頬粘膜癌 519日目 上にも下にも投げられない話


 頬粘膜癌 519日目。

 血圧 105 - 72 mmHg
 血糖 - mg/dL (朝食前)
 酸素 98 %
 脈拍 65 拍/分
 体温 36.7 ℃
 体重 70.7 kg

 入院してから毎日こうやって体重やその他モロモロを記録している。体重は2021年の10月頃からずっと記録しているわけだ。体温や血圧などオムロンの機器に揃えてからは記録がぐっと楽になった。それまでは自動でアプリで測定できるのは体重だけで、他の数値は手入力だった。そんなのは長くは続けられないものだ。いや、それは僕がものぐさなだけなのだが。

 で、毎日体重を計って一喜一憂するのはみんな同じ。
 僕の場合は体重の維持が一番の目的である。身長から言えば理想体重は65kg程度なんだそうだ。まだ5kgは落としてもいいらしい。でも、あと5㎏落としたら結構ガリガリな見た目になるんじゃないだろうか?まぁ顔が痩せないってのはみんな共通した感想なんだろう。

 僕の場合、両方の頸部リンパ節廓清をしたのでどうも頸が細くなってしまった感じがある。あんまり鏡をまじまじ見たりする方じゃないので良くわからないんだが、どうも頸がめっちゃガリガリ君みたいな感じなのだ。

 ぶっちゃけ、ワイシャツは首のサイズが合ってないっぽい。3cmはサイズダウンしてもいいのかもしれない。


 まぁとにもかくにも、体重維持が目的でいう間は測定しているわけで、毎日減ったとか増えたとか思っている。実際の所、こういうのは自分で意識しているかどうかで生活習慣が変わったりするので数値にも影響する。

 ダイエットでは己を知ることがスタートである。体重維持でもそれは同じ。

 できれば70kgラインを維持したいなぁというのが淡い希望だ。淡いというのはどうもこのままいくと70kgを割り込んでしまうのも時間の問題のような気がしているから。



 さて、そういう訳で体重があんまり減るとエンシュアの量が増えたりすると1ヶ月分処方されたら運ぶのも大変になってくる。気が気では無い(そんなに実は気にしてないが)月に1度の診察日だ。


 痛みの状況やなんかを問診でやりとりして、今日はファイバースコープを使って、鼻から喉の奥を確認するのと、口から入れて頬の状態を確認した。僕の場合、開口障害が酷いので視診で頬の内側を診ることができない。唇の際のあたりは見えるが奥はファイバースコープじゃなければ見えないだろう。

 で、なんだか念入りにスコープで観察している。時々画像を保存したりして。

「原発巣の奥の部分に、なにやらデキモノがあるように見えます。念の為細胞取って生検に出しますので、準備ができるまで部屋の外で待っていてください」

とのこと。うひゃ~まじかぁ。全然心の準備できてないんだけど。ぶっちゃけ、予想してませんでした。CTとかで怪しい部分が見つかって・・・・・・って展開は想像はしてましたが物理的にデキモノができて生検とか想定外。まぁ放射線性下顎骨髄炎の関係で口の中の痺れも激しいので頬の所にできものができようがどうしようが気が付かなかったのだ。

 そうかぁ、生検かぁ。やばいなぁ。嫌だなぁ。生検とかめっちゃヤバいでしょ。様子見ますか?とかじゃなくていきなり生検だもんな。まぁ施術自体はハサミみたいなもので頬の肉千切るだけなので特別難しい施術じゃない。

 しかしなぁ、生検ですかぁ。とまぁ、診察室の前で冷静さなんて微塵も無い状況である。冷静さはないけど、さすがに暴れたり挙動不審になったりって訳ではないので、座ったままなんとなく茫然自失状態である。


 名前を呼ばれて診察室に入ると綺麗な若い助手の女性の先生登場。ファイバースコープを可愛い先生が担当し、ハサミ器具を主治医先生が担当。

「デキモノが見えるようにスコープ固定しててね。そうそう。あ、もうちょっと離して・・・・・・」

って感じで2人がかり。さて、開かない口の隙間からハサミを押し込んで行く。歯と金属が擦れてゴリゴリ音がしている。

「ここらへんかな」

「先生、いい感じです」

......前も思ったんだが、この”いい感じ”ってのがもちろん意味は分かる。分かるんだが、なんか患者的に聞いていて気分が落ちるというかw 最初の原発巣の生検したときは看護師さんが「先生、いい感じに捕れましたね」とか楽しそうでなんとなく参った。

 さて、今回もいい感じにポジショニングできたようで後はパチリと肉を千切るというその瞬間。

「??ちょっとまって、??」

と主治医先生がなんだか挙動不審。そんなシーンで挙動不審になられるとめっちゃ不安なんですけど。

「?これは、違うか?」

って”何が”違いますのん。

「ハデス」

頭の中でHtadesとかってギリシャ神話に変換してると

「歯ですね」

歯ですと?

