人生革命セミナーの闇 3章: セミナーの実態3
スピリチュアルカウンセラー南由紀子との出会い
ネットワークビジネスの苦戦が続く中、田中一郎のもとに一通のメールが届いた。差出人は南由紀子だった。
「田中さん、お元気ですか?個別カウンセリングのご案内です。あなたの潜在能力を引き出し、ビジネスの成功につなげましょう」
田中は躊躇した。しかし、このままではどうにもならない。藁にもすがる思いで、カウンセリングの予約を入れた。
約束の日、田中は南のオフィスを訪れた。オフィスは高級マンションの一室で、玄関を入るとアロマの香りが漂っていた。
「田中さん、いらっしゃい」
南が優しく微笑みかけた。その姿は、以前にも増して華やかだった。
「さあ、こちらへどうぞ」
案内された部屋には、クリスタルや占星術の図版が飾られていた。田中は少し居心地の悪さを感じながら椅子に座った。
南はゆっくりと話し始めた。
「田中さん、最近どう?ビジネスの調子はいかがかしら」
田中は正直に答えた。「実は...全然上手くいってなくて。誰も興味を示してくれないんです」
南は同情的な表情を浮かべた。「そう...でも、それは当たり前のことなのよ」
「え?」
「あなたの波動が低いからなの。成功者になるためには、まず自分の波動を上げなければいけないわ」
田中は困惑した表情を浮かべた。「波動...ですか?」
南は熱心に説明を始めた。
「そう、波動よ。宇宙のエネルギーと一体化し、高い周波数で振動することが大切なの。そうすれば、自然と成功があなたの元にやってくるわ」
田中はますます混乱した。「どうすれば波動を上げられるんですか?」
南は嬉しそうに立ち上がった。
「それを今から教えるわ。まずは、このクリスタルを手に取って」
南が差し出したクリスタルを、田中は恐る恐る手に取った。
「目を閉じて、深呼吸をしてください。宇宙のエネルギーがあなたの中に流れ込むのを感じて...」
田中は言われるがままに目を閉じた。しかし、特に何も感じない。
「はい、目を開けて。どうだった?」
「えっと...特に何も...」
南は少し残念そうな表情を浮かべた。
「そう...やはりあなたの波動はかなり低いわね。でも大丈夫、私が特別なセッションで上げてあげる」
そう言って南は、様々な道具を取り出し始めた。香炉、タロットカード、ペンデュラム...。
「これから、あなたのオーラを浄化し、チャクラを開いていくわ」
2時間に及ぶセッションの間、田中は南の指示に従って様々なポーズをとり、呪文のような言葉を唱え、奇妙な音楽を聴いた。
セッションが終わると、南は満足げな表情で言った。
「素晴らしいわ、田中さん。あなたの波動が明らかに上がったわ」
田中は少し疲れた様子で尋ねた。「本当ですか?」
「もちろんよ。これからはきっと、ビジネスも上手くいくはずよ」
帰り際、南は田中に一枚の名刺を手渡した。
「これは私の特別なクライアント用の連絡先よ。何かあったらいつでも連絡して」
田中は名刺を受け取りながら、料金の請求を恐れていた。案の定、南は続けた。
「今日のセッション料は10万円になるわ。でも、これは未来への投資だと思って」
田中は愕然としたが、断る勇気が出なかった。
「わ、わかりました...」
家に帰った田中は、複雑な思いでベッドに横たわった。
「本当に波動が上がったのかな...」
翌日、田中は新たな気持ちでビジネスに取り組んだ。しかし、結果は変わらなかった。
数日後、田中は再び南にメールを送った。
「波動を上げても、まだ上手くいきません」
南からの返信はすぐに来た。
「田中さん、焦らないで。波動を上げ続けることが大切よ。次は『アセンションコース』がおすすめよ。3回で30万円だけど、きっと人生が変わるわ」
田中はため息をついた。これ以上のお金は...。しかし、一方で「このままじゃダメだ」という焦りも感じていた。
その夜、田中は眠れずにいた。南の言葉、大西の言葉、そして現実の厳しさ。それらが頭の中でぐるぐると回り続けていた。
「本当にこれでいいのだろうか...」
そんな疑問を抱えながらも、田中は南の「アセンションコース」の申込フォームに、おずおずと情報を入力し始めた。