見出し画像

人生革命セミナーの闇 第1章: 初めてのセミナー体験2

スピリチュアルな話題と宇宙理論

大西小悟の声が、静まり返ったセミナールームに響き渡った。

「皆さん、宇宙のことを考えたことはありますか?」

突然の問いかけに、参加者たちは戸惑いの表情を浮かべた。田中一郎も眉をひそめる。

「宇宙?何の話だ?」と心の中でつぶやいた。

大西は続ける。「私たちは、この広大な宇宙の中のほんの小さな存在です。でも、その小ささが重要なんです」

スクリーンに、満天の星空の映像が映し出される。

「ホーキング博士の理論によると、宇宙には11次元の存在可能性があるそうです。私たちが認識しているのは、そのうちのたった3次元に過ぎない」

会場からどよめきが起こる。田中は隣の佐藤に小声で尋ねた。

「これ、自己啓発セミナーですよね?」

佐藤は微笑んで答えた。「ええ。でも、大西さんの理論は深いんです。聞いてみてください」

大西は熱を帯びた口調で話し続ける。

「つまり、私たちの認識の外に、まだ8つの次元が存在する可能性があるんです。そこには、無限の可能性が眠っている」

田中は首を傾げた。何が言いたいのかよく分からない。

「皆さん、自分の可能性を狭めていませんか? 3次元の世界だけで生きていませんか?」

大西の問いかけに、会場が静まり返る。

「私たちには、もっと大きな可能性がある。それを引き出すのが、このセミナーの目的なんです」

突然、南由紀子が立ち上がった。

「大西さん、ここでちょっと実験をしてみませんか?」

大西は満面の笑みで答える。「いいですね。南さん、お願いします」

南は参加者に向かって話し始めた。

「皆さん、目を閉じてください。深呼吸をして...そう、ゆっくりと」

田中も指示に従って目を閉じる。

「今、あなたの周りにオーラが見えます。赤や青、緑...様々な色が渦を巻いています」

南の声が、どこか神秘的に響く。

「その色は、あなたの潜在能力を表しています。11次元の世界とつながるための、あなただけの色です」

田中は、目を閉じたまま考え込んだ。「オーラ? 色? 何の話だ?」

しかし、不思議なことに、頭の中に色とりどりの光が浮かんでくる。

「はい、目を開けてください」

南の声で、参加者たちは目を開けた。

「どうでしたか? 色は見えましたか?」

会場からは様々な反応が上がる。

「青い光が見えました!」
「私は赤と金色でした」
「何も見えませんでした...」

田中は迷った。本当に何かが見えたような気もするが、単なる錯覚かもしれない。

大西が再び話し始める。

「皆さんが見た色、それがあなたと宇宙をつなぐ架け橋なんです。その色を意識することで、あなたの潜在能力は開花します」

田中は困惑していた。科学的な話から始まったはずなのに、いつの間にかスピリチュアルな話になっている。

「でも、これが本当なら...」

そう思った瞬間、大西が田中の方を向いた。

「田中さん、あなたはどんな色が見えましたか?」

突然の問いかけに、田中は言葉に詰まった。

「え、あの...紫色のようなものが...」

嘘をついているという罪悪感に苛まれながら、田中は答えた。

大西の顔が輝いた。「素晴らしい! 紫は高次の意識とつながる色です。田中さん、あなたには大きな可能性がありますよ」

会場から拍手が沸き起こる。田中は複雑な表情を浮かべた。

「本当に...そうなのか?」

セミナーは休憩を挟んで続いた。次は「量子力学と成功の法則」というテーマだ。

「アインシュタインの言葉を借りれば、『想像力は知識よりも重要である』」

大西の声が会場に響く。

「量子の世界では、観測者の意識が結果を左右します。つまり、あなたの思考が現実を作り出すんです」

田中は必死でメモを取っていた。理解できているかどうかは分からないが、とにかく話についていこうと必死だった。

「ですから、皆さん。ポジティブに考えることが大切なんです。そうすれば、量子レベルであなたの望む現実が生まれるんです」

セミナーが終わる頃には、田中の頭はぐるぐると回っていた。宇宙理論、オーラ、量子力学...難解な概念が次々と飛び交う中で、自分が何を学んだのか、正直よく分からなかった。

「どうでしたか?」隣の佐藤が尋ねてきた。

「はい...とても...興味深かったです」

田中は曖昧に答えた。本当のところ、半分も理解できていない。でも、何か大きなことを学んでいる気がした。

「明日からが本番ですよ。楽しみですね」

佐藤の言葉に、田中は無言で頷いた。

「さあ、明日も心して参りましょう!」

大西の声が会場に響き、初日のセミナーは幕を閉じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?