 どうやらデキモノに見えていたのは勝手に抜けてしまって肉に埋まった親知らずの先端だったらしい。なんかそう言えばここ数日、歯を食いしばるとなんかギシギシと音がしていた。顎関節がダメダメになっているのでその関係の音かと思っていたが、どうやら抜けた(あるいは抜けそうな)親知らずが動く音だったらしい。


 まぁそこからその抜けた親知らずを口から出すのに一苦労。

 口の中は歯を挟んで外がわ(歯と頬の間)と舌がある内側に分かれる。口が開けば内側にある抜けた歯(歯根部含む)をつまんで取り出せるだろう。だが僕の場合は口が開かない。上下の隙間は5mmほどなので取り出せない。ピンセットやなんかそこらの器具でつまんで引っ張るが歯が歯にあたってすぐにつまんでいる先から外れてしまう。その間も、開ければ痛い口をゴリゴリあけられて涙目。

「なんか、砕くものあるかなぁ」

とか不穏な事を言っている。前歯の所で5mmの攻防が繰り広げられている。・・・・・・まぁ結論から言えばその後、右の奥歯の親知らずを抜いて隙間になっている部分からギリギリ出したという感じ。


 取りあえずは園ははケースに収められ、生検に送られる事になった。(年の為、がん細胞が付着したりしてないか調べるらしい)


 生検騒ぎはそれでおしまい、めでたしめでたし。


 放射線性下顎骨髄炎によって下顎と歯根の周囲が炎症の末に壊死したみたいな感じらしい。まぁ骨髄炎のせいで左側の歯はほとんどが浮いたようなグラグラした感じがする。コンコンと叩くと顎の奥へと響くような感じがする。良くない感じなのである。炎症が酷くなれば歯も勝手に抜けるらしい。嫌な事だ。


 人の体というのは外界と内側はいくつかの穴で繋がっている。耳の穴、鼻、ケツ、尿道、目(涙腺)、口。まぁもともとそこらへんはあまりいい匂いがする所ではないんだが、放射線性下顎骨髄炎になってから、その炎症の度合いにもよるんだが、体が炎症で壊れていくと膿であったりなんだりで体が腐ったにおいがする。

 リアルでちょっと嫌な話だが、実際の所自分の体が腐っていくにおいというのは嫌なモノだ。自分で嫌なにおいだと感じるくらいだから周囲はもっと嫌なにおいだと感じるだろう。・・・・・・この感覚は誰かと共有できるものなのだろうか。共感してくださる人がいたら、その人もかなり不幸な状況を経験されたということだろう。

 頭では骨髄炎の症状で炎症が起こり云々で体の組織が変化してってのは理解できる。理屈じゃない部分で自分の体が腐って嫌なにおいがするというのはある意味かなり絶望的な気分になる。ある意味かなりヘビーである。

 コロナのおかげでマスクしていてもOKな世界に生きている。おかげで、こうして平気な顔をしていられる。ありがたいことだ。


 まぁ歯は腐って抜けて、それも取り出してしまったのだ。残った傷跡の状態が落ち着けばマシになるだろう。

 しかしまぁ舌は痺れまくっている。骨髄炎は絶賛炎症拡大中だ。このまま歯が全部抜けてしまうとかちょっと嫌だからなぁ。とかいいつつ、また1ヶ月様子見ということで今回の診察も終わりである。


 次はゴールデンウィークもあるので今月末に予約となった。

 そうそう、エンシュアは、バニラとバナナはちょっと苦手だったので、今回は黒糖とコーヒー味を半々にしてみた。お味の方はどうだろう。抹茶とイチゴとメロンというのもあるそうだが・・・・・・抹茶は行けそうなきもしないではないw

 とにかく明朝はコーヒー味にチャレンジかな。


 今日もいい1日であった。


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