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どうして学ぶ?リスキリングという問いへの答え

こんにちは、最近市販のスンドゥブに激ハマりのすずけんです。

みなさん、最近しばしば聞かれ出した「リスキリング(リスキル)」という言葉をご存知ですか?
FPSゲームなどで倒されたプレイヤーキャラが再復活した瞬間に容赦無く攻撃を叩き込む行為、リスポーンキルとは関係がありません。
言葉の意味は「Re+Skill」、日本語に直訳すると「学び直し」と言われます。

しかし自分が興味を持って調べたところ、どうやら「リスキリング」とは「学び直し」よりも狭義で、具体的なキーワードを内包しているようです。

  • 自分の専門外のスキルを獲得すること

  • 学び直すのは『会社にとって役に立つスキル』であること

  • 『DXやデジタル化社会、AIへの適応』という背景

この背景のさらに向こうには、内閣府が発信するSociety 5.0の考え方があるのではないでしょうか。

IoTですべての人ともの・知識がつながり、新たな形が生まれる人間中心の社会。
今までの世界へ新たにDXが入ってくることによって、これまでと同じ仕事だけを繰り返せばいい状態ではなくなります。
そのため、リスキリングを経て、次のステージに立てるようにしていこう……
という啓蒙があちこちで行われているのではないか、という見立てです。

では、我々デザイナーは何をリスキリングすべきなのでしょうか?

■デザイナーのリスキリングと、目指す未来について

この問いにおけるキーワードは「高度デザイン人材」ではないかと自分は考えます。
これは経済産業省が「ハイレベルなデザイナーをどのように育成していくか」と要件やカリキュラムの検討をし、求められる能力を挙げている「高度デザイン人材育成ガイドライン」を参照したものです。
概要によればこの検討の射程は2025年までとされていますが、そこで考えられている「高度デザイン人材に求められる能力」とは以下のようになっています。

  • 社会の変化と進展に適うUp to Dateなデザインスキルやデザイン哲学を備えている

  • ビジネス⇔デザインをつなぐために双方の基本的なリテラシーを備えている

  • 演繹・帰納を超えて飛躍するビジョンを描き出す着眼や発想、探究心を持つ

  • 社会およびビジネスの課題を自分ごととして捉え主体的に状況を導く姿勢を持つ


これらの検討結果に至れるよう、必要なスキルの習得や哲学的姿勢などの学習要件を並べ、事業開発領域において必要なのは「サービスデザイナー」、事業戦略領域では「ビジネスデザイナー」、ほか「ビジョンデザイナー」「デザインマネジャー」「デザインストラテジスト」など、「ビジネス現場での高度デザイン人材のイメージ」を定義して、レベルの高いデザイナーを育成しようという動きがあるのです。

確かに、AIをはじめとする便利なツールの発展に伴い、単純かつ純粋なイラストレーターやUIデザイナーが求められる機会は減少していくのでしょう。
その技能一本だけで生きていくことは、もちろん不可能ではないでしょうし需要はあると思いますが、どんどんと難しくなっていくのだろうと未来から吹く冷たい風を肌のふちに感じます。

ですので、デザイナーがリスキリングしていくべき方向はそのような部分、経営&ビジネス&サイエンスにどうデザインを編み込んでいくのかがポイントになるのではないだろうかと考えています。

しかし、リスキリングだけでなく、もっと役に立つかわからない雑学やノイズ的な「異分子」を積極的に取り込むところにデザイナーの「学び」があるのではないか、と考えていたりします。

■「学び直し」というキーワードと、異分子について

一見役に立たなそうな情報を取り入れる重要性ということはさまざまな研究者や哲学者、思想家などが取り上げていたりしますが、今回は最近面白かったものとして、J-WAVEの番組「Takram Radio」のゲストとして登場した博報堂の嶋浩一郎氏の「異分子」のお話について紹介したいと思います。

