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球団ヒストリー87.内川監督エピソード0-②.基準が企業チーム

内川義久新監督は、ながく企業チームに関わってきた野球人。
企業チームというのは、企業という母体の中に野球チームがある。所属する選手にとっては野球も仕事の一部。出勤時に遅刻が許されないように、練習への遅刻も許されない。また、ほとんどのチームが専用の練習施設を持ち、充実した環境のもとで練習が行われる。

内川監督は、そういった背景のもとでながらく野球を続けてきた人である。
それを加味して読み進めていただきたい。

1回目の練習

Googleカレンダーを遡って調べたところ、おそらくは2014年12月1日。
この日が内川監督の合流後初練習だった。

練習場所は、珍しく鴨池公民館体育館。
ここは、野球というよりはバレーボールやバドミントンのために作られた施設だ。ティーバッティングやノックなど、野球らしい練習はほとんどできない。そのためほかの練習場が取れずこの施設だった時には、トレーニング中心の練習メニューだったようだ。

それに加え、この日時間通りに集合していたのはキャプテン北迫さんと、藤岡和樹選手のたった二人だけ。

さすがに北迫さんも二人とは思わなかったそうだが、初めての練習でその状況を目の当たりにした内川監督、「どういうことだ!」と怒り心頭。
さらに”体育館”での練習に「こんなところじゃ何もできない!」とさらに噴火したらしい。

しょっぱなでのこの怒りは、その場にいた数人の選手に非常に強い印象を与えた。

ちなみに、この鴨池公民館体育館での練習は当時もほとんどない。
ほかの施設が取れず苦肉の策で取った練習場が、たまたま内川監督の”初登板”に当たってしまったゆえのエピソードである。

なんのために鹿児島に来たのか!

内川監督にとって、練習開始時間に選手が集まっていないなんてありえない話。

企業チームは野球も仕事のうちであることに対し、クラブチームは仕事+野球。通常業務が終わってからの練習となるため、平日は時間通りに練習参加できない選手も多い。当然ながら、それまでも練習開始時に全員が揃っているというのは稀だった。

また、10月にシーズンが終わり退団した選手も複数人いた。
翌年の新入団選手が合流するのは概ね年が明けてしばらくしてから。
シーズンオフの12月は、そもそもの母数が少ない時期。

「何のために鹿児島に来たのか分からない!熊本に帰る!!」と騒ぐ内川監督を「今は仕方がないです。年が明けたらだんだんと新しい選手が合流してきますから、また増えます」
選手から代表からと、言葉を尽くして説明し、なだめる一幕があった。

企業の協力体制がさらに整うきっかけに

練習開始に間に合わない選手が多かったことは内川監督にとって非常に大きな課題だった。

「これは代表の責任だ。
 企業に伝えて、練習に間に合うように協力体制を整えてもらう必要がある」
そんな言葉を耳にしたのは北迫キャプテン。

こうして、代表を通して所属企業へ練習参加への協力のお願いが伝えられることになったようだ。

もちろんすぐに改善されたわけではなく、各企業も選手も試行錯誤をしながらだったとは思うのだが、これをきっかけに所属企業の協力体制がさらに強化されたという。
内川監督にとっての「当たり前」が、それまでの練習環境をも変えていった。

これは、大きな功績の一つかもしれない。

歓迎会(兼忘年会)での不機嫌

2014年12月26日。
鹿児島中央駅周辺のお店で、内川監督の歓迎会を兼ねた忘年会が行われた。
選手単位ではどうかわからないが、チーム主体での忘年会はあまり聞いたことがない。おそらくは、歓迎会の意味が大きかったのではないかと思う。

練習同様に、このときも仕事終わりで三々五々集まってくる選手たち。
かたや、開始時間前には態勢を整え待っていた内川監督。

集合時間ちょうどくらいに店に入った國本代表は、奥の席で憮然とした表情の内川氏が少し気になったという。
とはいえ「ふだんからこういう感じなのかな」と気にも留めず。

お開きとなり店の外に出ると、すでに内川監督の姿はなかった。
選手によると「もう帰られましたよ」とのこと。

野球人というのは礼儀正しく義理堅い人が多い。
内川氏ももちろん例にもれず…というより、むしろさらに輪をかけて礼儀に厳しいタイプではないかと想像する。そんな方が、代表に挨拶もせず帰るというのは普通では考えにくい。

「おそらく、終始怒ってたんだと思うんだよね。
 自分の歓迎会なのに、時間通りに集まらないことに」
國本代表はそう語る。
「そのときは特に気にしなかったけど、今振り返ると象徴的なできごとだったかもしれない」。

なんの”象徴”なのかは、これから少しずつ明らかになる。

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