ご用の節は何なりと by 夢野来人
最近は何でもAIがやってくれる世の中になって来た。
小学生に人気なのは、宿題作成AIである。問題文さえ入力してしまえば、どんな教科であろうとものの数秒で答えを出してくれるのだ。これで夏休みの宿題に追われることもない。
「ご主人様、ご用の節は何なりと」
「読書感想文や工作なんかもできるのかい」
「私にできないことはありません。命令文を入力さえしてくれれば、数秒で感想文なら書けますし、工作ならばわかりやすい設計図を作成します。オプションをつけていただければ作成までいたします」
これでは人気が出るはずだ。
中高生に人気なのは、模範デートプラン作成AIだ。これで初デートであってもどこに行ったら良いか迷うこともない。
「ご主人様、ご用の節は何なりと」
「彼女と初めてのデートなんだけど、どこへ行って何をしたら良いか皆目見当がつかないんだ」
「お任せください。では、彼女のデータをわかる範囲で入力してください。写真も読み込ませてください。初デートに最適なプランを作成いたします」
これでうまく行かない時もあるのだが、それはAIの性能とは関係ない。入力データが不正確なだけだ。身長、体重、BWHのスリーサイズ、その他趣味や嗜好など性格に入力さえすれば彼女に最適なプランを提示できるのだが、そんなことも把握できていないようでは、せっかくのAIも宝の持ち腐れとなる。
大学生に人気なのは、履歴書作成AIだ。
「ご主人様、ご用の節は何なりと」
「大企業に就職したいのだが、ありふれた履歴書ではなく、ちょっと気の利いた履歴書を作れないかな」
「お安いご用です。最大限の自己PR文章を作成いたします。ご主人様の趣味特技など入力してください。ご希望の大企業様向けに、企業の人事担当者が喜びそうな自己PR文章を作成させていただきます」
就職したくない人用には、起業プラン作成AIというバージョンもある。
社会人には、担当別専門AIというのが人気である。
例えば、小説作成AIなども人気商品だ。
「ご主人様、ご用の節は何なりと」
「小説が書けるって本当なのかい」
「恋愛小説、冒険小説、歴史小説、推理小説など何でも書けます」
「でも、誰が使っても、結局は同じ小説になってしまうんじゃないか」
「そんな独創性のない仕事はしません。そのために、三つほどのキーワードと、ひと段落程度の出だしの部分を書いていただく必要があります」
「そんなんで、この世に一つしかない小説ができるのかい」
「もちろんです」
「ひょっとする私もベストセラー作家になれるかもしれないな。では、試しにキーワード『新型、二刀流、23』で作ってみてくれないか」
「はい。では、出だしの部分をちょっとお書きいただけますでしょうか」
「よし、わかった。では書くぞ」
『それでは、世界で一番面白い三題話を紹介しよう。誰も読んだことがないようなミラクルな作品だ。そして、想像することもできないような驚愕のラストシーンで終わるのだ。では、とくとご覧あれ』
「こんなところでどうだ。できるかな?」
「もちろんです。私に不可能はございません。では、続きを作成いたします」
しばらくすると、続きが完成してきた。
『男は新型のミラクルな二刀流の使い手で、その風貌からは想像もできない年齢は、驚愕すべきことに23歳であった』
「これが、この世に一つしかない小説か?」
「はい。こんな独創性のある小説は読んだことがありません」
「これは酷い、酷すぎる」
「そうですか? 最高の出来に仕上げたつもりですけど」
「いったい、どうやるとこんなつまらない小説が書けるんだい。小説家としての才能がまるで感じられないじゃないか」
「でも、これが限界なんです」
「なんだ。AIなのに限界があるのか」
「もちろんです。私たちAIは無から有を作り出すことはできません」
「じゃあ、何ができるというのだ」
「ご主人様の能力を100%解放することです」
「どういうことだ」
「普段の人間は、潜在能力の10%も使っておりません」
「そんなものか」
「私たちAIは、その潜在能力を察知して100%まで引き出すことができます」
「それは凄いじゃないか。単純に10倍ぐらい能力が伸びるってことだろう」
「はい。でも、それが限界でもあります。つまり、」
「つまり、先ほどの小説は、私の小説家としての能力を最大限引き出した結果の作品ということか」
「お気に召さなかったでしょうか。もうひと作品作りましょうか」
「いや。やめておく」
「これを今お読みのあなた様、ご用の節は何なりと」