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狂気は静かに迫ってくる:蘭郁二郎『鉄路』について

こんばんは。月に一度の別冊夢想ハウス.にこにこです。
今月は9/2にお誕生日を迎えた蘭郁二郎先生の「鉄路」を読みました。パチパチ👏

👆ここで毎月朗読してる📚ぜひ聴きに来てね🍻


目次


作風と発表年のおはなし

朗読するのは3作品目となる蘭郁二郎先生。
去年の11月に『蝕眠譜』を、それ以前に『』を読みました。

☝前回noteもよろしくっ

蘭先生ってはじめ怪奇小説を書いていたんだけど、海野十三の影響もあってだんだん科学小説(SF)を書くようになっていく。

『蝕眠譜』はジメッとしたイヤ~な雰囲気で滑り出し、終盤で急スピードで走り出す感じで、狂気にあてられる。非常に好き。
怪奇小説ですが、のちのSF路線も予感させる美しい人形ルミが登場。ルミという名前は、その後の科学小説(『脳波操縦士』)で、電気人間としても登場する。1935年発表。

『穴』は今作同様、鉄道自殺・轢殺が主題。
Wikipediaによれば蘭先生の活動期間は1931年 - 1944年ですが、ちょうど科学小説を書き始めたあたり、1938年の作品。にしては、もはや「怪談」というべき湿り気を帯びている。
こちらはラストのジェットコースター感はなくて、どちらかというと静かな余韻が残る系。ストレートに怖い。
読み返して気付いたんだけど、こちらにも「倉さん」がでてくるんよね。

今作『鉄路』はこの『穴』の4年前に書かれている。
名前をどんな風に決めてたかはわからないけれど、作者の中でなんとなく続編やパラレルワールドだったなら面白いな~なんて思う。
『鉄路』の舞台となった岩ヶ根は愛知県、『穴』では立川-日野間の話のようなので、まったく同じ舞台というわけではなさそうだけど。

リアル~…天才によるグロ描写

今作『鉄路』は、『蝕眠譜』同様ラストのテンションがあまりにも高くて爆笑してしまい、ぜひ読みたいと思っていた作品。
う~ん、この作風ほんと好き。
源吉はもはや狂ってるとしたって、後から出てきた男・深沢まで好きな女と一緒に死のうとナチュラルに思ったのおかしいし、挙句生首同士が接吻してるのびっくりするほど奇跡だし。
それだけでも面白いのに、急に展開する源吉の自殺!狂気って高じるとアッサリしててスピーディーやね…。
最後に蟋蟀の声が聞こえてくるのも映像的で良い。蘭先生。天才や…。

ところでどちらの作品も、轢殺死体の描写の冴えわたりが凄い。

検車係が仕事用の軍手が置いてあるのかと思って、ひょいと取ろうとしたら関節からすっぽり抜けた若い女の掌で、その血まみれの口から真白い腱が二三寸ばかりも抜け出ていたそうで、苦しまぎれに、はっしと車輪を掴んだんでしょうがそれを取るのに指一本一本を拝むようにやっと取ったといいますから凄い話です。

『穴』蘭郁二郎

知らねェで運転して車庫の検査で、めっけたって奴もあるぜ源さんの来る前にいたもんだがね、見ると輪のところへ、ひらひらしたもんがくっ附いている、さわったが落ちねえ、ぐっと引っ張ったら、べたっと手についたんだ『わッ!』という騒ぎよ、何んだと思う、女の頭の皮さ、黒い長い髪が縺れてひらひらしてたんだぜ、それが手に吸いついて、髪が指にからまっちまったもんだから、奴さん驚いたの、驚かねェの、青くなって、それっきり罷しちまった。

『鉄路』蘭郁二郎

凄い話です。
子供のころよくコンビニとかで売ってた、稲川淳二先生とか実話怪談系の本読んだ時の感覚思い出す。(今も気軽に売ってるのかな?)

個人的には『鉄路』の、夢中になって話している句読点の少なさが好き。ちゃんと「。」で区切らない、「、」すら挟まない。
詰所の空気が伝わってくるようだ。

おまけ:鉄道に関する怖い話

そういえばインターネットでも静かな怖い記事を見つけた。狂気って穏やかなもんなんかもしれん。

「最初はショックを受けますが、2回目以降になると徐々に慣れてしまう自分がいました。悲しい、怖いという感情よりも、『面倒なことをしやがって』という怒りが湧き上がってくるんですよね。でもあとから、そんな自分が嫌になることもあります」

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次回予告:10/25(金)21:00~芥川龍之介『馬の脚』

…気を取り直して、次回はめっちゃ久しぶりの芥川先生!
こちらは怖いというより不思議なテイストの作品です。
さすがにこの頃には寒くなってきていることでしょう。秋風感じる夜に、ある男の数奇な運命に思いを馳せましょう~。よろしくねっ。


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