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<地獄の歩き方>第2回 さあ、旅に出よう!

 旅行はなにも決めずにブラリといくよ、と無計画に出かけるのがお好きな方もいらっしゃるかも知れませんが、大概は飛行機や電車のチケットを取ったり宿泊予約を取ったりする関係から、旅程ができます。死出の旅では、あなたが知っていようといまいと、すでに旅程表が作られています。死んだらあなたはどうなるのか、詳しく見てみましょう。

【旅程表 : ITENARARY】


 現世から、旅の終着地点まで、49日がかかります。これを冥途といいます。冥途というのは、来世のことでなく、その間のことなのです。ですから「冥土」と書かれていることもありますが、「冥途」と書くのが正しいでしょう。

・出発地:「死出の山」という山のすそです。旅立ちが決まったら速やかに スタート地点へご移動ください。

・初日〜6日:800里、3200キロの山道をおひとりで、星の光りだけをたよりに移動していただきます。もちろん徒歩でございます。

・7日〜13日目:山道を歩いていると法廷にたどり着きます。この日から現世での行いを細かく取り調べる裁判が行われるのです。この裁判で来世の行き先が決定される訳です。現世では、裁判が始まるあなたのために「初七日」という法要を行ってくれているはずです。裁判は、7日毎に7人の裁判官によって行われます。
大変です。詳細にあれこれ調べられますよ。最初は、秦広王(しんこうおう)にお会いします。最初に聞かれるのは、生前に殺生をしなかったかということです。虫などの生き物の命を奪うのも殺生です。それを認めて、代わりに何かよい事をしたことがあるというならば、次の場所で言うようにと7日の猶予が与えられ、次の場所に行くように指示されます。

・三途の川・賽の河原見学:次の裁判所へ向かうのに川を渡ります。料金は6文です。というわけでお棺の中に1文銭を6枚入れてくれてあるわけです。

・14日〜20日目:初江王(しょうこうおう) ここでいよいよ殺生についての裁きがあります。前の秦広王から調書が届いてます。無益に生き物の命を奪うのは罪となります。心当たりのある方は、はやくここで白状して謝ってください。

・21日〜27日目:宋帝王(そうていおう) ここでは、邪淫の罪について裁かれます。邪淫とは,不適切な性交渉ということです。 秘書との不適切な関係を暴露された元某国大統領なども、ここで裁かれる資格があります。

・28日〜34日目:五官王(ごかんおう) ここであなたは秤(はかり)の上に乗せられます。体重が測られるわけではありません。来世の行く先が自動的に表示される仕組みとなっています。地獄行きを宣告された多くの死者は五官王に懇願して再審請求をしています。

・35日〜41日目:閻魔王(えんまおう) あの有名な閻魔さまにここで会えます。「浄波璃の鏡」という、水晶でできた鏡があって、高性能嘘発見機のように嘘を見抜きます。そして、嘘をついた人は舌を抜かれます。

河鍋暁斎が描いた閻魔大王の図

・42日〜48日目:変成王(へんじょうおう) 秤と鏡を使った審査結果を、
さらに再審査します。地獄の仕事は実に丁寧です。

・49日目:泰山王(たいざんおう)  最終決定です。各裁判所で生前の悪行が全て厳しくあばかれますので、各裁判官がとてつもなく怖い人のように思えて来た訳ですが、じつは皆、仏さまであり誰一人あなたを極刑にしたいとは思っていないようで、なんとか救おうとしてくれています。じつは、裁判官は、それぞれ不動明王、釈迦如来、文殊菩薩 、普賢菩薩、 地蔵菩薩、弥勒菩薩、薬師如来であったのです。

・六つの鳥居:最終的には6つの鳥居がある場所に連れて行かれ、ひとつを自分で選択せよということになります。生前の行いに応じ必ず報いがあるという「因果応報」というのが仏教の原理ですので、その選択が生前の業の結果となるという仕組みです。六つの鳥居の先は、覗いても見えませんが、天界、人間界、阿修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄へとつづいているのです。これが六道輪廻の世界です。現世では、この日、あなたがよい世界へ行けるよう四十九日法要をしてくれているはずです。

6つの鳥居

 ところで、ほとんどの死者は49日までで判決が下ると考えられていますが、そうでないケースがあります。それは、「49日に渡る裁判でも決して罪を認めようとしない」「本人の罪は深いが、遺族による追善供養が非常に手厚い」等、特殊な事情がある者のみ、さらに再審が受けられる場合があります。その際は、死後百日、一年、三年のそれぞれの日に、平等王(びょうどうおう)、都市王(としおう)、五道転輪王(ごどうてんりんおう)による裁判が行われ、そこでようやく最終の判決が下る、とされています。これらの日が、現世で行う百箇日・一周忌・三回忌の法要なのです。

 さて、多くの皆さんが等しく同じ旅程を過ごしていただくのは、ここまでです。ここからは、六道それぞれの世界へ行くわけです。
 次の章からは、このガイドのメインテーマ、地獄道のご紹介をさせていただきます。地獄道は、6つの世界の中でも、仕掛けも規模も壮大。だれもが行きたいと思いませんが、いちばん興味深い世界となっております。お楽しみに。


【コラム】臨死体験読者のトラベルレポート<スイーツ編>

1:老舗茶屋の和スイーツ 絶品! 羽二重団子

茶屋の羽二重団子

 三途の川のほとりにある茶屋。1週間、歩き続けてちょうど甘い物が欲しくなったあたりにお店が見えてきました。店に入ると、初めて来た店なのに、「お帰りなさい。ご主人様」と猫の耳をつけた女店員が声をかけてきました。お団子が名物とのことでさっそく注文。店名を確認しようと、メニューの表紙を見ると、そこには次のように書かれていました。「冥途喫茶」。
 その瞬間、私は目が覚め、病室に寝ておりました。一命をとりとめたようです。それにしても、あの美味しそうな団子。ああ、食べたかった〜。残念。

2:流行のパンケーキ メイプルシロップがたっぷり!

ニードルマウンテンのパンケーキ

 針の山にほど近いロードサイドにあるオシャレなお店。名物のふわっふわっに焼かれたパンケーキにたっぷりのシロップをかけていただきます。まったく甘いものなど食べられなかった長い地獄生活で出会った久しぶりのスイーツ。
 パンケーキなどという呼び方がなかった昔、ここに来た客が、つらい地獄の生活の中で出会った極上の甘味に「地獄でホットケーキ!」と叫んだ言葉が、後年徐々に変化し、最終的には間違って「地獄でほとけ」という言葉になったということです。

第3回に続く



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