シリーズ大学入試①前編
2021年、センター試験に替わってついに実施された「大学入学共通テスト(以下、共通テスト)」。従来のような暗記中心では通用しない、記述式問題が出題される、英語に民間の検定試験(英検など)を導入する等々……さまざまな事前情報が飛び交いました。かと思えば、記述式や民間検定の導入は見送りになるなど二転三転の連続で、さながら“大学入試狂騒曲”の様相を呈することに。「明治以来の大改革」とまで言われた今回の大学入試改革でしたが、結局のところどんな試験だったのでしょうか? 前編・後編の2回にわたって整理してみます。
知識量だけでは勝負できない入試
今回の大学入試改革における変更点のキモは、大きく分けて三つでした。一つめが、単純な知識量だけでなく「思考力」「判断力」「表現力」を問うこと。そして数学と国語の一部で記述式問題を導入すること。最後に、英語の試験で、英検などの民間検定を用いて測定することです。しかし、冒頭でも触れたように記述式と英語の民間検定導入は見送られたため、最初の「思考力」「判断力」「表現力」がどのような形で問われるのかに注目が集まりました。
そもそも、「思考力」「判断力」「表現力」とは何でしょうか。端的に言うと、自分の頭で考える力、それをもとに結論を導き出す力、その考えなどを分かりやすく伝える力のことです。これらは「非認知能力」とも呼ばれる数値化しにくい力であり、変化の激しい今後の実社会で必須とされる素養。2020年度から順次施行が始まっている新しい学習指導要領にも、これらの力を育てたい旨が明確に盛り込まれています。つまり、単に試験内容を変えるという表面的なものではなく、国としてどんな人材を育てたいのかという一本化された方針が、入試改革という形で表れたということです。
入試問題においては、持っている知識や資料・データを応用して考察し、解や意見を引き出し、適切に解説する力が見られていると考えれば良いでしょう。
複数の資料から読み取る問題、実社会の事象に則した問題が続出
では、実際にどのような形で入試問題に反映されたのでしょうか。まず実質上、「表現力」を直接的に問う問題は出題されませんでした。当初は、記述式問題で意見や解法の解説などを書かせることで表現力を測る予定でしたが、記述式そのものの採用が見送られたためです。
「思考力」「判断力」も記述式問題で測る要素が強かったのですが、こちらは別の方法でしっかり問うてきた印象です。全体的に、グラフや写真、地図、会話文など複数の資料から読み取って考察する問題や、日常生活や実社会のできごとを題材にした問題が多く出題されました。
例えば数学では、100m走のタイムが最も良くなる走り方を二次関数で分析する問題が出ています。従来の二次関数は「関数をグラフにせよ」「kの値を求めよ」という、いかにも数学らしい出題形式が一般的で、解き方だけ知っていれば正答できました。しかし共通テストでは、その応用力が問われたわけです。また、アメリカ大統領選を題材に、支持政党の地域別分布からトランプ氏が支持を得るために必要な政策を推測する、「地理」の問題も出題されました。
いずれも「学問(知識や教養)とはこう使うんだ」という良い見本です。ひいては「この発想力と応用力で、さまざまな現実の課題を解決できる人材を育てたい」という、本来の理念が強く表れた問題だったと言えるでしょう。知識を知識のまま終わらせるのでなく、実社会での実用性に絡めた「問題解決能力」も大切にしていることが分かります。
日常的に、社会と知識を結びつけて考察する癖を
これをふまえ、これから共通テストに挑む受験生はどんな準備が必要なのでしょうか。まず、100m走や米大統領選などに見られる、実社会との関わりを意識した出題傾向は2022年以降も踏襲されるはずです。すると重要なのが、日常的に社会のできごとに関心を向けておくことでしょう。ニュースや社会問題に気を配り、視野を広げておくことが欠かせません。
またその際、単に情報や知識としてのみインプットするのではなく、自分なりにその事象に対する意見を考えてみることも大事です。これが「思考力」「判断力」の良いトレーニングになります。さらに「なぜそう思うのか」を論理的・客観的に分析してまとめる癖もつけたいところ。すなわち「表現力」です。採用が見送られた記述式問題ですが、国はひとまず「2024年まで延期する」と発表しており、完全に立ち消えたわけではないので注意が必要です。
もちろん、それらすべての土台として、高校で学習する知識の定着は大前提。そこで次回は、具体的な各科目の試験内容にもう少し触れつつ、傾向を分析してみます。