人生革命セミナーの闇 9章: メンタルの崩壊とセミナーからの離脱2
騙された気持ちと人間不信
セミナーから完全に離脱することを決意した田中一郎。しかし、その決断は新たな感情の嵐を引き起こした。騙されていたという事実に向き合うにつれ、田中の心は怒りと悲しみ、そして深い人間不信に満たされていった。
ある朝、田中は鏡の前に立ち、自分の姿を見つめた。憔悴しきった顔、やつれた体。そして、空虚な目。
「なぜ...こんなことに...」
突然、怒りが込み上げてきた。田中は思わず鏡を殴りつけた。
「くそっ!なんで俺は...なんであいつらは...!」
手から血が滴り落ちる。しかし、その痛みよりも心の痛みの方が激しかった。
その日、田中は久しぶりに外出することにした。街を歩きながら、以前のセミナー仲間だった人たちの顔が次々と浮かんでくる。
「みんな...嘘をついていたのか」
カフェに入り、コーヒーを注文する。隣のテーブルで、スーツ姿の男性二人が熱心に話し合っている。
「この新しいビジネス、絶対に儲かりますよ。今参加しないと損ですって」
その言葉を聞いた瞬間、田中は激しい吐き気を覚えた。慌ててカフェを出る。
「どこにでもいるんだ...人を騙す奴らが」
家に帰る途中、田中は昔よく行っていた本屋に立ち寄った。ビジネス書のコーナーに目をやると、「成功哲学」「金持ち思考」といった文字が�踊っている。
「これも...全部嘘なんじゃないのか」
本屋を出た田中は、スマートフォンを手に取り、Twitterを開いた。タイムラインには相変わらず、キラキラとした成功者たちの投稿が流れている。
「人生最高!」
「努力は必ず報われる!」
「感謝の気持ちを忘れずに♪」
田中は思わず吐き捨てるように言った。
「嘘つき...みんな嘘つきだ」
家に戻った田中は、セミナー関連の書類や教材を全て段ボールに詰め始めた。その作業中、昔の友人・健太からメッセージが届いた。
「一郎、元気か?飲みに行かないか?」
田中は返信をためらった。「本当に...信じていいのか」
結局、田中は適当な言い訳をして断った。
その夜、眠れない田中は、過去のセミナーでの出来事を一つ一つ思い出していた。
大西の熱烈な講義。
「あなたの人生を変える力が、ここにはあるんです!」
南のカウンセリング。
「あなたの波動が上がっているのが分かるわ。素晴らしい成長ね」
木村の成功談。
「このセミナーのおかげで、人生が180度変わりました!」
一つ一つの記憶が、今では全て嘘に思えてくる。
「誰を...誰を信じればいいんだ」
翌日、田中は勇気を出して、かつての同僚・山田に連絡を取った。
「山田さん、久しぶり。最近どう?」
山田の声は明るかった。「ああ、田中さん!元気にしてる?うちの会社、最近業績が上向いてきてね。昇給したんだ」
田中は複雑な気持ちになった。「そう...良かったね」
電話を切った後、田中は深いため息をついた。
「みんな前に進んでいるのに...俺だけが」
その夜、田中は日記を書いた。
「もう誰も信じられない。人間関係なんて、結局利害関係でしかないんだ。でも...こんな風に生きていていいのだろうか」
ペンを置いた田中の目に、涙が浮かんでいた。
数日後、田中はスーパーで買い物をしていた。レジに並んでいると、後ろの老婦人がカゴを落としてしまった。
田中は一瞬躊躇したが、思わず手を伸ばして助けていた。
「ありがとう、優しい方ね」
老婦人の笑顔に、田中は久しぶりに心が温かくなるのを感じた。
家に帰る途中、田中は空を見上げた。
「まだ...信じていいものはあるのかもしれない」
その小さな希望を胸に、田中は歩み続けた。長い回復の道のりは、ここから始まるのかもしれない。