージュである。「Rubber Soul」(1965)時代の雰囲気を再現しようとして、「Revolver」(1966)のサウンドになった、ということだ。

実際にこのあたりの曲を聴けば、その類似性が分かるだろう。

キャッチーなギターイントロ、メロディー、8ビートのドラム、そしてタンバリンと、ビートルズオマージュとして完成度が高いし、またメロディーも覚えやすくポップスとしても非常によく出来ている。

歌詞は以下のとおり。こちらも散文的でビートルズらしいと言える。

考えに耽る道中
もし片翼でそこに行けるなら
春まで持ちこたえられるか
君がいないでも

君に知らせに行く途中
海を越え雪を越えて
庭の成長が見られない
君なしでは

※[コーラス]
人生のすべて
身を隠す
一日ずつ
引きずり込まれる
そしてあなたがやって来た
夏の芝生に降る雨
私は逃げない
小さな雷から

道の先を見下ろして
僕らはもうそこにいるだろう
大きな納屋とレッドと呼ばれた犬
そして君

別々の道を歩むなら
青く果てしない灰色へ
もう一度だけチャンスをくれないか
一緒に

[コーラス]

訳:筆者


6. Too Hot In L.A. (Vulfmix)

Original by Woody and Jeremy
Written by Woody Goss & Jeremy Daly
Produced by Jack Stratton
Jeremy Daly — vocals
Woody Goss — organ
Vulfmon — percussion, guitar, mixing
Joe Dart — bass
Jennifer Hall — bgvs
Weber Marley — string arrangement

こちらはWoody and Jeremyという、VulfpeckのキーボードWoody Gossが友人のJeremy Dalyとやっているデュオの曲「Too Hot In L.A.」を、Vulfmonがリミックスしたものだ。

原曲ではTheo Katzmanがギターとドラムを担当していたが、その音を抜いて、代わりにJackが演奏し直している。

もともと80'sポップスのような曲だったものが、Vulfmonのリミックス=Vulfmixになったことでミニマルになり、VulfpeckやVulfmonの曲のような雰囲気になった。

Woody Goss
画像出典:Too Hot In L.A. (Vulfmix) - Woody and Jeremy and Vulfmon

WoodyはMVではベースを持っているが、実際にベースを弾いているのはJoe Dart。この曲もポップスだが、非常にファンキーなベースを楽しむことができる。

また、歌詞は以下のとおり。かなり雰囲気ベースのラフな歌詞で、こちらもポップな路線になっているのが分かる。

怒鳴るつもりはなかったんだ
きっと何かが漂ってる
黙示録の話をしてるんだろ?
僕は自分の髪のことを聞いたんだ

僕がなんか強いって思ってるのは知ってるよ
少なくとも僕が皮肉屋だってことは知ってるよね
まあ、君は間違っていないかもしれない
でもこの席を取るのは高かったんだ

僕が無愛想なのは知ってる
君はとても恥ずかしがり屋
僕がイライラしているとき
君は笑うだけ
そんなとき、何て言えばいいの?
ガッデム
L.A.は暑すぎる

※[コーラス]
クソ暑すぎる ×4

ほんとだよ、この目で見たんだ
U.F.O.が飛んでいくのを
君は仮説を立てなければならなかった
それが北朝鮮の核爆弾だって
ああ、そうだ、もう気が狂いそうだ
でも気づいてほしい
この街では間違いなく
何かが起きれば誰もが死ぬって

僕が無愛想なのは知ってる
君はとても恥ずかしがり屋
僕がイライラしているとき
君は笑うだけ
そんなとき、何て言えばいいの?
ガッデム
L.A.は暑すぎる

[コーラス]

僕が無愛想なのは知ってる
君はとても恥ずかしがり屋
僕がイライラしているとき
君は笑うだけ
そんなとき、何て言えばいいの?
ガッデム
L.A.は暑すぎる

[コーラス]

訳:筆者


7. Surfer Girl

Drew Taubenfeld : pedal steel guitar
Vulfmon : guitar, perc

こちらはカヴァー曲。原曲はビーチ・ボーイズの「Surfer Girl」。

ゲストは、初共演のDrew Taubenfeld(ドリュー・タウベンフェルド)。ペダル・スティールという、床に置いて弾くスライド・ギターを演奏している。

Drew Taubenfeld
画像出典:Surfer Girl | Vulfmon & Drew Taubenfeld

この曲がレコーディングされた経緯については、動画の概要欄に記載がある。

brian wilson was just 19 in his car, when "surfer girl" came to him.
it's his first ever composition, inspired by “when you wish upon a star” by dion and the belmonts.
he turned that sweet tune into a beach vibe, creating a beach boys’ classic.
i heard drew taubenfeld cover it on pedal steel at a ‘jam’ hosted by ryan lerman. i thought ‘this is good content.’ -vulfmon

ブライアン・ウィルソンが 「Surfer Girl」を思いついたのは、19歳のとき、車の中だった。ディオン&ザ・ベルモンツの「When you wish upon a star」にインスパイアされて、彼が初めて作曲した曲だ。

