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人生革命セミナーの闇 第2章: セミナー後のコミュニティ2

「イエスマン」映画視聴と日々のアウトプット

 セミナー三日目の夜、参加者全員がホテルの大広間に集められた。
 スクリーンが設置され、映画鑑賞会の雰囲気だ。田中一郎は少し疲れた表情で席に着いた。

 大西小悟が前に立ち、話し始めた。

 「今日は特別な映画を皆さんと一緒に観ます。タイトルは『イエスマン』。この映画には、皆さんの人生を変える重要なメッセージが込められています」

 会場が静まり返る中、映画が始まった。
 主人公が「Yes」と言い続けることで人生が劇的に変わっていく様子に、参加者たちは引き込まれていった。

 田中は、映画を見ながら考え込んでいた。
 「人生のあらゆることに『Yes』と言う・・・簡単そうで難しいな」

 映画が終わると、大西が再び立ち上がった。

 「いかがでしたか? この映画から何を学びましたか?」

 参加者たちから次々と感想が飛び出す。

 「可能性を信じることの大切さを学びました!」
 「チャンスを逃さないことが成功への近道だと気づきました」

 田中はまだ黙っていたが、隣の佐藤が彼の肩を叩いた。

 「田中さんはどう思いました?」

 「え?あ...そうですね...」田中は言葉を探した。
 「新しいことに挑戦する勇気の大切さ、でしょうか」大西がその言葉を聞きつけ、田中に近づいてきた。

 「そうです、田中さん。でも、それだけではありません。この映画の本当のメッセージは、人生のあらゆる機会に対して積極的に『Yes』と言うことです」

 田中は少し困惑した表情を浮かべた。「でも、全てに『Yes』と言うのは・・・」

 大西は田中の言葉を遮った。「不安に思うのは当然です。でも、それこそが成長のチャンスなんです」

 そして、大西は全員に向かって宣言した。

 「明日から、皆さんには新しい課題を出します。それは、日々のアウトプットです」

 会場にざわめきが起こる。

 「毎日、最低でも一つは新しいことに『Yes』と言ってください。そして、その経験をSNSで共有するんです」

 田中は不安そうな表情を浮かべた。「毎日・・・ですか?」

 大西は続けた。「そうです。例えば、苦手な食べ物に挑戦する。知らない人に話しかける。新しい本を読む。何でもいいんです。そして、その経験から学んだことを必ず投稿してください」

 参加者たちは熱心にメモを取っている。田中も、渋々ながらスマートフォンにメモを入力した。

 「これから一週間、この課題に取り組んでもらいます。そして、最終日に皆さんの変化を共有しましょう」

 帰り際、南由紀子が田中に近づいてきた。

 「田中さん、不安そうですね」

 「はい・・・正直、毎日新しいことをするのは難しそうで・・・」

 南は優しく微笑んだ。「大丈夫です。小さなことから始めればいいんです。例えば、明日の朝食で普段選ばないメニューを頼むとか」

 田中は少し安心したように頷いた。「そうですね・・・やってみます」

 翌朝、田中は勇気を出して普段食べない野菜ジュースを注文した。

 「うっ・・・」一口飲んで顔をしかめる。

 しかし、すぐにスマートフォンを取り出し、Facebookに投稿した。

 「今日の挑戦:苦手な野菜ジュースに挑戦。最初は苦手な味だったけど、飲み終わる頃には体が喜んでいる気がしました。新しいことへの挑戦は、自分を変えるきっかけになるかもしれません」

 投稿すると、すぐに「いいね」やコメントが付き始めた。

 「素晴らしい挑戦ですね!」
 「私も見習います!」

 その反応に、田中は少し照れくさそうにしながらも、達成感を感じていた。

 日が経つにつれ、田中の挑戦は徐々に大きくなっていった。知らない人に話しかける、新しい本を読む、瞑想に挑戦するなど。

 毎日の投稿は、次第に田中の日課となっていった。最初は義務感からだったが、徐々にその過程を楽しむようになっていた。

 セミナー最終日、大西が田中に声をかけた。

 「田中さん、この一週間でずいぶん変わりましたね」

 田中は照れくさそうに答えた。「はい・・・毎日新しいことに挑戦するのは大変でしたが、不思議と楽しくなってきました」

 大西は満足げに頷いた。「それが大切なんです。この気持ちを忘れずに、これからも『Yes』と言い続けてください」

 田中は決意を新たにした。「はい、頑張ります」

 セミナーが終わり、参加者たちが別れを惜しんでいる中、田中はスマートフォンを取り出した。

 「今日の誓い:これからも毎日、新しいことに『Yes』と言い続けます。この一週間で学んだことを、これからの人生に活かしていきます」

 送信ボタンを押す田中の表情には、以前には見られなかった自信が漂っていた。


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