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とんだ初夢 by 網焼亭田楽

 毎度バカバカしいお笑いでございます。
 今年も飽きもせず新年がやってまいりました。あの暑くて長かった夏も終わったかと思えば、秋は超駆け足で過ぎ去ってゆき、例年よりも寒い冬がやって来たところでございます。
 そんな中、こうしてお正月を無事迎えることができましたことは、誠に喜ばしい限りでございます。
 さて、正月と言えば、信心深くない方でもこの時ばかりは何故か神社へ初詣に行くというのがこの国の不思議な習慣でございます。

「おい、よたろう」
「何でございましょう、旦那さま」
「今年も正月がやって来たなあ」
「あたい、正月が三度の飯より大好物でございます」
「ほう。よたろうは正月がそんなに好きだったのかい。で、正月のどこが好きなんだい」
「はい。何と言っても、朝からお節だのお雑煮だの、ご馳走がいただけるってものです」
「そうだなあ。確かに、普段は食べられないようなご馳走が出てくるなあ」
「そして、お昼には焼き餅だっていただけます」
「朝は雑煮で昼は焼き餅かい。悪くないねえ」
「そして、おやつにはきな粉餅にあんころ餅だって食べれます」
「何だか餅ばっかりで胸やけしそうだな」
「そしてそして、夜にはすき焼きの中にお餅を入れていただきます」
「うどんとかじゃないのかい」
「旦那さま。せっかくのお正月でございます。ここは一つお餅でしめくくりたいと思います」
「よたろうはそんなに餅が好きだったのかい」
「はい。三度の飯よりお餅が好きでございます」
「何だい。飯が餅になってるだけじゃないか。というか、おやつにも餅を食べてるから、四度の餅になってるよ」
「はい。あたいは三度の飯より四度の餅がお好きでございます」
「バカなこと言ってんじゃないよ。さあ、食っちゃ寝ばっかりしてても仕方ないから、腹ごなしに初詣に出かけるとするか」
「行ってらっしゃいませ、旦那さま」
「おい、よたろう」
「何でございましょう、旦那さま」
「おまえさんも行くんだよ」
「えっ、誰が?」
「だから、よたろう。おまえさんもだよ」
「私もですって?」
「何びっくりしたような顔してんだよ。いつもはお出かけと言えば喜んでついてくるじゃないか」
「でも、今日はお正月ですよ、旦那さま」
「だから、初詣に行こうって言ってるんじゃないか」
「このご馳走を残してですか?」
「そんなものは初詣から帰って来たらまた食べれば良いじゃないか」
「でも、外は寒いですよ」
「当たり前だろ、冬なんだから」
「あたいはどちらかと言えば、年賀状でも見ながらコタツでみかんがよろしいのですが」
「ほお。よたろうのところにも年賀状が来るのかい」
「まさか、来ませんよ。嫌だなあ、旦那さま」
「でも、コタツでみかんを食べながら年賀状を読むんじゃないのかい」
「ご名答!」
「でも、年賀状は来ないんだろう」
「またまた、ご名答!」
「じゃあ、読めないじゃないか」
「私宛には年賀状は来やしません」
「だから、読めないだろう」
「旦那さまのをこっそり拝借しとう存じます」
「ダメだよ、ダメ。人の手紙を勝手に読んじゃダメなんだよ」
「いえ、勝手にじゃございません。今堂々とこっそり拝借すると申し上げました」
「そんなことを堂々と言う奴がいるかい」
「まあ、かたいことは抜きにして、そろそろ年賀状が届いている頃ですよ。旦那さま、持って来ますね」
 そう言うと、よたろうは郵便受けの方へ走って行ってしまいました。
「まあ、そんなに読みたいんなら、年賀状ぐらい見せてやるか」
 よたろうが旦那さま宛の年賀状を両手に持ちきれないほどたくさん持って帰ってまいりました。
「さすが旦那さま。年賀状がこんなに届いています」
「そうかいそうかい。じゃ、ちょっと見せておくれ」
 すると、よたろうは突然年賀状を読み始めました。
「あけましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりました。今年もどうぞよろしくお願い致します」
 旦那さまは、ちょっとびっくりしてしまいました。
「おい、よたろう。おまえさんいつの間に字が読めるようになったんだい」
 よたろうの顔が一瞬曇ったように感じました。
「あっ、これはもしかしたら夢かもしれない」
 いつもと違う雰囲気のよたろうを見て、旦那さまはそう感じました。
 そして、よたろうに向かって、
「おい、よたろう。これは夢なんじゃないかい?」
よたろうは、黙って下を向いたままです。
「はは〜ん。そうか、夢じゃないんだね。だとしたら、おまえさんは本物のよたろうじゃないんだね。いったい誰なんだい!」
 すると、よたろうの格好をしていた者から急に煙が出始めて、機械のようなものに変身しました。
「バレてしまいましたか。よたろうが字を読めないという情報をインプットするのを忘れていたとは情けない」
 そう言いながら、よたろうモノマネ選挙で優勝したAIロボットはそそくさと去って行ったのでございました。

「旦那さま、旦那さま」
「どうしたんだい、よたろう」
「いつまで寝てるんですか。早く初詣に行きましょうよ」
 何ともはや、とんだ初夢だったようでございます。

お後がよろしいようで。

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