この放送の10分56秒あたりで嶋浩一郎氏が紹介されていた例が「バイオミミクリー(生物模倣)」の話です。

あるときJR社員が集まって、新幹線がトンネルに突入する際に生じる騒音を解決できないかと考えました。
その中に、日本野鳥の会に所属する人物がいたそうです。
当然ですが、鉄道会社であるJRの業務と日本野鳥の会で行う野鳥観察には、環境という広義においては接点があるかもしれませんが、直接的なつながりが存在するとはいえません。

ですがこの時、日本野鳥の会に所属するJR社員が騒音問題を考えていて着目したのはフクロウでした。
フクロウというこの猛禽はものすごい速度で飛んで獲物を捕らえますが、狩りの際ほぼ全く飛行音がしないのです。
これは何かのヒントになるのでは、と考えて調べたところ、音が鳴らない理由に「羽の形がギザギザしていること(セレーション)」が関係しているとその社員は気がつきました。
そしてこのギザギザした形状をもとに、騒音の原因であるパンタグラフに刻みを入れたらどうだろうか?と考えたのです。

結果からいうと、フクロウ由来のアイデアは見事に効果を発揮し、騒音は30%削減されたそうです。

パンタグラフ側面に刻みを入れることでノイズが低下
(引用: https://www.cradle.co.jp/media/column/a337 より)

この事例の中で得られたことというのは「異分子の価値」です。
パンタグラフや音の原因だけを注視していたら、きっとこの問題の解決にはもっと時間がかかっていたでしょう。
野鳥への興味と知識という、いわば異分子の学びがあったからこそ、この結果が得られたわけです。

「Takram Radio」の13分26秒から、アイデアが生まれる2段階のフェーズについて会話が交わされます。
「いかにしてアイデアは降ってくるのか」の創造性に関する研究を通して、アイデアが生まれるまでには、
第1段階:異なることに染まってみる、自分のモードを切り替える
第2段階:それがたまたま新結合を成すことがある
という段階があるのではないか?と思い至った……そんな内容です。

デザインに限らず、アイデアを孵卵している間に思いがけず思考がつながったり考えが生まれたりする、「アハ体験」あるいは「セレンディピティ」のような出会いは、みなさんにも覚えがあるはずです。

ラジオでは「アハ体験はコントロールできるものではない」と語っています。
しかし、目的にまっすぐ矢印を伸ばすリスキリングの「学び」だけではなく一見関係ないような異分子の「学び」も併せ持つことが、望外の発想につながる可能性を高め、デザイナーの枠に囚われないスキルアップにつながるはずです。

こういった話は一人で悶々と考えるよりも、デザイングループのメンバーとも語り合ってみたいと感じますし、他社のデザイナーの方やまだ見ぬ後輩たちとも意見交換をしてみたいものです。
みなさんは、「学習」というものをどう捉えていますか?
みなさんが今学びたいことは、何でしょうか?

■関係ないけど、学びたいこと

ちなみに、今自分が学んでみたい「関係ないこと」は、社会人以前からのライフワークでもある文化人類学や人文系の分野です。
例えば、アマゾンに存在するピダハンという民族についての書籍などを読んでいるのですが、彼らは「ものを所持することを価値としない」考え方をします。
このような民族の価値観に触れたときの、今まで自分たちがいかに西洋の常識に縛られていたんだろうかとハッとさせられたりする、常識がものすごく揺さぶられる感覚を自分はこよなく尊く感じています。

ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観
ダニエル・L.エヴェレット(著)、屋代 通子 (訳)、みすず書房

人によって学習観や学習に対する意識も千差万別だと思います。
VUCAと言われる答えのない時代、外へと好奇心や意欲を広げつつ模索していくような方向性はすごくマッチしているようにも感じられます。

デザイナーでありながらクラシックなそれではなく、ITの世界に片足を突っ込んでいる我々だからこその視野と「学び」に意識的でありたいと考える、そんな今日この頃でした。