人生革命セミナーの闇 6章: 煽り立てるイベント2
質問への曖昧な回答
情報の洪水から少し距離を置くことにした田中一郎だったが、心の中にはまだ多くの疑問が渦巻いていた。そんなある日、田中は勇気を出して大西小悟に直接質問のメールを送ることにした。
「大西さん、セミナーで学んだことを実践しているのですが、なかなか成果が出ません。具体的にどうすれば良いでしょうか?」
送信ボタンを押した後、田中は緊張しながら返信を待った。しばらくすると、大西からの返信が届いた。
「田中さん、質問ありがとうございます。成功への道のりは人それぞれです。あなたなりのペースで進んでいけば良いのです。ポジティブな思考を持ち続けることが大切ですよ」
田中は眉をひそめた。「これじゃ、何も答えになってないじゃないか...」
もう少し具体的な答えを求めて、田中は再度メールを送った。
「すみません、もう少し具体的なアドバイスをいただけないでしょうか?例えば、収入を増やすための具体的な方法など...」
今度の返信はさらに曖昧だった。
「田中さん、宇宙の法則を信じることが大切です。あなたの思考が現実を作り出すのです。具体的な方法は、あなたの中にあります」
田中はため息をついた。「何だこれ...」
困惑する田中に、同僚の佐藤から電話がかかってきた。
「もしもし、田中?どうだい、セミナーの成果は出てる?」
田中は正直に答えた。「いや...実はあまり...」
佐藤の声が明るくなる。「そうか?俺はすごくいいんだぞ!先日の東京セミナーで紹介されたビジネス、もう始めたんだ」
「へぇ...どんなビジネスなの?」
「それがさ...まだ詳しくは言えないんだ。でも、すごい可能性があるんだぞ!」
電話を切った後、田中はますます混乱した。「みんな、本当に成功してるのかな...」
その夜、田中は南由紀子にもメールを送ってみた。
「南さん、最近疑問に思うことが多くて...セミナーで学んだことと現実のギャップに悩んでいます」
南からの返信は素早かった。
「田中さん、その悩みこそが成長の証です。でも、答えを外に求めてはいけません。あなたの内なる声に耳を傾けてください」
田中は頭を抱えた。「内なる声って...具体的にどうすればいいんだ?」
翌日、会社の昼休み。田中は勇気を出して、セミナーに参加したことのある山田に声をかけた。
「山田さん、セミナーの教えって、本当に効果あります?」
山田は少し考え込んでから答えた。「うーん、効果はあるんじゃないかな。でも、具体的に何が変わったかって言われると...」
その言葉に、田中はさらに不安になった。
帰宅後、田中はパソコンを開き、セミナーの公式サイトを見てみた。そこには、華々しい成功事例が並んでいた。
「年収1000万円達成!」「人生が180度変わりました!」
しかし、どの事例も具体的な方法は書かれていない。
「いったい、どうやって...」
混乱する田中に、突然LINEの通知が入った。セミナーのグループチャットだ。
「皆さん、明日の特別ウェビナーをお楽しみに!人生を変える秘訣を伝授します!」
田中は、参加するかどうか迷った。しかし、もしかしたら具体的な答えが得られるかもしれない。そう思い、参加を決意した。
ウェビナー当日、田中は期待と不安を胸に画面の前に座った。
大西の姿が画面に現れる。「皆さん、今日は特別な日です。人生を変える秘訣、それは...」
田中は身を乗り出した。
「自分を信じること、そして行動し続けることです!」
田中は唖然とした。「また、こんな抽象的な...」
ウェビナーの後半、質問コーナーが設けられた。田中は勇気を出して質問を送信した。
「具体的に、どのような行動をすれば良いのでしょうか?」
大西は笑顔で答えた。「素晴らしい質問です。行動の具体例は人それぞれです。あなたの内なる声に従って、一歩一歩前進してください」
画面を消した田中は、深いため息をついた。
「結局...何も分からないまま」
その夜、田中は長い間天井を見つめていた。セミナーでの教え、大西や南の言葉、そして自分の現状。全てが頭の中でぐるぐると回っている。
「本当に、このままでいいのか...」
答えの出ない疑問を抱えたまま、田中は眠りについた。しかし、彼の心の中で、小さな変化が始まっていることに、まだ気づいていなかった。
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