とおくのまち 2

3.   隣の街へ

  中学生のころからずっと憧れていた隣町のブティックがあった。
高校生になってからも隣町の商店街にある本屋さんによく寄っていた。田舎の商店街に並んで、ブティックというのか小さなお洒落な洋服屋さんがいくつか点在していた。

 ブティックの前を通る度に、飾られていた可愛らしい服に魅入られていた。
ある日の高校の帰り道、何度も通り過ぎながら、また、引き返してきては、ついに意を決して店内へ入る。彼女へのプレゼントという名目で、フリルのたっぷりと付いたふわりとしたスカートを手に入れた。
はじめて化粧をしたのは、いつのことだったのか。今では、当たり前のこと過ぎて、もう覚えていない。

 隣町には、スーパーがあった。
そのスーパーは一階が食料品、二階に洋服や雑貨、化粧品が売られていた。
エスカレータを上って、化粧品売り場に行くと、口紅、アイシャドー、チークを買った。
キスミーというメーカーで、口紅とチークの色はサーモンピンクで、春らしい薄桃色の美しい色彩が今もはっきりと思い浮かぶ。
ファンデーションはまだ持っていなかったかもしれない。初めてそれを買ったのはカネボウを扱っていた隣町の駅前薬局で、当時、好きだったアイドル・南野陽子がコマーシャルをしていた。吐息でネットがテーマソングで、たぶん、その口紅も買ったと思う。
化粧水とクレンジングも揃えたけれど、メイクオフや肌の手入れが上手く出来ず、化粧してはすぐに肌荒れを起こしたりしていた。その頃は、まともな若い男性だったから脂性でニキビにも悩まされた。

 頭のてっぺんから足の先まで、完全に女装したのは、大学生になってからのことだ。
その頃になると、ファッション誌を参考にして化粧をするようにもなった。
まだ、女装者や、ニューハーフという存在も知らず、自分の奇行にただ罪悪感をつのらせていた。
大学の学食で流れていたテレビ放送で、『いいとも』が流れていた。その番組内の人気企画で「ミスターレディ」が流行っていて、情報に疎い私もようやくニューハーフという存在を知ることになる。
暗闇ばかりが広がっていた明日に、ほのかな光を見出した。男性の体をもってうまれてしまっても、女の人みたいになれるのかもしれない。早く、自分もそうなりたいという想いがつのっていった。
その想いとは反して当時の日記や手記をみると、やはり、こんなことではいけないと悩み、
社会人になったら化粧も女装も止めたいと、書かれている。

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