「良き批判」とは何か。「批判」の健全な形はどうあるべきなのか
「ちくちく言葉」という単語を最近知った。名は体を表すというが、文字通り心に「ちくちく」刺さる言葉、つまりは誹謗中傷や暴言といったものの言い換えである。
その子供っぽい単語が表す通り、これは主に幼稚園や小学校などの教材として使われていることが多いらしく、それが大人にも波及したというのが経緯らしい。
いわば若者言葉というわけだが、最近の若者(といっても私もそこまで老いてはいないと思っているが)は、とにかくこうした単語を生み出すのが大好きだ。
気が付けば新しい単語がどんどん生まれ、急速に拡大し、そして世間でふるいにかけられ、定着することもあればそのまま闇へ葬られることもある。
私はこうした若者言葉にはとんと疎いものの、世のトレンドをある程度追わないと時代についていけないと思っているので、いつも傍から眺めることにしている。その結果見つけたのがこの単語というわけだ。
そういえば最近は「〇〇ハラスメント」という言葉も増えた。
昔からあった所謂「セクハラ」の発展から、高圧的な態度で相手を威圧する行為「パワハラ」に始まり、正論で相手をやり込めてしまう行為「ロジハラ」や顧客が企業に対して理不尽な要求をする行為「カスハラ」、「マタハラ」「モラハラ」「スモハラ」など、
もう「〇〇ハラ」という単語だけで百科事典を作れるのではないかというレベルに、「ハラスメント」文化は増殖を繰り返し、止まることはない。
最近は世界に名だたるような凄い商品はとんとお目にかかれなくなったのに、新しい若者言葉は次々と生み出していくのだから皮肉なものであるが、最初は一個人が使い出した造語にすぎなかったものが、だんだん多くの人が使い始め、やがては定着するというシンデレラストーリーは私の好きなところである。いつかは自分でもそうした単語を作って定着させてやろうか、という野望も持っているのだが、なかなか成功することはない。底辺をさまようオトコの痛いところである。
という中で、私はそもそもこうした単語が増える原因というのを考えていた。まあ考えずとも分かる、最近のこの国では「批判を嫌う」人間が増えたからだろう。
ちくちく言葉にせよ、パワハラにせよロジハラにせよ、共通しているのは「相手に対して批判を投げかける」ということである(批判というだけにとどまらず、人の悪口とか、誹謗中傷とかいろんな呼び方があるが、ここでは「批判」に統一したい)。
もちろん行き過ぎた暴言がよくないのは当然だ。むしろ一般的な「〇〇ハラ」というのはそういったラインを超えた暴言に対して使われることが大半であろうし、それを諫めるきっかけとして使われることを願って流行した側面もあるだろう。
なのだが、とくに最近はちょっとした批判に対して過剰な反応が行われることもしばしば起こるようになった。
何か否定意見の多い作品があったとする。それに対して「私はこの作品の何々が嫌いだ」と率直な意見を誰かが言ったとする。
するとそれに対して「なんで悪口ばかり言うのか」「楽しんでいる人の邪魔をするな」などなど多数のバックラッシュが始まるのだ。
旧ツイッター(現X、以下ツイッター)ではこれが日常茶飯事のように見られる光景になっており、その様は果たしてどちらが悪口を言っているのか分からなくなるほどで、とにかく何か批判をする人間が逆に悪人認定されかねない状況になっている。
だが私の立場としては、「批判は悪」というのは「いや、それはおかしいだろう」という立場である。その論自体が言論封殺というのもそうだが、それ以前に事象には必ず功と罪があるもので、その両面から物事を考えていかなければならない。いい面だけを見て悪い面を見ようとしないと、そこの問題が解決されないまま、作り手はその悪い面を拡大させていってしまう恐れがある。
もし自分がホテルに泊まったとして、用意された部屋にゴミが散乱していたとしたらどう思うか。ここで「批判は悪だから」として店側にゴミ問題を把握させないと、部屋はますますゴミで汚れていくし、虫なども湧いて不衛生になり、ホテルはますます汚くなっていく。要はそれと同じだ。むろん過度な批判も同じことだが、それは後で述べる。
ここではその「批判が悪」とされている社会的な背景や、その「批判」というものが社会でどう受容されているのか、そして「批判」というものを適切に扱うにはどうすればいいのか、それらを私の想像力の及ぶ範囲で考えたことをまとめていく。
なお、作品の実名なども交えて話をしていくので、途中から有料になる。noteに登録していないユーザーでも購入できるが、スマホの公式アプリからポイントで購入した方がクレジットカードの情報入力などの手間が省けてオススメだ。
「批判が悪」とされるまでのロジック
一例がある。ツイッターで公開され、賛否含めて話題になった漫画の話である。
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