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#18 サプライチェーンのデータ連携~変わりゆく取引の世界観~

こんにちは、GTです。
今回は自動車業界を中心に進んでいるサプライチェーンのデータ連携について書きたいと思います。


データ連携の動き

サプライチェーンでデータを連携していこうという動きは国内外で始まっています。
動きの発端は欧州で、GAFAなどのプラットフォーマーがユーザーの購買情報などのデータを自社で囲い込んでいることへのアンチテーゼのような形で、自分のデータをどう扱うかは自分が決めるものであるというという考え方を取り入れて、企業間でデータを流通するコンセプトをまとめた「GAIA-X」というものを打ち出しました。(ちなみに自分のデータの扱い方を自分で決める考え方を「データ主権」と呼んでいます)

このGAIA-Xの構想を具現化しながら(データ主権を維持しながら)実際にサプライチェーンの企業間でデータを流通していこうという具体的な動きが出てきていて、その代表的なものが自動車業界を対象にした「Catena-X」です。このCatena-Xでは企業間でデータを流通するユースケースがいくつか設定されていて、そのうちの1つである脱炭素、つまりはCO2排出量をサプライチェーンで可視化していこうという動きが始まっています。

日本でも欧州の動きに追随する形で、1年ほど前にデータ連携を行う取組の総称となる「ウラノス・エコシステム」を打ち出しました。このウラノス・エコシステムでは最初のユースケースとして電気自動車用のバッテリーを対象にして、Catena-Xと同様のCO2排出量のサプライチェーンでの可視化や、原料となるレアメタルの採掘現場で児童労働などの人権侵害がないかのチェックなどを行う機能を実装していこうとしています。

このように、国内外でサプライチェーンでのデータを連携していこうとする具体的な動きがまさに現在進行形で進んでいる状況です。

データ連携が進む理由

それではなぜこういうサプライチェーンでのデータ連携をしていこうとする動きが進んでいるかを書いていきたいと思います。その大きな理由として、企業に求められる環境への責任範囲が企業単独でできる範囲を超えているから、ということがあります。

ここ数年、脱炭素やカーボンニュートラルといったことが大きく取り上げられるようになり、企業に対しては投資家などからCO2排出量を減らす、2050年などの将来にはゼロにするようプレッシャーがかけられています。そしてそのCO2排出量の対象範囲は自社だけではなく、サプライチェーン全体とすることが求められているのです。

CO2排出量の対象範囲として3つのスコープが定義されていて、自社で使う燃料由来をスコープ1、自社で使う電力由来をスコープ2、そして自社以外の関係するサプライチェーン全体に由来するものをスコープ3と呼んでいます。現在のところ企業(主に大企業)への具体的な要求として、スコープ3を含めたCO2排出量を開示しなさいという動きがあり、実際にCO2排出量を計算して開示しているのですが、その計算方法は「この原材料を作るときのCO2発生量は普通だいたいこれくらいだよね」という考え方で決まっている一般的な数値が使われています。なので、各社が調達しているモノの実態を必ずしも反映できていないことと、実際にサプライヤーが努力してCO2排出量を減らしたとしてもその努力が反映できない構造になっています。

なので、データ連携の動きが進む理由としては、CO2排出量の実態をきちんと把握することと、削減した努力がきちんと反映されるようにするためです。そして、それを加速している背景として欧州の規制があって、例えば電気自動車用のバッテリーについてはどの程度のCO2排出量であるかを開示しなさい、そしてそれをこれくらい減らしなさい、という要求が今後数年スパンという時間軸で具体的に決められているという規制(欧州電池規則)があったりします。

TierX企業はどうするか

上で示した例では、CO2排出量を減らしたりする最終的な責任は自動車メーカーにあると言えます。ただし、当然ながら自動車メーカーだけでどうこうできる話ではなく、Tier1と呼ばれる直接の調達先はもちろん、さらにその先の調達先であるTier2、Tier3、Tier…、という形でサプライチェーンを遡ってCO2排出量を減らすことを自動車メーカーが要求することになります。

そういう要求というのもこれまで一部では行われたりもしましたが、データ連携の動きが進むことでの決定的な影響として、実際にCO2排出量が減っているかどうかがわかるようになる、ということです。言い換えると、これまでCO2排出量が減っているか検証が難しかった若しくはできなかったことが、データ連携の動きにより検証できるようになるということです。

そのときに起きてくる変化として、部品などを調達する際の購買決定要因にCO2排出量の少なさが加わるということが確実にあるだろうと思います。これまでは求める品質を、許容できる価格で、必要なタイミングに必要な数を納入できる、いわゆる「QCD」が基本的な購買決定要因でしたが、そこにCO2排出量が加わることで、それが「QCDC」または「QC2D」といった形で新たな「C」が追加されるでしょう。調達交渉の場で「おたくのモノは品質と価格はいいんだけど、こんなにCO2排出量が多いんだと買えませんわ」という会話がなされる世界観です。

そういう世界になっていくにあたり、これまで直接的、具体的な要求がなかったTierXの企業にも対応が迫られることになります。そのために必要な備えとしては2つあるだろうと思います。
1つ目は、今のCO2排出量を算出できるように必要なデータをきちんと把握しておくことです。CO2排出量はエネルギー使用量に応じて変わるので、どんなエネルギーをどれだけ使ったかをすぐにわかるように管理しておく体制は必須でしょう。それと、データ連携で求められるCO2排出量は製品単位となるはずなので、多品種を生産している場合には、使っているエネルギー使用量のうちどの製品にどの程度使っているのかを配分する考え方を決めておくことも必要になると思います。
2つ目は、エネルギー使用量を削減する方法を把握しておくことです。たぶん費用対効果がある方法はやりつくされていて、他の方法としては設備投資が必要で投資回収に長期間かかるものであったり、電力を再エネメニューに切り替えるなど単純にコストアップになるものではないかと思います。今はそれをやらないのが経済合理的である状況ですが、データ連携が進んでCO2排出量の削減が求められるようになると最悪の場合は取引ができなくなるということになるので、経済合理性を考える前提が変わってきます。CO2排出量の削減が必要となった場合にどんな方法があるのか、それぞれの費用体効果(一定のCO2排出量を減らすのに必要なコスト)がどの程度なのかを把握しておくことができると、速やかな意思決定と行動ができるようになるでしょう。

データ連携が進んだ世界で勝ち残っていくために何が必要なのか、考えるきっかけになれば嬉しいです。

ではでは、また次回お会いしましょう。

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