人生革命セミナーの闇 9章: メンタルの崩壊とセミナーからの離脱1
主催者や紹介者への相談
健太との電話から数日後、田中一郎は再び立ち上がる勇気を見出していた。しかし、まだ完全にセミナーの呪縛から逃れられずにいた彼は、最後の望みをかけて主催者や紹介者に相談することを決意した。
まず、田中は大西小悟にメールを送った。
「大西さん、相談があります。セミナーで学んだことを実践しているのですが、うまくいきません。借金も増え、うつ病も悪化しています。どうすればいいでしょうか」
返信は翌日届いた。
「田中さん、あなたの状況はよく分かります。しかし、それはあなたの思考が作り出した現実なのです。もっとポジティブに考え、行動し続けることが大切です」
田中は眉をひそめた。具体的なアドバイスは一切ない。
次に、田中は南由紀子に電話をかけた。
「もしもし、南さん。アドバイスをいただきたくて...」
南の声は、いつもより冷たく感じられた。
「田中さん、あなたの波動がまた下がっていますね。それではダメです。もっと宇宙とつながり、感謝の気持ちを持つことが大切よ」
田中は困惑した。「でも、借金のことや...」
南は田中の言葉を遮った。
「それも全て、あなたが引き寄せているのよ。ネガティブな思考を捨てなさい」
電話を切った後、田中は深いため息をついた。
最後の望みをかけて、田中は木村に連絡を取った。
「木村さん、どうすれば成功できるんでしょうか。具体的に教えてください」
木村の返事は意外なものだった。
「田中さん、実は私も苦しんでいるんです。あの成功談、少し盛っていたんです...」
田中は驚いた。「え?じゃあ、月収1000万円というのは...」
「嘘です。でも、大西さんに言われて...」
木村の告白に、田中は言葉を失った。
その夜、田中は再び眠れずにいた。主催者や紹介者からの返答、そして木村の告白。全てが頭の中でぐるぐると回っている。
「結局、誰も本当のことを教えてくれない...」
翌朝、田中は意を決して、セミナーの元紹介者だった山本悟に連絡を取ることにした。
「山本さん、覚えていますか?セミナーに誘ってくれた田中です」
山本の声には、少し驚きが混じっていた。
「ああ、田中さん。どうしました?」
田中は全てを話した。セミナー参加後の苦労、借金、うつ病のこと。そして主催者たちの対応について。
山本は長い沈黙の後、静かに話し始めた。
「正直に言います。私もそのセミナーから離れました。あまりにも...」
「あまりにも?」
「あまりにも非倫理的だと感じたんです。人々の弱みにつけ込み、高額なセミナーや商品を売りつける。それが彼らのビジネスモデルなんです」
田中は愕然とした。「じゃあ、なぜ僕を誘ったんですか?」
山本の声に悔恨の色が滲んだ。「申し訳ない。当時の私も、彼らの手法に騙されていたんです」
電話を切った後、田中は長い間、窓の外を見つめていた。
これまでの出来事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。セミナーへの参加、高揚感、そして次第に深まっていった苦しみ。
「俺は...ずっと騙されていたのか」
その瞬間、田中の中で何かが壊れた。そして同時に、新たな何かが芽生え始めた。
「もう...終わりにしよう」
田中は震える手でスマートフォンを手に取り、セミナーのLINEグループから退会した。そして、大西や南のコンタクトを全て削除した。
深呼吸をする田中。胸の中に、小さいながらも確かな解放感が広がっていく。
「これが...新しい始まりなんだ」
窓の外では、朝日が昇り始めていた。新しい一日の始まりを告げるかのように。
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