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ようかい体操第一

大学生の頃に経験した日払いバイトの記録を残しておこうと思う。

この前スペースで少し話して思い出したんだけど、なかなか過酷なバイトを経験したなと自分でも思ったので、忘れないように文字で残しておきたいなと。


大学生の頃はもちろん貧乏学生だった。実家からの支援もなく、授業料も滞納する時もあった。寮は家賃800円のスラムのような寮だった。

そんな生活でも楽しかったけど…さすがに授業料の滞納はマズかった。とにかく金を稼いでこないといけない…ということで日払い・大阪で検索して出てきた登録型派遣で働くことになった。

大阪にしたのは時給が高いからだ。


派遣の登録には、まず大阪の本町の事務所まで登録のために行かないといけなかった。ただでさえ金が無いのに余計な交通費をかけて本町まで移動する…。

事務所ではよく分からない派遣会社の社員の人の謎の演説を聞かされ、そっから登録となる。

ただ、演説の内容はなかなかだった。お前らみたいなのに仕事をくれてやるんだ!!しっかり気合い入れて働け!!そしたら、少しはまともな仕事もできるようになる!!まずはゴミみたいな仕事で実績を作れ!!社会は実績のない人間に簡単に仕事なんて与えてくれないのだ!!!!!というものだった。

そして、事務所を出る時はオフィス中に響き渡るような大声で一人ずつ『お疲れ様でしたっっ!!!』と挨拶をして出ないといけないという苦行もあった。もちろん挨拶しても社員は無視。

自尊心をここまでへし折って、それでも登録を続ける者を選別してたのでは?と思うくらいの、今なら洗脳と言われかねないような…そんな登録会だった。


もちろん、僕はまだ世の中のことを何も知らない20歳。純粋だった僕は精一杯集中して演説を聞き、メモを取り、お疲れ様でした!!をやった。

そして、寮に戻ったらメールが来ていた。初仕事の案内だ。

記念すべき初仕事は…大阪の平野のハンガー工場での軽作業だった。

よく分からないけど…軽作業ということで僕は少し安心した。すんごい力仕事だったらどうしよう…と思ってたから、少し拍子抜けした。



〜派遣初日〜

その日は朝の8時にJR加美駅集合だった。京都から大阪の加美に朝イチ集合はきついけど…僕は頑張って集合時間に間に合った。

集合場所で点呼をとるリーダーの人がいるから、その人と合流せよ…とメールには書いてたが…それらしき人はまだいなかった。そして、集合時間から10分くらい経った頃だった。

駅の改札から二人のおっさんが現れた。〇〇派遣の子?と聞かれた。

僕『はい!!今日はよろし』

おっさん『挨拶はええねん!!遅刻や!!さっさと行くで!!』

早速怒られる。まだ純粋だった僕はすみませんと謝って、おっさんの後についていった。


駅から歩いて10分くらいのとこにある町工場に到着する。ここでハンガーを作ってるのか?といろいろ疑問だが、とにかくおっさんに従って工場に入る。

おっさん『すみません、新人と合流がなかなかできなくて!!』

工場の事務員さん?に謝っている。いや、僕は別に悪くないけど…ちょっとイラっとした。

しかし…それより何より問題なのは工場の事務員さんだ。

黒のピチピチのスーツに、胸のボインがすんごいメガネをかけたお姉さんだ…その風貌はベヨネッタ…。



こんな感じのお姉さん。なんか優しそうな感じがするし、ちょっとエロい…と思っていたら…

お姉さん『もう始まりますから、早く移動しなさい。あなたは早くこっちに来なさい!!』

というとんでもない女教師口調。心底派遣を見下しているのか…おっさん達もはいはい、すんませんと言って工場に入っていった。

お姉さん『こっちよ!!早くしなさい!!』

僕にもやっぱり当たりは強かった…。

そんなベヨネッタに案内されて事務所で紙を書かされ、派遣事務所からの紙を渡して、何か手続きをしてもらった。

お姉さん『あなた…軍手は?』

僕『軍手ですか?』

お姉さん『軍手持参って説明されてないの?本当にあなたの会社って適当ね!!これを使いなさい!!今日だけよ!!明日忘れたら、素手で作業させるわよ!!』

僕『は、はい…すみません』

なんかわく分からないがボロボロの軍手を貸してもらった。


そして、お姉さんに案内されて工場の奥に移動させられ…いやいや、工場内が暑い…とにかくすんごい暑い…何これ?

