アニメウマ娘を視聴していたら、いつの間にか1998年にタイムリープした話
以下の文は「ウマ娘」というフィクションアニメを読み込んでいたら、ドハマりした筆者のノンフィクション体験談である。
2018年春。筆者は競馬に興味がなかった。なんなら漢字が読めずに「キョウバ」と読んでいた。馬を走らせて券を買う行為に馴染みがなさすぎて、読み間違いを正す機会も存在しなかったのだ。
しかし私は、野球の歴史にはどっぷり浸かっていた。野村克也の生涯を辿るやる夫スレッドや、世界の野球事情が掲載されたコラム記事などをよく読んでいた。
道具が足りない、プロリーグが存在しない、そもそも球場が存在しない、文化の違いが指導方法に影響を与える……
現在の日本野球とは全く違う異文化は、とても新鮮だった。
たとえば、日本はWBCで優勝を狙える超野球大国で、国際大会での目標はもちろん優勝だ。しかしアジアの後進国の目標は全く違う。打倒中国である。
アジア野球四強は「日本」「台湾」「韓国」「中国」でその牙城は何十年間も崩れていない。日本にとって中国の野球など負ける要素の無い相手だが、野球発展途上国からすれば高い壁なのだ。
まず中国を倒せるほどの戦力を持たねば、国際大会で常勝することはできない。
そんな野球発展途上国が、なんとか先進国に追いつこうと努力する姿は新鮮であり、憧れだった。野球先進国である日本人が、野球後進国へ指導者として赴く様は、まるで異世界転生モノだ。
国が違えば文明も違う。文明や文化が違えば、それは異世界だ。
後進国達には、まだまだ伸びしろがある。球場すらなく、ゼロからのスタートなことも多い。そのシチュエーションには、とてもそそられた。
同じシチュエーションの種類で言えば、学校でゼロから野球部を作るような、廃部寸前から蘇るような……
ありきたりの王道だが、現実に存在するなら応援したくなる。私もよくパワプロのペナントモードを遊び、あえて弱小球団からスタートして日本一を目指すような、そんな楽しみ方をしたものだ。
以上が競馬のケの字もないのが私である。
そしていつものように過ごしていた2018年春。
夢咲刻夜がウイニングポスト8(2018)という競走馬育成ゲームを配信し始めた。
さっき言った通り、私は馬に一切興味がなく飛びつけなかった。だが夢咲刻夜は配信した。なら私は夢咲刻夜の配信視聴者として、そのゲームをながら見てしまう。
ウイニングポスト8は1982年から始めるゲームモードがある。夢咲刻夜もそれを選んだ。そして第一回ジャパンカップまでの、日本競馬の歴史を演出するムービーが流れた。これが、とてもいい。
ジャパンカップとは、日本馬が海外の一流馬と対戦するために成立された経緯がある。「ハイセイコー」登場後の第一次競馬ブームを経て、日本競馬界が海外に進出しようと挑戦した。
そして第一回ジャパンカップは日本勢の大敗で終わった。
これをなんとみるか?競馬発展途上国である。そしてゲームプレイヤーは当時の日本競馬界を疑似体験しながら強い馬を育てようとしていく。アツイ。私の大好きなシチュエーションじゃあないか。こんな面白い歴史を知らなかったなんて、どうかしている。こうして私は夢咲刻夜のウイニングポスト配信を見逃せなくなった。
対戦相手には名のある強い馬が並ぶものだ。ミスターシービー。シンボリルドルフ。年代が進めば新たな強敵も登場する。ライスシャワー、トウカイテイオー、メイジロマックイーン……もちろん新参な私は何も知らない。知りたいので調べまくる。wiki見たりニコニコ動画の大百科を見たり、当時の映像や実況などを見たり……
そして今季2018年春には、馬を擬人化したアニメが放映されるらしい。超タイムリーかよ。スペシャルウィークが主人公だって? まだ夢咲刻夜のゲーム配信では、そこまでの年代に行ってない。知らない馬だ……先に調べるか……
そうして私はサイレンススズカにたどり着く。いや前々から、薄々はたどり着いてはいたが、ハッキリとたどり着いたのだ。その生涯がどのようなものだったかを。つまり、アニメの展開によっては、この先死ぬかもしれないことを知ったのだ。
アニメを視聴していくと、死への不安は強くなっていく。なぜなら、アニメウマ娘はとても面白かったからだ。
見た目よりも直動な熱血スポーツモノで、エロシーンが存在ない。だが当時の私は一切エロを求めておらず、スポーツとしての競馬を求めていた。よくわかんねえパンチラとかデケエおっぱいが動くだのよりも、熱い戦いを欲していた。そして求めていた需要が供給されて、私は気持ちよくなっていく。しかし振り返れば、そこにサイレンススズカが居る。
「サイレンススズカは、いったいどうなってしまうんだ?」
それは一切、わからなかった。
ウマ娘は細かい原作再現、つまり実在した史実馬のネタをかなり拾っている。オープニングシーンのレースから、数カットで終わるレースまで。芝なのかダートなのか右回りなのか左回りなのか、二着になった馬の番号はいくつなのかまで、こだわっている。
そんなこだわりを見せつつも、メジロマックイーンとは年代の違うゴールドシップが横に並んでいる。なんならさらに年代が違うウオッカとダイワスカーレットもいる。だが彼らはとても楽しく、生き生きとして見えた。
