
人生革命セミナーの闇 第2章: セミナー後のコミュニティ1
SNSでの活動要求
セミナー2日目の朝、田中一郎は目覚ましより早く目を覚ました。昨日の高揚感が冷めやらぬ中、スマートフォンを手に取る。
「おや?」
画面には、昨晩交換したLINEグループに大量の通知が表示されていた。
「みなさん、おはようございます!今日も素晴らしい一日になりますように♪」
「今日の目標:感謝の気持ちを忘れずに過ごす」
「起きたらまず深呼吸、そして「ありがとう」と唱えましょう」
次々と流れるメッセージに、田中は戸惑いを覚えた。
「みんな、こんなに早くから...」
時計を見ると、まだ6時前だ。
躊躇しながらも、田中はメッセージを送信した。
「おはようございます。田中です」
すると、すぐに返信が来た。
「田中さん、おはよう!素晴らしい朝ですね。今日の目標は?」
送信者は、昨日知り合ったばかりの木村だった。
「え、目標...ですか?」
田中が返信に困っていると、別のメンバーからメッセージが届いた。
「みなさん、今日の朝食の写真をアップしましょう!健康的な食事で、素晴らしい一日の準備を」
その言葉に従うように、次々と朝食の写真が投稿される。サラダ、フルーツ、全粒粉パンなど、どれも健康的そうな食事ばかりだ。
田中は慌ててルームサービスのメニューを確認した。
「う〜ん、こんな朝早くからサラダなんて...」
結局、田中はトーストとコーヒーを注文し、それを撮影してアップロードした。
「田中さん、その朝食では栄養が足りませんよ。もっと野菜を摂らないと」
すぐに誰かからコメントが付く。田中は申し訳なさそうに返信した。
「はい、明日からは気をつけます...」
セミナーが始まる前から、すでに疲れを感じていた。
会場に向かう途中、スマートフォンが鳴った。見ると、大西からのメッセージだった。
「みなさん、新しいFacebookグループを作成しました。セミナーでの学びや日々の気づきを共有しましょう。全員参加をお願いします」
田中は深いため息をついた。LINEだけでも大変なのに、Facebookまで...。
会場に着くと、すでに多くの参加者が席に着いていた。みな、スマートフォンを片手に何かを熱心に入力している。
「おはよう、田中さん」
隣に座った佐藤が声をかけてきた。
「あ、おはようございます」
「Facebookグループ、もう参加しました?すごく盛り上がってますよ」
田中は曖昧に笑った。「あ、はい...これから」
佐藤は熱心に話を続けた。「毎日投稿するのが基本らしいですよ。自分の成長の記録になるんですって」
「毎日...ですか」
田中の表情が曇る。毎日何を投稿すればいいのか、想像もつかなかった。
そのとき、大西が壇上に立った。
「みなさん、おはようございます。昨日からSNSでの活動、ありがとうございます」
会場から拍手が起こる。
「SNSは、みなさんの成長を加速させるツールです。積極的に活用してください」
大西は熱く語り続けた。
「毎日の投稿が、あなたの未来を作ります。ポジティブな言葉、感謝の気持ち、目標達成への決意...それらを発信し続けることで、あなたの潜在意識が書き換わるんです」
田中は必死でメモを取った。
「ですが、ただ投稿するだけではダメです。仲間の投稿にも積極的にコメントしましょう。『いいね』を押すだけでなく、励ましの言葉を」
大西の言葉に、会場が盛り上がる。
「そして、週に一度は自撮り写真も投稿してください。笑顔で撮影することが大切です。その笑顔が、あなたの人生を明るくしていきます」
田中は戸惑いを隠せなかった。自撮り写真なんて、したことがない。
セミナーが終わると、参加者たちは一斉にスマートフォンを取り出した。
「今日の学び、早速シェアしなきゃ」
「私の今日の誓い:常に前を向いて歩む」
田中もおずおずとFacebookを開いた。グループには既に大量の投稿がされていた。
「さあ、田中さんも投稿しましょう」
後ろから南由紀子の声がした。
「あ、はい...」
田中は、緊張しながら最初の投稿を始めた。
「今日の学び:SNSの力を信じ、前向きな言葉を発信し続ける...」
送信ボタンを押した瞬間、「いいね」が付き始めた。
「これが、新しい世界の始まりなんだ...」
田中は複雑な思いを胸に、スマートフォンを見つめ続けた。