復帰、やっぱりニューハーフになります! とおくのまち13

 電車を乗り継いて、行きつけの女装ルームに寄る。
隠してあった女装用品を取りだして、ターミナル駅へ向かう。

 着の身着のままの男の恰好で家を飛び出してきたので、
この季節の外はとても寒く、コートが必要だと思った。
ターミナル駅の地下街を歩いていると、ちょうど冬のバーゲンだったのか、安く手に入った。
どのみちこれからは女性として生きていくのだから、婦人物のコートを買うことに何のためらいもなかった。

 すべてを振り切って、駅の階段をかけあがるとホームから出て行こうとする列車の閉じ行くドアへ滑り込んだ。
結局、こうなる。
どんなに自分を誤魔化して生きようとしても。
まるで、プログラムされたたったひとつの生き方が、こうであるかの
ように、すべての修正をなぎ払って、わたしは駆け出していた。

 電車に乗る前にホテルを予約しておいたので、駅に到着すると最寄りのビジネスホテルに向かった。
チェックインを済ますと、急いでシャワーを浴び、化粧にとりかかる。
家をでるのに手間取ったため、ママとの約束の時間に間に合いそうにない。
以前、来た時のように念入りにはメークできず、不本意な仕上がりになったとはいえ、私の心は、意気揚揚としていた。

 ひさしぶりの京都。夢にまでみたあの街。
しかし、冬のせいか、どんより寂しく映った。

 ホテルを出ると目前には、四条通りが通っていた。
路面電車の駅が印象的で京都らしい景色だなぁと思いながら、
走って来たタクシーを停めると急いで飛び乗り、
目指すは場所は、ただひとつ。あの店へと急いだ。

 ママに事情を話す。
もう一度、働けるようにしてもらえたけれど、店の事情も変わっているらしく、給料は前より低い設定になってしまった。
さらに、寮として借り上げていた部屋がもうなかった。スタッフも何人か減ったり、増えたりしてた。

 簡単な説明を受けて、さっそく仕事につく。
何をしていいかわからず、というより、手も口も、動かせず、その夜は、
ほとんど、見てるだけになってしまった。
ショーを二度見た。コミカルなコントから、色っぽいものや幻想的な踊り
など多彩で、ほんとに、素晴らしかった。
ただ、そのうち自分も、それをやるのかと思うと、出来るだろうかという
不安と憧れが混じりあい不思議な気持ちであった。

 店が終わると、ママがまかないの料理を作ってくれて、みんなで食べた。
和気藹々として楽しい雰囲気だった。まるで家族のようだ、私の緊張もやっととけかける。

 店をでると、外は、とても寒く、せっかく買ってきたコートがあっても、なお凍えるようだった。
同じ方向へ帰るお姉さんのタクシーにいっしょに乗せてもらってホテルへたどり着いた。
 その時はしらなかったけれど、のちにニューハーフの専門誌にも写真が載っていた美女である。とても素敵なお姉さまで、すごくすごく憧れた。
親切にしていただき今でも恩をわすれたことはない。もう恩返しなどできる機会もないけれど。

 なんとか無事にホテルに戻ると、緊張していたのと長い距離を移動したのと、たくさんお酒ものんでいたし、いろいろと重なって、気を失いそうになりながら眠った。

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