主人公はスペシャルウィークなので、アニメの舞台は主に1998年の競馬、クラシック戦線となっている。セイウンスカイやキングヘイローなどのライバルが現れ、史実通りの展開が行われていく。私は「あ、この前調べた展開と同じだ!これこれ~!」と進研ゼミみたいにはしゃいでいた。ついでに周りの反応や当時の状況を解説した元ネタ集とかにも目移りした。これらは大変助かり、ウマ娘の視聴をより楽しませてくれた。「ヒヒ~^ン」
そして持っていた不安には期待も混じってきた。
「サイレンススズカは、死ぬんじゃないか?」
だがどっこい、その予想はさらにわからなくなっていく。
エルコンドルパサー、日本ダービーへの出走表明である。
IF展開だ! 現実には存在しない展開が起きていた。
いや、今までも散々起きているはずだったのだ。
そもそも牡馬も牝馬も、ウマ娘とかいう女人間体へと擬人化し、トレセン学園なるものに通って、レースで一着を取ったら歌って踊るというのは、現実には存在しない。100歩譲ってそれらを許容しても、メジロマックイーンとゴールドシップが同時存在することは、こちら側の世界には無い。エルコンドルパサーのダービー挑戦というIF展開によって、私はウマ娘の世界にまた100歩譲ることになったのだ。
絶え間なく変化するその世界へ、順応していく私。
それはどういうことを意味するのか?タイムリープである。
ウマ娘時間軸は実際の1998年と近似している部分が多い。「異世界転生」と表現するのはあまり正確ではなさそうだ。1998年という過去世界に跳躍したのならば、やはり「タイムリープ」だろう。
つまり私は、サイレンススズカの死が観測された時間軸の人間なのだ。この世界でサイレンスズカの死が覆ることはない。
だがウマ娘というアニメを視聴したことにより、私はウマ娘時間軸なるものにタイムリープしたのだ。こちらではサイレンスズカの死は"まだ"観測されていない。そして時間軸も違えば、世界そのものが違うウマ娘時間軸は、次の展開がまるでわからない。エルコンドルパサーがダービーに挑戦したらどうなる? スペシャルウィークが勝つんじゃないのか? セイウンスカイは? それを知りたければ、アニメを視聴しろというのだ。「ウマ娘時間軸にタイムリープしろ」と。
タイムマシンは電子レンジではなく電子モニターに存在したのだ。
そしてニコニコ動画なるタイムマシンツールは、プレミア会員なら比較的大人数かつ高画質でタイムリープができる。だが放映日時にラグがあり、若干タイムリープ速度が落ちる。
くそが。サイレンススズカは、どうなってしまうんだ? このアニメでも死んでしまうのか? この時間軸でも死んでしまうのか? それとも奇跡が起こって生き返るのか? 歴史や運命には抗えるのか? それとも抗えないのか?
私の心はタイムリープモノの登場キャラクターになっていた。
「STEINS;GATE」とか。私は椎名まゆりの死を観測した岡部倫太郎なんだ。2020年になってからは「ひぐらしなく頃に」も似たような構図だと知った。古手梨花ちゃんも私だったのだ。なんだこれは。結構使われているシチュエーションだ。しかもド級有名な奴だ。わりとこの世には似た思いを持っている人間が居るんじゃないか? サイレンススズカのことを教えたら、人をタイムリープさせる事ができるんじゃないか? 全人類を岡部倫太郎や古手梨花にすることができるんじゃないか?
私はそう思っていた節がある。だからあのブロマガ記事ができたと思う。私にしては珍しく、人に伝えやすいように工夫を凝らしていた。
4月20日に記事を投稿した。sir1000に「たけ"ゆかた"になってるぞ」と指摘されたのはとても助かった。ガバガバでした。
そして記事がバズったのは、ウマ娘時間軸1998年11月1日後の話だった。全人類タイムリープ計画としては、まあ大失敗である。広まり過ぎて、もうどうでもよくなっていたけども。
そのあともアニメウマ娘を継続視聴した。私は拍手喝采だった。
トレセン学園のスクールモットー「唯一抜きんでて並ぶものなし」を最初に掲示しておきながら、最後のゴールで皆を並ばす脚本家に惜しみのない賞賛を送りたい。あれは「公平に」なんていう陳腐な並びではない。「唯一抜きんでた馬たちが、不思議にも全員居る。全員並んだとしても、不思議ではない」その不思議さの象徴だ。
私に100歩譲らせ、ウマ娘時間軸にタイムリープさせた。この納得させかたが、私にキーボードを打たせ、これまでの文字列を並ばせるのだ。そしてそのアニメウマ娘は、以後の文字列をも私に並ばさせる。
「ウマ娘の二期が始まるぞ!!」と。
2020/12/23/
・おまけ
二期、どうなるんだろうな。やっぱりIF展開はやると思うんですよ。IFを入れるならトウカイテイオーとメジロマックイーンが三度戦うんじゃないかな。こちらの時間軸では一度しか戦わなかったけど、戦わせるIF展開があるなら、三度ぐらいが脚本都合上良さそうに見えます。一回目は完全IFでトウカイテイオーが勝って、二戦目は史実通り。三度目はどうなるかな。
ツインターボも、とても気になるな。どんなことをするんだろう。勝ち負け問わず気になるところが、ツインターボの競馬そのものを見ているみたいで、とてもいい。メジロパーマーはどうするんだろう?年代的には重要なポジションなんだよな。でもメジロパーマーを削れば、そこにIFをねじ込めれそうだ。ということは、ナイスネイチャが勝つのもありうる? ああ先がわからない。楽しいなあ。先が読めそうで読めない。読めても読めなくても楽しい。楽しいなあ。
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