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球団ヒストリー83.退団宣言!からの奔走
衝撃の大敗
話は少し遡る。
2014年の第85回都市対抗野球大会は、一次予選で梅田学園を7-1で破り、二次予選では三菱重工長崎に0-1と大善戦を繰り広げた。
どちらも強豪企業チームとの対戦。当時の主将北迫太樹さんが「ベストゲームに数えられる」と称した試合だ。
しかしその後の西部ガス戦では、すでに6点ビハインドでほぼ雌雄を決していた9回表にアウトが取れず、いつ終わるとも知れない長い長い守備を経て大敗。最終スコアは、なんと3-17だった。
2戦連続でのベストゲームともいえる試合を経ての屈辱的大敗。このことが選手たちに与えたショックは計り知れなかった。
退団宣言
主軸の一人であった田上幸司選手は、この試合のあと即「もう辞める」と言い捨てた。
シーズン途中にもかかわらず。
がしかし、意外と正式な退団の意思表明はない。
そして実は、水面下で選手獲得に向けて動いてくれていたらしい。
数か月後、ひとりの投手が練習に参加することになった。
早く教えてほしかった…?
球団代表國本正樹さんとしては「???」だった。
あの永遠とも思える長い試合に閉口してチームを見限ったかに見えた選手が、いつの間にか奔走していたわけだ。
しかも聞くと「兄が大学でコーチをしているので」。
田上選手は入団からすでにまる2年。
「それならなんで、今までそのことを言わなかったんだ⁉」國本代表がそう感じたのも無理はない。
ここまで投手力がなかなか揃わず頭を抱えていたのだ。
そんなツテがあるなら、早々に頼りたかったのに。
その行動の裏にあった想い
これにはどんな理由があったのか、田上さんにお聞きすることができた。
「あの大敗を受けて、チームの打力を上げなければと感じました。
自分は企業チームであるJR北海道に所属していた経験があります。同じくらいのレベルで話ができるのは誰かと考えたとき、同様に企業チームでプレー経験があり、現役を引退したばかりの兄が思いついて」
そう考えた田上さんは、日本経済大学のコーチに就任したばかりのお兄さんに誰か選手はいないかと相談したという。
この行動の背景には、田上さんが選手としての限界を感じ始めていたことがある。
「都市対抗の前に肩を傷め、守備練習ができなかったんです。でも打てるので試合では使ってもらっていた。
自分はそれでよかったですが、毎日練習している後輩たちにとってはモチベーションに響きます。逆の立場だったら自分もきっとそう思いますし。
上の世代がいなくならないと、下は育たない。そういう意味でも、新しい世代を探す必要はあると感じました」
西部ガス戦のあとの退団宣言については「すごく悔しかったので、感情的にそう言ってしまったかもしれません」とのこと。
あの大敗は投手力のなさに起因するものではあったが、4番を打っていた田上選手としては、のちのち自分が抜けた後のことまで考えたようだ。
「もう辞める!」という思わず出てしまった言葉に隠れていたが、そこにはチームの未来を見る視点が隠されていた。
そして決してコーチであるお兄さんの存在を隠していたのではなく、この年コーチに就任したばかりだった、ということだ。
エース入団
田上さんがお兄さんに相談したのは野手だったが、鹿児島ドリームウェーブに興味を示したのは鹿児島出身の投手、美山良太さん。
練習参加の日、1イニングだけオープン戦に登板した美山投手のピッチングを、國本代表は鮮明に覚えているという。
「インコースにズバッと投げ込んで三振を取ったあと、どうだ!という顔をした。これぞピッチャーだなと感じました。こんなピッチャーはそれまでうちのチームには一人もいなかった」。
のちに代表に「もし、ドリームウェーブに在籍した全選手でベストナインを組むとしたら、エースは美山かな」とまで言わしめた投手が、この2014年オフに入団を決めた。
こうしてありがたいことに日本経済大学という福岡の大学にご縁がうまれ、翌年、翌々年も入団者が続いた。
ずっと投手力が揃わないことに頭を抱えていた國本代表。
「そうか、県外に行けばいるんだ」と視野を広げる大きなきっかけとなった。
過去最多の入団人数
また同時期に、第一工大の岡留監督から東海大学九州キャンパスなどをご紹介いただき、その後の主力となる選手が続々と面談に訪れた。
その結果、2015年シーズンには実に17人もの選手が入団することになる。
これは球団史上最も多い入団人数。それは現在(2024年)も変わらない。
内川監督就任と同時に、選手の面々もがらりと変わることになる。
新時代が訪れる予感がした。
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