球団ヒストリー69.積年の課題、練習場所の確保Ⅰ
週末夜の必然
鹿児島ドリームウェーブが正式発足した2006年ごろ(当時のチーム名は鹿児島ホワイトウェーブ)、練習は週末の夜に限られていた。
これには理由がある。
球場が取れない。
クラブチームの特性上、ほぼほぼ全員が仕事との両立をしている。
中には野球優先のためにフリーターという働き方を選択している選手もいたようだし、中には求職活動中の選手もいただろうけれど、それは稀。
全員が別に本業を持ち、休日や終業後の時間を野球に充てているのが実態だ。
となると、全体練習ができるのはどうしても土日になる。
しかし土日の昼間に練習場所となる球場を利用しようとするとほかの団体との競合。非常に競争率が高く、なかなか確保することができない。
結果、選手が集まれて球場が使えるのは土日の夜だけ。
ほかの選択肢はなく、言ってみれば仕方なくこういう練習スケジュールになっていたわけだ。
競争率の高さと施設によっての決まりごと
土日ごとに球場などを利用したい団体が多いことは容易に想像できる。
しかしその予約の方法って私も全く知らなかった。
というか考えたこともなかったので、知らないということすら知らなかった。
鹿児島ドリームウェーブが利用する施設は、主なところで伊集院球場、姶良球場、指宿球場。このほか県内各地に足を運ぶ。
県内の野球場が予約できなければ、宮崎県のえびの王子原球場にまで足を延ばすこともある。
もはや鹿児島県ですらない。
ちなみにOP戦であれば、熊本県の山鹿市民球場や宮崎県の日南市天福球場など、高速を2時間以上走って行くこともある。
そして、これら施設ごとに予約方法も支払方法も違う。
現場に足を運んで抽選に参加しなければならない施設には、たとえどんなに朝が早くても遠方に住んでいても足を運ばなければならない。
コロナ禍を経てキャッシュレス化が大きく進んだにも関わらず、20年近くもずっと変わらず現金でないと支払いができない施設もある。
前金で一ヶ月分の現金支払いであったり、都度支払いであったり、月末締めで翌月振り込みであったり、本当にまちまちなのだそうだ。
たとえば具体的には?と尋ねてみたが、「予約と支払いの方法を球場毎に丁寧に時間をかけて説明して、かつ1~2年主体的に運用してみないと理解できないレベル」だそうだ。
苦笑いしてすぐに質問を引っ込めた。
公的施設としての球場
鹿児島県内で野球場というと、ほとんどが公的な施設。
平和リース球場(県立鴨池球場)は県の、それ以外は各市や町の施設だ。
鹿児島ドリームウェーブの選手たちにとっていちばん近いのは平和リース球場なのだが、しかしここは練習での利用は認められていない。
そしてご存じの方がいらっしゃるか分からないが、平和リース球場は鹿児島県教育委員会が管理する施設。
つまりは教育施設ということ。
ちなみに鹿児島市民球場は「観光交流局スポーツ課」の管轄とあった。
自治体が保有する野球場は基本的には教育委員会が管理することが多い。これはそもそも『体育』が教育の一環であるから。
しかし現在では時代の流れや利用実態から、スポーツや観光を管轄する部署に管理を移す自治体も増えているようだ。
教育や観光といった背景があるためか、はたまたコンテンツとしての規模の大きさが理由なのか分からないが、団体として最優先で利用できるのはNPB(日本野球機構=プロ野球)、続いて高野連。
プロの試合があればそのしばらく前から球場利用はできなくなるし、高校野球の大会はまず間違いなく決勝まで2~3週間は平和リース球場が確保されている。
球場利用の条件
さらに球場利用には一定の条件がある。
※県内あちこちに球場はあるが、利用条件はほぼ平和リース(県立鴨池)球場に準じているらしい。
『大会』や『イベント』が優先され、『練習』となると後回しにされてしまうのだ。前述のように、平和リース球場に関しては練習での使用は認められていない。
一口に『大会』と言っても、その中でまた優先度が違う。
全国大会が最優先。続いてブロック大会、九州大会…ときて、全国大会に繋がる予選、続いて九州大会に繋がる予選、県内だけの大会といった順番。
これは野球に関わり始めて35年を超える私も何度となく驚いてきたのだが、野球やソフトボールって、とにかくよく大会が開催されている。
なんなら知らない大会のほうが多いくらいなのだ。
軟式野球連盟や高野連、中体連や少年野球など団体が細分化されていることも理由の一つだろう。
オンシーズンには小学生や中学生、草野球チームなども含めてほとんどの週末に『大会』が組まれている。
そういえば数年前には、全国弁護士会の野球大会というのが開催されていて、平和リース球場で場内アナウンスを務めたことがある。
「そんな大会があるんだ」と思いつつ球場に足を運んだが、皆さん楽しそうにプレーしておられた。
全国大会だから北海道など遠方からもお越しになるわけで、鹿児島という美しい土地を、自慢の桜島をご覧いただく機会でもある。
野球に関わる身としても鹿児島県民としても、こういった大会は嬉しい気持ちにもなる。
『大会』でありさえすれば
この辺りのことだけを見ると、それはそうかもねと流してしまうのだが、よくよく考えると疑問も湧いてくる。
この条件下では、どんな団体でも『大会』であれば優先されるのだ。
プロ野球も開催されることがある平和リース球場は、国際規格に準ずる両翼98メートル、センターのいちばん深いところで122メートル。
この広い広い平和リース球場を、小中学生の大会に使うこともある。
かたや硬式の社会人野球は、いちばん体力ある世代の成人男性がプレーするのだ。打球は速いし威力が強い。練習と言えど打球が90メートル以上飛ぶこともよくある。
つまり、大きな野球場でないと練習すらできないわけだ。
子を持つ親としては、たとえば小学生の我が子が、より大きな箱(学校のグラウンドよりは市○○の球場、それよりは平和リース球場)でプレーするとなると誇らしいし、それは見たい!
私だってそう思う。
しかしその裏で、そこでしか練習もできないチームが練習場所を見つけられない事実がある。
公的施設である球場側としては「平等に」というのは当然の話だ。
”大会”であれば優先されるというシンプルなルールは分かりやすい。
しかし平和リース球場に関しては、大会もイベントもない日ですら、練習に門を開いてくれることはない。
社会人野球はここでしか練習もできないんだよ!?と主張することはないが、静かに片道2時間かかる球場に車を走らせ、試合以上の練習時間と汗をかいてまた2時間かけて帰っているチームがある。
彼らは翌日、また仕事だ。