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人生革命セミナーの闇 第3章: セミナーの実態1

健康食品とオーラの話

セミナー後1ヶ月が経過した頃、田中一郎のもとに1通のメールが届いた。差出人は大西小悟だった。

「田中さん、お元気ですか?セミナー後の成長フォローアップセミナーを開催します。ぜひご参加ください」

田中は少し躊躇したが、参加を決意した。「みんなに会えるのは楽しみだな」と思いつつ、どこか不安も感じていた。

フォローアップセミナー当日、会場に着いた田中を出迎えたのは、以前よりも華やかになった南由紀子だった。

「田中さん、お久しぶりです!今日はとっておきの情報があるんですよ」

南の笑顔に、田中も自然と笑顔になった。

会場に入ると、すでに多くの参加者が集まっていた。みな、どこか興奮した様子で、何かを手に持っている。

「これ、なんですか?」田中が隣の佐藤に尋ねた。

「ああ、これね。セミナー特製の健康食品なんだ。すごくいいらしいよ」

壇上に立った大西が話し始めた。

「みなさん、お待たせしました。今日は特別な日です。私たちが開発した究極の健康食品、『オーラブースター』をご紹介します!」

会場から歓声が上がる。

「この『オーラブースター』は、あなたのオーラを活性化し、潜在能力を最大限に引き出します。原材料は、ヒマラヤの秘境で採れた希少なハーブと、量子力学に基づいて開発された特殊な成分です」

田中は眉をひそめた。「量子力学?」

大西は熱く語り続けた。

「毎日これを摂取することで、あなたのオーラは輝きを増し、周囲の人々を惹きつけるようになります。そして、あなたの望むものが次々と引き寄せられるのです!」

会場は興奮の渦に包まれていた。

「さらに、今日ここにいるみなさんだけの特別価格で販売します。通常価格の半額、50,000円です!」

「えっ」田中は思わず声を上げそうになった。

しかし、周りの参加者たちは我先にと商品を求めていた。

「私、3箱買います!」
「私は5箱!毎日の習慣にします!」

田中は困惑した表情で佐藤を見た。

「佐藤さん、これ本当に効果あるんですか?」

佐藤は熱心に答えた。「もちろんさ!大西さんが言うんだから間違いないよ。ほら、君も買った方がいいぞ」

田中は迷っていた。そんな彼の元に、南が近づいてきた。

「田中さん、まだ迷ってるんですか?これを飲むと、本当に人生が変わりますよ」

南はにっこりと笑いながら、自分のオーラを見せるようなポーズを取った。

「ほら、私のオーラ、見えますか?前より輝いてると思いません?」

田中は何も見えなかったが、南の自信に満ちた表情に押され、ついに1箱を購入することにした。

休憩時間、トイレで手を洗っていると、隣で見知らぬ男性が独り言を呟いていた。

「まったく、また変なもの買わされちまった...」

田中はハッとして、その男性を見た。男性も田中に気づき、少し慌てた様子で立ち去っていった。

会場に戻ると、今度はオーラを可視化するという特殊なカメラの前で、参加者たちが順番に写真を撮っていた。

「すごい!私のオーラ、ピンク色です!」
「私は黄金色!これは成功の証だそうです!」

田中も並んで撮影した。するとスタッフが嬉しそうに言った。

「田中さん、あなたのオーラは深い青色です。知性と冷静さの表れですね」

何となくうれしくなった田中だったが、ふと疑問が湧いた。「でも、これって本当に科学的なんでしょうか...」

そんな疑問を抱えつつも、田中は「オーラブースター」を飲み始めた。毎日の報告もSNSで欠かさない。

「今日も『オーラブースター』を飲みました。少しずつですが、体が軽くなってきた気がします」

投稿には大量の「いいね」がつき、励ましのコメントも。

「その調子です!」
「私も毎日飲んでます。人生が変わりましたよ!」

しかし、1週間が過ぎても、2週間が過ぎても、田中には特に変化が感じられなかった。

ある日、思い切って大西に相談のメールを送った。

「効果が感じられないのですが、私だけでしょうか」

返信はすぐに来た。

「田中さん、効果は人それぞれです。きっとあなたの中で、すでに変化は始まっているはずです。ただ、それに気づいていないだけかもしれません。継続は力です。信じ続けることが大切なのです」

田中はため息をついた。答えになっていない返事。でも、みんなが効果を感じているというのに、自分だけがダメなのだろうか。

そう思いながら、田中は「オーラブースター」の瓶を見つめた。残り半分。飲み続けるべきか、やめるべきか。答えは出ないまま、田中は再び深いため息をついた。

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