凡人が数学科で生き残る方法
はじめに、この記事は研究室配属の前の数学科の学部生向けに書いたものなので、うっかり適当に研究室を選んでしまった学部4年生や、「数学わからないンゴwwww」と発狂している修士の学生さんにはまったくアドバイスができない。私から言えることがあるとすれば、それは「頑張れ」の一言に尽きる。
助けてくれや研究室どないして選んだらええねん
学部生活の後半になると、いわゆる研究室配属があると思うのだが、よほどやる気のない限り、行きたいゼミなどある由もないだろう。そんな諸君におすすめしたいのが、解析系の研究室である。
「は?解析?必修でやったけど全然わからんかったわ」
大丈夫。解析学は、数学の3分野のうち最も、凡人でも「なんとかなる分野」なのだ。
幾何学は?
まず前提として、数学の研究領域は(大別して)幾何学、代数学、解析学、という3つの分野に分けることができる。
コトバンクによると、幾何学とは、
のことらしい。もちろん、ここで言う「図形」とは、小学校で習った三角形や四角形のみならず、直観的に理解しがたいものも指す。三角形や四角形だけを扱っていれば幸せだが、幾何学を専攻する場合にはそういうわけにもいかず、いわゆる現代幾何学では、位相空間と多様体を基本言語として高度に抽象化された概念を扱わなければならないし、そもそも位相空間や多様体自体もかなり抽象的である。また、幾何は代数と解析の内容を前提知識として要する場合が多く、これもまた幾何学のキツさ上げるのに一役買っている。
さらに別の側面として、幾何学にはときたま地雷があることも挙げておかなければならない。大学受験の参考書で「やさしい理系数学」というタイトルで旧帝理系レベルの問題を次々と投げてくる問題集があったが、幾何学はあれに近いと思う。整数の問題は非数学科の人でもその問題設定を理解できることが多いが、ああいうのは幾何学の高度な知識を必要とする問題であることが多い。有名どころだと、フェルマーの最終定理なんかは、小学生でも問題設定が理解できるのに、名だたる数学者達を以ってしてもなかなか解けなかったところを見ると、幾何の問題っぽい雰囲気があるし、実際、解決の糸口となった「谷山-志村予想」は幾何学の問題である。
要するに、我々凡人が幾何学を学ぶには脳が疲れすぎるのだ。その脳の疲弊に立ち向かっていける情熱を持った人だけが、幾何学の道を進む権利を有する。
そういうわけで、凡人の君に幾何学はおすすめしない。
代数学は?
代数学はどうだろうか。
代数の研究室に所属している学生の大半は、どうせガロア理論を学びたくて研究室を選んだのだろう。(てか代数系に進んだ私の友人が全員そうなので)
何事にも興味をもつことは大事だが、彼らにひとつ言いたい事がある。
「やめておけ。お前には無理だ。」
「そんなのやってみなくちゃわからないだろ!!」という声が聞こえてきそうだが、私が思うに、代数学は天才の学問なのだ。
代数学の教科書をパラパラ見ればわかるが、出てくる定義や証明に突拍子もないものが多すぎる。(少なくとも"凡人"の私の目にはそう映る。)もちろん自然に思いつきそうなものもあるが、代数学の世界に革新をもたらしてきた「群」や「ガロア群」は、我々には到底思いつかないどころか、ガロアの理論は至っては、理解することすら多くの障壁を乗り越えなければならない。話がとにかく抽象的である。
こういうことを言うと、「いやいや!俺なんか準同型定理の証明をスラスラ読めたぜ!どうだ!俺の頭脳は代数学に進んでも通用するぜ!」とほざく輩が出てきそうだが、勘違いしないでほしい。準同型定理なんかどの分野でも「あたりまえ」に使うことだからね。必修の「代数学」の授業では、(群の)準同型定理をゴールとしている学校が多いだろうが、それは代数学は学部生には難しすぎるが故にイントロしか扱わないだけであって、決して代数学が簡単だからというわけではないのだ。
そういうわけで、凡人の君には代数学もおすすめしない。
解析学は?
さて、ここから本題だ。必修科目の中では解析学が一番難しいように感じた学生が多いだろうが、実は解析学は、先ほどの2つの分野が抱えていた問題を見事にクリアしている。先ほどの説明のとおり、幾何と代数らが抱える問題は、
高度な前提知識を有する問題
天才的な発想が必要とされる問題
であった。
1つ目に関しては、解析学がこれをクリアしていることは明らかであろう。実際、学部必修レベル微積と線形代数の内容さえきちんと頭に入っていれば、解析学の授業もスムーズに進めることができたはずだ。(ただし、微積と線形代数をきちんと理解できている学生は少ない。なんなら私も当時はあんまり理解していなかった。)また、解析の概念は図に描けることも多い。解析学の「高度な概念」は、他の2つ分野の「高度な概念」に比べ、幾分か理解しやすいのである。
また、2つ目に関しては、解析学が「不等式の学問」と言われるように、自然な式変形や発想によって問題が解決できるパターンが多い。例えば、複素数a+biを、その実部aに対応させる写像、つまり自然な射影を考えるだけで問題が解決したりすることがよくある。「自然な」というのはかなり重要で、他の2つ、特に代数学は、学部初級レベルの内容ですら「いやこれ思いつくわけねーだろ」とツッコみたくなるようなものが結構ある。
長くなったが、私の勝手な脳内イメージはこうである。
学部2年のときに代数学の教科書を読んでこのイメージを抱いたが、これは今でも変わっていない。
もちろん「この中だったら解析がまだマシ」というだけであって、どの分野も難しさを大いに孕んでいるが、それは数学科という道を選んでしまった以上は避けようもないことであるから、諦めて精進するしかない。
まとめ
解析なら凡人の努力でも修士の卒論まではなんとか耐えることができます。(と仲の良い先生が言っていたので多分耐えるはず。…多分ね)
あと冒頭でふるい落とすべきでしたが、博士に進もうとしている意欲の高い人はこんな記事を参考にしないでちゃんとやりたい分野を選んでください。
拙い文章を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
最終更新 2024年9月9日