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怪談・人面魚 by 網焼亭田楽

毎度バカバカしいお笑いでございます。
最近は何でもかんでも科学というもので判断してしまうような世の中になってまいりまして、特にAIが出て来てからというもの、この人工知能に頼り切りになってしまっているようでございます。

「おい、よたろう」
「何でございましょう、だんな様」
「おまえさん、最近変なものを見たって言うじゃないか」
「ああ、人面魚のことですか」
「何だい、そのジンメンギョって」
「だんな様は見たことないのですか。人の顔をした魚のことなんですけど」
「そんなバカな。まさか、よたろう、そんなものを信じているんじゃないだろうね」
「上半身が人間で下半身が馬なんて生き物だっているのですから、人間の顔をした魚ぐらいいたっておかしくないじゃないですか」
「おいおい。ケンタウロスは架空の生き物だよ」
「えっ、そうですか。でも、人面魚は本当にいましたよ。あたい、見てるんですから」
「そんなに言うなら、写真を撮って来てみなよ。本当に人間の顔をしていたら、人面魚だって認めてあげるから」
「お安いご用です。もう、何回も見てるんです。あの裏山の奥の方の池に行けばいつだって見られるんですから」
「その代わり、気をつけなよ」
「何にです?」
「人間以外のものが自分の顔に見えた時には」
「嫌だな、だんな様。人間以外のものって何ですか」
「例えば、木とか、雲とか、蟹の甲羅なんて時もあるそうだが」
「そんなものが自分の顔に見えたらどうなるんですか?」
「来世はそれに生まれ変わるということらしい」
「えーっ、来世が、木や雲や蟹に生まれ変わるって言うんですか。それこそ非科学的な話じゃないですか」
「信じないならばそれでも良いさ。まあ、気をつけて人面魚の写真を撮って来るんだぞ」
「そんなことあるわけありませんよ。じゃあ、だんな様。人面魚の写真、必ず撮って来ますからね」

そう言うと、よたろうは元気いっぱい裏山に向かって行きました。
「さあ、着いたぞ。今日もいるかな、人面魚」
よたろうは、いつものように池の水面を覗き込みました。
「ほら、やっぱりいるじゃないか。ちょいと写真を撮らせてもらうよ」
よたろうはカシャカシャと写真を撮って、だんな様に見せようと急いで帰りました。

「だんな様〜、撮ってきましたよ〜」
「おう、よたろう。本当に撮れたのかい。正体見たら枯れ尾花なんてことはないだろうねえ」
「いえいえ、ちゃんと撮れてますってば。ほら、見てくださいよ」
「あっ!」
「ほらね。ちゃんと撮れてるでしょ」
「大変だよ、よたろう。この顔」
「ちょっとボケてるけど、まるで人間の顔でしょ」
「おまえさん、そっくりじゃないか」
「そうですか。なんか間の抜けた顔をしてますけど、あたいに似てますかねえ」
「似てますかねえなんて呑気なこと言ってられないよ。これがもしもよたろうの顔だとしたら」
「あたいの顔だとしたら」
「おまえさんの来世は魚だってことになる」
「そんなの嫌ですよ、だんな様。何とかしてください」
「まだ決まったわけじゃない。あたしの知り合いに写真に詳しい先生がいるから、ちょいと鑑定してもらおうじゃないか」
「お願いしますよ、だんな様。あたい魚になんかなりたくないですよ。だいいち、あたいは泳げないから、魚になったら溺れて死んじまう」
「変な心配するじゃないよ。大丈夫だ。魚になったら泳げるようになるさ」
「だんな様。それ、気休めにもなっていませんよ。あたい、魚になるのが嫌なんですから」
「そうだな。よし、早いとこよたろうの写真も撮って、この人面魚の顔と比べてみてもらうことにしよう」

さっそく、だんな様はよたろうの持っていたカメラで顔写真を撮り、2枚の写真をAIで分析するのが得意という専門家のところへ持って行きました。
「先生。この魚の方の写真はちょっとボケてるんですが、この2枚の顔写真が同一人物かどうか、正確にわかりますでしょうか」
「ああ、もちろんです。こんな写真はAIで分析すればすぐにわかりますよ」
「ではさっそくお願い致します」
「お任せください」
そう言うと、先生は奥の部屋に入って行った。

「だんな様、どうしよう」
「まだ、決まったわけじゃない。ここは落ち着いて結果を待つことにしよう」

ものの5分もたたないうちに結果が出たようだ。
「先生、どうですか。その魚の顔はよたろうの顔なのでしょうか」
「はい。間違いありません。この魚は鯉です。鼻の部分がちょっとボケていますが、一致率は100%です」
「100%ですか。それでは、もう疑う余地はありませんね」
「はい。この鯉鼻のボケた写真のところもAIで修正できました」
「何か出て来ましたか」
「はい。池の魚に向かってカメラを構えている少年の顔がくっきりと浮かび上がってきました。間違いなく水面に反射した同一人物の顔で間違いありません」

お後がよろしいようで。

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