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人生革命セミナーの闇 第1章: 初めてのセミナー体験1

高級車で到着する主催者とその弟子

セミナー初日の朝、田中一郎は早めに会場となるホテルに到着した。ロビーには既に数人の参加者が集まっており、みな緊張した面持ちで待機していた。

「おはようございます」田中が声をかけると、隣に立っていた中年の男性が振り向いた。

「ああ、おはようございます。初めてですか?」

「はい、初めてです。田中と言います」

「私は佐藤です。実は2回目なんですよ、このセミナー」

田中は驚いた。「2回目ですか? それほど良いものなんですね」

佐藤は少し照れくさそうに笑った。「ええ、人生が変わりましたからね。今回は更なる高みを目指して」

その言葉に、田中の期待が一層高まった。

突然、ロビーが騒がしくなった。窓の外を見ると、高級車が到着している。

「あれは...」田中が言葉を失っていると、佐藤が興奮した様子で答えた。

「主催者たちですよ。ほら、あの真っ白いロールスロイスから降りてくるのが大西小悟さんです」

田中は息を呑んだ。確かに、昨日会った大西が優雅に車から降り立つ姿が見えた。その後ろには、同じく高級車から降りる数人の男女が続いた。

「すごい...」思わず呟いた田中に、佐藤が得意げに説明した。

「あの黒いベントレーから降りてきたのが、大西さんの右腕の南由紀子さんです。スピリチュアルカウンセラーとして有名な方ですよ」

田中は圧倒されていた。自分が払った100万円の使い道の一端を見た気がして、複雑な気持ちになった。

そのとき、ロビーの扉が開き、大西たちが入ってきた。参加者たちから自然と拍手が沸き起こる。

大西は満面の笑みを浮かべながら、参加者たちに向かって両手を広げた。

「皆さん、おはようございます! 素晴らしい朝ですね。今日から、皆さんの人生が大きく変わる7日間が始まります」

その声は、昨日聞いたものよりも更に力強く、カリスマ性を感じさせた。

「さあ、まずは全員で朝のエクササイズをしましょう。心と体の準備をするんです」

大西の号令一下、参加者全員がロビーに集合した。

「深呼吸から始めます。大きく吸って...はーーーっ」

田中は周りに合わせて深呼吸を始めた。少し恥ずかしさを感じながらも、不思議と心が落ち着いていくのを感じた。

15分ほどのエクササイズが終わると、大西が再び話し始めた。

「素晴らしい。皆さん、今の気分はどうですか?」

「すっきりしました!」
「体が軽くなった気がします」

参加者たちから前向きな声が上がる。田中も確かに気分が良くなっていた。

「そうですね。これが『気』の力なんです。今日一日、この感覚を忘れずにいてください」

大西の言葉に、参加者たちは熱心に頷いた。

「では、セミナールームに移動しましょう。そこで、皆さんの人生を変える秘密をお話しします」

参加者たちは興奮気味に大西の後を追った。田中も列に加わり、エレベーターに乗り込んだ。

「田中さん」突然、後ろから声をかけられた。振り返ると、大西が立っていた。

「は、はい」田中は驚いて返事をした。

「昨日はゆっくりお話しできませんでしたね。今日からの7日間、一緒に頑張りましょう」

大西の笑顔に、田中は安心感を覚えた。

「はい、よろしくお願いします」

エレベーターを降り、広々としたセミナールームに入ると、そこには既に南由紀子を含む数人のスタッフが待機していた。

「皆さん、お座りください」南の声が響く。

参加者たちは指定された席に着いた。田中の隣には、先ほど話した佐藤が座った。

「緊張してますか?」佐藤が小声で聞いてきた。

「ええ、少し...」田中は正直に答えた。

「大丈夫ですよ。ここにいる全員が、あなたの味方なんです」

その言葉に、田中は少し勇気づけられた。

大西が壇上に立ち、マイクを手に取る。会場が静まり返る。

「皆さん、準備はいいですか? これから、あなたの人生を180度変える旅が始まります」

大西の声が会場に響き渡る。田中は深呼吸をして、自分に言い聞かせた。

「よし、ここからだ。人生を変えるんだ」

そして、7日間の濃密なセミナーが、ついに幕を開けた。

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