温泉療法は有効?『メタ解析を含むシステマティックレビュー』の信頼性
こんばんは、Dr Fjです。
本記事は、2020年9月26日に書いたものの再掲です。
今日は、Care Netと毎日新聞の電子版で取り上げられていた温泉療法についての論文について考えてみたいと思います。
当該記事はこちら
この研究が発表されているjournalは、2020年9月現在ではImpact factorはついていないOpen accessのjournalで、出版手数料として、出版時には著者が出版社に対して2500米ドル(約26万円)支払う必要があるというものです。端的に言えば評価の高いjournalとは言えないようにも思いますが、PubMedやEmbaseには収載されているようです。論文自体の概要は、ランダム化比較試験(RCT)を”Systematic review”(メタ解析を含む)してみた結果、鎮痛効果としては検討した論文のほぼすべてが有効としており、その他のoutcomeでも有効性があるということであった、というものです。
温泉の効能効果というのはよく目にするものであり、それを名前をよく知られている大学の教授が英文雑誌でRCT研究をメタアナリシスして有効と言っていて、これを毎日新聞という、これまた全国紙と呼ばれる新聞が注目記事としている…。一般の方から見れば状況的には限りなくホンモノにしか見えない研究と言えます。この研究がどのようなものなのか、私の知っている”科学”の視点から評価してみたいと思います。
まず、第一に読んで思ったのは『この研究は本当にメタアナリシスなのか』ということです。Wikipediaにも書いてある通り、メタアナリシスとは『複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること』です。本文を読む限り、研究結果を網羅的に紹介はされているものの、研究結果を統合して分析しているようには読めないので、これは一般に言われているメタアナリシスとは似て非なるものだと思います。
文献の絞り込みに関しては条件を設定して複数の検索エンジンを用いて実施していることから、Systematic reviewではあると考えられます。ただ、引用した文献それぞれの質の評価は行っていないと書かれていることから、状況としては『ゴミ論文を集めて陳列している』という可能性が否定できないのも事実です。そして、RCTを集めているということですが、そもそも論として温泉につかるか否かといったことが盲検化されて実施できるはずもないので、RCT自体の質は高くないことが予想されます。そして、これは根本的な問題だとも思うのですが、温泉につかると、リウマチでも多発性筋痛症でも心不全でもリンパ浮腫でも、なんでも症状を緩和しますよ、という話を正当化するbasicなメカニズムは不明です。メカニズムが不明だけど効果はあるという治療は少なくはありませんが、本件では対象とする疾患がやや多すぎるように思います。
そして、これは非常に根本的なことなのですが、この論文のCOI関係については、疑義しかないと言えます。論文ではDisclosureとして、『この研究の発表に関して、利益相反はありません』とおっしゃっておられますが、この筆頭著者の上岡先生は 日本温泉気候物理医学会理事という肩書のある方です。つい最近はんこ議連の会長がIT担当大臣になって問題になっていましたが、これに近いものがあると言えます。利益相反があっても問題はありませんが、これをないと堂々と宣言していることは問題だと思います。
以上のことを考えますと、Dr FJ一個人の考えではありますが、この研究が信頼するに足るエビデンスを社会に提供しているとは思えないという結論になりました。もちろん、これは温泉療法、水中運動の効能効果を否定するという話ではありません。温泉に入るのは単純に気持ちいいですし、私もよくお世話になっています。私が言いたいのは、本研究によってこれらの治療法が有用であると証明されたというのは正しくないということです。…まぁ、普通に考えればRCT研究をメタアナリシスしているのにimpact factorも付いていないopen journalから発表されているという状況証拠から考えるだけでも、ちょっとどうかなと思うのは自然だと思いますが。
温泉の効能効果については古来よりどの温泉にもうたわれているものですが、これが医学的にどうかという話になるとどこかうさん臭さを感じるということが多いです。こういう研究が筆頭著者およびその所属する大学、当該学会、当該新聞社、そしてせっかく取り上げた温泉療法自体の社会からの評価を下げないと良いなと思います。
まとめ
・温泉療法の有用性を示したメタアナリシス付きのシステマティックレビューを、某大学の教授が書いて、これが毎日新聞などの大手メディアに取り上げられていた。
・実際にはメタアナリシスと言えるような代物ではなく、研究としてのこの論文の価値は薄いように思える。
・温泉療法自体の効果のあるなしということとは関係なく、中途半端なちょうちん持ち研究は、発表者やその治療法自体の価値を下げることにもつながるので逆効果。
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