彼はその甘い曲をビーチの雰囲気に変え、ビーチ・ボーイズの名曲を生み出した。

私はライアン・ラーマン主催の「ジャム」(筆者注:セッションイベント)で、Drew Taubenfeldがペダル・スティールでこの曲をカバーしているのを聴いた。私はそこで「これはいい」と思ったんだ。

出典:Surfer Girl | Vulfmon & Drew Taubenfeld

というように、ジャムセッションで行われた演奏を聴いて、その本人にレコーディングをもちかけた、という経緯らしい。撮影場所はJackの自宅だろうか。このテイクも2人だけのレコーディングで非常にミニマルになっている。

原曲もかなりロマンチックでサーフテイスト満載な曲だが、ペダル・スティールのカヴァーになるとさらにサーフ感が増すように思う。これは非常に良いところに目を付けたと言わざるを得ない。

そしてビートルズのオマージュ、ビーチ・ボーイズのカヴァーと、Vulfpeck本体では見えてこないJackの音楽嗜好が垣間見えるのも、ソロプロジェクトであるVulfmonの良いところである。


8. Nice To You (Little Yacov Version)

Written by Jack Stratton & Jacob Jeffries
Produced by Jack Stratton
Little Yacov — vocals
Vulfmon — piano, bass, mixing
Ryan James Carr — drums, mixing
Weber Marley — string arrangement

こちらは前作『Vulfnik』に収録された「Nice To You」の別バージョン。やはりJacob Jeffriesとの共作である。

全て録り直しているのでリミックスではなく別バージョンなのだが、大きく異なっているのはJacobの歌声がとても高く子どものようになっている点だ。

これはMicheal Jacksonのヴォーカル・モデルを使って、Jacobの声がマイケルの声になるように加工したものだということである。

ジャクソン5を思わせるヴォーカル、またバックトラックもそれを想起させる。非常にクラシックなソウルだ。

歌詞も当時のソウルっぽさ、特に👆の「ABC」をオマージュしていると思わせるような箇所があり、こういった路線もJacobとのコラボ曲が得意とするところである。

※[コーラス]
君に親切にするよ
君に親切にする、努力する、君のためなら死ねる
君に親切にするけど、僕のこと好きじゃないんだね
君に親切にする、努力する、君のためなら死ねる
君に親切にするけど、僕のこと好きじゃないんだね

久しぶりだね
屋上に座ってソンドハイム(筆者注:ミュージカルの作曲家)を聴いてから
打ち上げで酔いつぶれたふりをしたと言ったね

君は演技がうまいと言った
酔ったふりに徹するのは難しいから
大げさなことをすれば溶け込めなくなる

そこで君を見失ったのかも
君はいつもそうしているかも
隣にいる男に夢中なふりをして
針は深く入っている、君は釣り上げて放すだけ

[コーラス]

君は僕のこと好きじゃないんだね
ああ、僕に
君は僕のこと好きじゃないんだね
違うよ!
君は僕の敵なんだ


君は秘密を教えてくれた
僕は一緒に死ぬって神に誓ったんだ
日焼け止めを盗んだ時のように
映画館のそばのウォルグリーン(筆者注:ドラッグストア)で

今、僕は前に進もうとしている
でも僕の足はアクセルを踏んだまま急ブレーキがかかっている
スピンしちゃうよ、でも僕は屋上と打ち上げの事を考えてる

そこで君を見失ったのかも
君はいつもそうしているかも
隣にいる男に夢中なふりをして
針は深く入っている、君は釣り上げて放すだけ

[コーラス]

君は僕のこと好きじゃないんだね
ああ、僕に
君は僕のこと好きじゃないんだね
違うよ!
君は僕の敵なんだ
敵、敵、敵……

訳:筆者

ちなみにこの曲は2024年1月9日、NHKの「おげんさんのサブスク堂」で紹介された。


9. Disco Snails

written by zachary barker and vulfmon
vulfmon — instruments, vocals, mixing
zachary barker — vocals
weber marley — string arrangement
video by jack stratton

こちらは初共演となる、LAのコメディアン・ミュージシャンのZachary Edward Barkerとのコラボ。(👇Instagramアカウント)

右がZachary Barker
画像出典:Disco Snails | Vulfmon & Zachary Barker

曲名は「カタツムリ・ディスコ」。その名のとおり、レトロなディスコファンクの曲調となっている。

演奏はすべてJackが担当、またストリングスアレンジは他の曲同様にWeber Marleyが担当。このストリングスがまたディスコっぽくて良い。

完全に2人だけのサウンドで完結、またAパートとBパートの繰り返しだけの構成になっている点も、非常にミニマルな曲だと言えるだろう。

こちらの歌詞はなんとJackがVufpeckのXアカウントで機械翻訳による日本語訳をアップしてくれていたのだが、いつものようにすぐに消されてしまった。というわけで、ここでも筆者による翻訳を掲載させていただく。

全てのカタツムリの殻の中には小さなディスコボールがある
ディスコは死んだのではなく、小さくなっただけ
彼らはブギウギをその虫のような体に宿している
自然界のスーパー・フリークスたちはファンキーな趣味を探すのが大好きだ

