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人生革命セミナーの闇 4章: SNSコミュニティでの出来事3

高校時代のトラウマの再燃

大芝恵子からの厳しい指摘を受け、少しずつ変化し始めた田中一郎。しかし、ある日の投稿をきっかけに、彼の中に眠っていた古いトラウマが再燃することになった。

その日、田中はいつものように自撮り写真を投稿した。

「今日も一日、自分らしく過ごします #ありのまま」

すると、大芝から思いもよらないコメントが付いた。

「その顔、高校時代にいじめられっ子だったな」

田中は凍りついた。画面を見つめたまま、動けなくなった。

「なぜ...なぜそんなことが...」

高校時代、田中は確かにいじめの標的になっていた。特に、顔をからかわれることが多かった。それ以来、自分の顔に自信が持てず、人前で笑顔を作るのが苦手だった。

セミナーや自己啓発で、やっとその壁を乗り越えられそうだと思っていた矢先のことだった。

動揺する田中に、さらに大芝のコメントが続く。

「その傷、まだ癒えていないようだな。本当の自分と向き合うには、過去の痛みも受け入れる必要がある」

田中は震える手でスマートフォンを置いた。頭の中で、高校時代のあの日々が蘇ってくる。

「おい、ブタ面!」
「そんな顔で生きてて恥ずかしくないのか?」

かつてのいじめっ子たちの声が、頭の中でこだまする。

その夜、田中は眠れなかった。翌朝、目の下にクマを作りながら、おずおずとカメラを向ける。

「おはようございます...」

力なく投稿すると、すぐに南由紀子からメッセージが来た。

「田中さん、大丈夫?なんだか元気がないわよ」

田中は迷った末、正直に打ち明けることにした。

「実は...大芝さんのコメントで、昔のことを思い出してしまって...」

南からの返事は意外なものだった。

「それは素晴らしいチャンスよ!過去のトラウマを乗り越えれば、あなたの波動はもっと上がるわ。今すぐ個別セッションをしましょう」

田中は戸惑った。トラウマを「チャンス」だなんて...。しかし、藁にもすがる思いで、南のオフィスに向かった。

南のオフィスで、田中は高校時代のいじめについて話し始めた。

「顔をからかわれて...自信をなくして...」

南は真剣な表情で聞いていたが、突然立ち上がった。

「分かったわ。今からあなたの前世を見てあげる」

「え?前世...ですか?」

南は目を閉じ、何かをつぶやき始めた。

「あなたの前世が見える...古代エジプトの美しい王子だったわ。その美しさゆえに、嫉妬されて...」

田中は困惑した。「でも、それと今の自分は...」

南は目を開けて断言した。

「全てはつながっているの。前世の美しさを思い出せば、今生での自信のなさも克服できるわ」

田中は半信半疑だったが、なぜか少し気が楽になった気がした。

その日の夜、田中は勇気を出して投稿した。

「私には美しい魂がある。それを信じて生きていきます」

すると、大芝から再びコメントが。

「きれいごとを言っても意味がない。本当の痛みと向き合え」

その言葉に、田中は再び落ち込んだ。

翌日、職場で同僚に声をかけられた。

「田中さん、大丈夫?最近SNSの投稿、なんか辛そうだけど...」

田中は苦笑いを浮かべた。「ああ...ちょっと色々あって...」

その夜、田中は久しぶりに幼馴染の健太に電話をかけた。

「健太...俺、どうしたらいいと思う?」

健太は田中の話を黙って聞いていたが、最後にぽつりと言った。

「お前さ、そのセミナーやSNSのこと、本当に楽しいのか?」

田中は答えられなかった。

その後も、田中の投稿は続いた。しかし、以前のような明るさは消え、どこか虚ろな表情ばかりが続く。

大芝のコメントも執拗に続いた。

「まだ逃げているな」
「本当の自分を見せろ」

そんなある日、田中は思い切って、高校時代の写真を投稿した。

「これが昔の私です。いじめられっ子だった私です」

投稿した瞬間、田中は激しい動悸を感じた。しかし、予想外の反応が返ってきた。

「勇気ある投稿ですね」
「私も似たような経験があります。一緒に乗り越えましょう」

そして、大芝からのコメントも。

「やっと一歩前に進んだな」

その言葉に、田中は小さな希望を感じた。しかし同時に、これまでの自分の在り方に大きな疑問も感じ始めていた。

「本当に自分を変えられるのか?それとも、ただ逃げているだけなのか?」

答えの出ない問いを抱えながら、田中は深いため息をついた。

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