お姉さん『うっ、う〜ん、あ〜ん、暑い…あっちに頭にバンダナ巻いた人がいるから指示を受けなさいっ!!』

誇張してない…本当にこんな感じで喘いだお姉さんは僕に指示をすると事務所に戻って行った。僕は轟々動く機械の方に行く。

いた…頭にバンダナ…


まさにゾロ…作業ズボンに白のタンクトップにバンダナを巻いたおじさんがいた…。

ゾロ『新人か?』

僕『は、はい、今日からここで働かせ』

ゾロ『うるせーーー!!気を抜いてたらなー怪我するぞ!!大学生がチャラチャラ遊びでやってたら、取り返しがつかないことになんだよ!!』

ゾロはめちゃくちゃご機嫌ナナメだ…。ちらっと聞いてたが、派遣の子が継続して来ないため、毎日人が変わるみたいで工場の人も気が立っているのだ…。

とにかく危険な仕事だとゾロから5分ほど脅された。さっさと仕事を始めろよと思うが、純粋な僕はうんうんと聞いた。

ゾロ『そしたら仕事すんぞ!!とにかくなめんな!!命がけでやれ!!』

僕『はいっ!!』

怖い…どんな仕事が来るのか…暑いし、機械の音はうるさいし…なんかとにかく全てが怖かった。。。

ゾロ『気合い入れろ!!いいか流れてきたハンガーとって、こっちのレーンに移せ!!』

僕『は…はい!!』

ん…それだけ?

いやいや、命懸けの仕事とは?

作業内容は簡単だった。機械から出てくるハンガーをとって、隣の動くハンガーラックみたいな棒にかけてあげるだけだった。拍子抜けだ…この程度の軽作業なら大丈夫だし、命も大丈夫だろう。

僕はハンガーを手に取った。

!?

僕は衝撃に包まれる…


えっ…えっ…マジで?あまりの事に僕は立ち尽くした。


ハンガーがめちゃくちゃ熱い!!!!!!!


みんなが想像してる5倍は熱い。激アツのハンガーがすんごい大量に流れてくるのだ…軍手なんか意味ない。ハンガーの熱が手に直接伝わってくるくらい…とにかく熱いのだ…

ゾロはニヤリと笑った。

ゾロ『人生も同じや…なめてかかったらアカンのや!!』

僕『はっ、はい!!!』


その作業は8時間続いた。単純作業だが、とにかく熱くて辛い、そして暑い…。無限に流れてくる熱々のハンガーをみんなは見たことあるだろうか…それをボロボロの熱伝導のいい軍手で掴んで隣に移し替える謎の作業。

もう死ぬかと思うくらいだったが、僕は8時間やり遂げた。

ちなみに、ゾロは機械の前でハンガーを検品したり機械の調整をしたりと大忙しだ。形のよくないハンガーを二刀流で持つ姿は正に武士の品格。



ゾロ『おめぇ…なかなかやるじゃねぇか!!』

仕事終了のチャイムが鳴るとゾロは僕を褒めてくれた。初日で弱音を吐かないでやり遂げる人は少ないらしい。酷い時は帰ってしまう人もいるらしい。

ゾロ『今日家に帰って飲むビールはうめえぞ…明日も待ってるぞ…』

そういうとゾロは僕に新品の軍手をくれた。


ゾロから名誉の軍手を貰って、僕は事務所に戻った。ベヨネッタがいた。このベヨネッタにハンコを押してもらわないといけないのだ。

事業者から貰うこのハンコを7個集めると、派遣事務所で現金に交換してくれるシステムになっている。日払いというのは嘘だった。つまり、7日は絶対に仕事に行かないと給料が出ないのだ…一度働き始めたら金に換金するために7日は絶対に出ないと、全てがパーになってしまう。

もちろん、労基に駆け込むというウルトラCもあるが…

そんなことをしたら、他の派遣会社にも情報共有してるから派遣で働くのが厳しくなると事前に脅されていた。とにかく7個のハンコを集めないと金が貰えない地獄の夏休みラジオ体操大会に強制参加なのだ。

僕『お疲れ様です、ハンコをお願いしたいんですけど…』

ベヨ『さっさと出しなさい!!』

事務机で足を組んだままベヨが冷たく言う。僕は派遣カード?をベヨに手渡す。サインとハンコを押して返してくれた。

ベヨ『あなた…軍手もらったの?』

ベヨネッタが僕が持っている軍手をボールペンで指した。

僕『はい…』

ベヨ『あら〜ん、うふふ…そう、明日も待ってるわ』

誇張していない。本当にベヨネッタはこう言ったのだ。



僕は帰りの道中に今日の出来事を反芻して、軍手を握りしめた。何か大きな事をやり遂げたような気がした。なんだか…少し大人になったような、そんな気がした。

僕は派遣会社の担当に電話した。

僕『明日、別の現場にしてください』


常識的に考えて手が焼けるかと思ったわ。こんなもん毎日できるわけないだろ!!!!


僕の派遣バイト初日はこうして終わった。



次回、派遣バイト編『地獄のゴミ清掃車』か『地獄のリゾバ・淡路島拉致事件』のどちらかを書きたいと思います。



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