カタツムリ・ディスコ
彼らはディスコのレールを外れてサンフランシスコに出かける
彼らは出会いディスコを踊る、うんざりするようなゴミ箱の中で
アフターパーティーは君の庭でケールを食べてる
ディスコで踊ろう、彼らはカタツムリ・ディスコだから

ディスコは何? カタツムリ・ディスコ、銀の軌跡を残す
ディスコはどこ? 現在地はサード・ミッション
ディスコはどうやって? 彼らは屋上(ルーフ)でグルーフを見つけた
ディスコはなぜ? 簡単な答えさ、彼らがダンサーだから

高速道路が渋滞している、カタツムリが逃走中だから
足元に気をつけろ、厚底靴の上の身長はわずか1インチだ
彼らはバギー・ボディで最高にスムーズでグルーヴィーな動きを見せる
このまさにファンカデリックな連中が、パーティーを始めるためにやってきた

カタツムリ・ディスコ
彼らはディスコのレールを外れてサンフランシスコに出かける
彼らは出会いディスコを踊る、うんざりするようなゴミ箱の中で
アフターパーティーは君の庭でケールを食べてる
ディスコで踊ろう、彼らはカタツムリ・ディスコだから

ディスコは何? カタツムリ・ディスコ、銀の軌跡を残す
ディスコはどこ? 彼らは愛に満ちたヘイトにいる
ディスコはどうやって? なりすまし(スプーフ)じゃない、グルーフを見つけた
ディスコはなぜ? 簡単な答えさ、彼らがダンサーだから

ディスコは何? カタツムリ・ディスコ、銀の軌跡を残す
ディスコはどこ? 彼らの緯度(ラティチュード)は感謝(グラティチュード)
ディスコはどうやって? なりすましじゃない、グルーフを見つけた
ディスコはなぜ? 簡単な答えさ、彼らがダンサーだから

ディスコは何? カタツムリ・ディスコ、銀の軌跡を残す
ディスコはどこ? それは言えない
ディスコはどうやって? なりすましじゃない、グルーフを見つけた
ディスコはなぜ? 簡単な答えさ、彼らがダンサーだから

ディスコは何? カタツムリ・ディスコ、銀の軌跡を残す
ディスコはどこ? それは言えない
ディスコはどうやって? なりすましじゃない、グルーフを見つけた
ディスコはなぜ? 簡単な答えさ、彼らがダンサーだから

訳:筆者


10. Hit The Target (Vulfmix)

written by theo katzman
eddie barbash — sax
dave mackay — synth
sefi carmel — mastering
vulfmon — production, mixing

アルバム最後の曲は、Theo Katzmanの「Hit The Target」をVulfmonがリミックスしたテイク。

イントロのシンセは同じだが、そこからが全く異なっている。原曲がシンプルなロックなのに対し、こちらのVulfmixではシンセポップ、テクノのような曲調に変化している。

画像出典:Hit The Target (Vulfmix) | Vulfmon feat. Eddie Barbash

動画のイントロに「LIVE AT GUITAR CENTER」と書かれているが、これは大手楽器チェーンのGUITAR CENTERで撮影した、という意味だろう。手元とサウンドが全く合っていないので、勝手に売り物のDJ機器の前にカメラを置いて、適当に機材を触っているだけだと思われる。これでMVを完成させてしまうあたり、さすがJackだ。

曲はTheoのヴォーカルが消されていて、メロディーを別の楽器がなぞっている。これはEddie Barbash(エディー・バーバッシュ)のサックス録音を、ボーカル・モデラーに取り込ませて加工したものだとVulfpeckのInstagramに書かれている。バックのシンセは初共演のDave Mackay。

Eddie Barbash(エディー・バーバッシュ)
画像出典:Eddie Barbash Facebook

曲調はアルバムのなかでは異色だが、ミニマルでポップだという路線については、この曲においても全くぶれていない。むしろアルバムの最後を飾るのにふさわしい1曲だと筆者には感じられた。

そして、この曲にTheoの声は入っていないが、曲がTheoのものだということで――実にこのアルバムには、Theo、Joe、Woody、Joey、Antwaunと、Cory以外のVulfpeckメンバーが全員関与していることになる。

それは彼らの変わらぬ友情を示しているようで――素晴らしいことだと言えるのではないだろうか。




以上が、Vulfmonのニューアルバム『Dot』の解説である。

記事の最初にも述べたが、このアルバムは2024年7月末までDiggers Factoryで予約注文を受け付けている。

今回はなんと特別に、アルバムジャケット中央の空白に、35000円で自分の名前を入れることができるサービスがある。

画像出典: Vulfmon Dot (JAPAN First Pressing)

Diggers Factoryでの注文方法についてはこちらの記事👇で紹介したので、もし注文する場合はぜひ参考にしていただきたい。


それでは、また次の記事でお目にかかろう。


◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー

宇宙からやってきたファンク博士。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。「KINZTO」と並行して、音楽ライターとしても活動しています。

■バンド公認のVulfpeckファンブック■


■ファンクの歴史■


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Dr.ファンクシッテルー
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