人生革命セミナーの闇 5章: 自問自答と主催者の巧みな立ち回り3
膨らむ出費への苛立ち
田中一郎は、自宅の台所で請求書の山を前に頭を抱えていた。セミナーに参加して以来、出費が膨らむ一方だった。
「こんなはずじゃなかったのに...」
田中はため息をつきながら、一枚一枚の請求書を確認していく。
セミナー参加費のローン、「オーラブースター」の代金、南由紀子のカウンセリング料、ネットワークビジネスの初期投資...。全て合わせると、すでに200万円を超えていた。
「俺の年収の半分以上じゃないか...」
そう呟きながら、田中は冷蔵庫を開けた。中身は乏しく、安物のビールが数本転がっているだけだった。
「贅沢は言えないな...」
ビールを一口飲んで、田中は再び請求書に目を向けた。そこに、新たな請求書が目に入る。
「え?これは...」
それは、セミナーのフォローアップ講座の請求書だった。金額は30万円。田中は記憶を辿る。確かに、何かのタイミングでサインはしたような...。
「でも、こんな高額だったっけ?」
混乱する田中に、スマートフォンの着信音が鳴り響いた。画面を見ると、大西小悟からだった。
躊躇しながらも電話に出る田中。
「もしもし、田中です」
「やあ、田中さん。フォローアップ講座の件で連絡しました。参加の準備はできていますか?」
田中は言葉に詰まった。
「あの...実は金額的にちょっと...」
大西の声のトーンが変わる。
「田中さん、約束は覚えていますよね?このフォローアップこそが、あなたの人生を変える最後のチャンスなんです」
田中は苦しい胸の内を吐露した。
「でも大西さん、もうこれ以上の出費は...生活がキツくて...」
大西の声は冷たくなった。
「田中さん、そんな小さなことで諦めてしまうんですか?成功者になるためには、リスクを恐れてはいけません」
電話を切った後、田中は深いため息をついた。
「リスク...か」
翌日、会社での昼休み。同僚の佐藤が心配そうに声をかけてきた。
「田中さん、最近元気ないけど大丈夫?」
田中は苦笑いを浮かべる。
「ああ...ちょっと金銭的に厳しくて...」
佐藤は驚いた顔をした。
「え?田中さん、確か昇給したんじゃなかった?」
田中は気まずそうに答えた。
「うん...でも、ちょっといろいろとね...」
佐藤は真剣な表情になった。
「もしかして、あのセミナーのせい?」
田中は答えられなかった。
その日の帰り道、田中は銀行のATMに立ち寄った。残高を確認すると、予想以上に少ない金額に愕然とする。
「このままじゃ...家賃も払えなくなる...」
家に帰ると、ポストに一通の手紙が入っていた。開封すると、ローン会社からの督促状だった。
「もう限界だ...」
田中は、初めてセミナーに参加した日のことを思い出した。あの時は希望に満ちていた。人生が変わると信じていた。
「でも、変わったのは...」
財布の中身と、膨らむ借金。そして、どこか空虚な気持ち。
田中は、スマートフォンを手に取り、セミナーのLINEグループを開いた。そこには相変わらず、成功者たちの華やかな投稿が並んでいる。
「皆さん、今日も最高の一日でした!感謝感謝です♪」
「新しい高級車を購入しました!夢は必ず叶います!」
その投稿を見ながら、田中は苦い気持ちになった。
「本当に皆成功してるのかな...」
ふと、大芝恵子の言葉を思い出す。
「本当の自分と向き合え」
田中は、長い間考え込んだ。そして、おもむろにスマートフォンを手に取り、メモ帳アプリを開いた。
「セミナー参加からの出費」
そうタイトルをつけ、これまでの全ての出費を書き出し始めた。金額が膨らんでいくのを見て、田中の中で何かが冷めていくのを感じた。
最後に、田中は大きく息を吐いた。
「もう...これ以上はダメだ」
その夜、田中は久しぶりに心を決めた顔で、南由紀子にメールを送った。
「南さん、申し訳ありませんが、フォローアップ講座はキャンセルさせてください。そして...」
送信ボタンを押す前に、田中は少し躊躇した。しかし、決意を固めて続けた。
「そして、これ以上のセミナーやプログラムへの参加も控えさせていただきます」
送信ボタンを押した瞬間、田中の胸に小さな希望の光が灯った。
「これが...新しい始まりかもしれない」
そう思いながら、田中は久しぶりに穏やかな気持ちで眠りについた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?