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演技の基本「役の目的を学ぼう」
東京で演技の講師をしている秋江智文です。今回も演技の基本をお伝えします。
演技の教科書の第一章といえば「目的」です。私は受講生に「目的はエンジンだ。目的がないと役はピクリとも動けない。」と言っています。役が行動するためのモチベーションを「目的」と呼んでいます。
今回はその目的をできるだけ演技初心者や演技に興味がある方に分かり易く、少しでも演技に使えるようにお伝えできればと思っております。
目的がドラマを生む
人には大小の差はあれど成し遂げたい願望や目標があります。人はその目的の達成しようと葛藤し、悩み、奮闘します。例えば目的が「私は○○大学に入学したい。」であれば、それが活動するためのエネルギーとなり、塾に通ったり、図書館に行って勉強したり、徹夜したりといった行動をとります。その目標の達成する行動の過程で感情が動き、模試で良い点数がとれて喜んだり、勉強に集中するために泣く泣く恋人と別れたり、点数が上がらないことに怒ったりします。こういった目的に向かって悪戦苦闘しながら行動することこそドラマなのです。
芝居の中の役の目的
我々と同じく役にも目的があります。それもなかなか達成できないような大きな目的があるのです。観客は大きな目的に立ち向かう役に感情移入し、役の感情に共感して一喜一憂します。
宮崎駿監督の「天空の城ラピュタ」を取り上げましょう。(みんなが知っている映画を思い浮かべたらラピュタになりました。)男の子のパズーの目的は何でしょうか?パズーの目的は「ラピュタを見たと噓つき呼ばわりされて死んでいった父の汚名を晴らしたい。」ということかもしれません。だからお金や名声には関係なく突き進むことができるのでしょう。観客はその純粋な気持ちに共感し、思わず頑張れ!と言いたくなるのです。
では、ほかの役の目的は何でしょうか?
海賊のドーラは「ラピュタの宝が手に入れたい。」ので、そのラピュタにたどり着くためにパズーと手を組みました。ムスカ大佐は「ラピュタの力を使って地上を支配したい。」というものだったので、それに邪魔な人を殺しました。各々の役の目的が芝居の中で対立、衝突することで争いがおこったり、協力関係が生まれたりするのです。それぞれの役の目的の交錯が群像ドラマを生むのです。
「ロミオとジュリエット」であれば、ロミオの目的は「家名を超えてジュリエットと結ばれたい。」ということかもしれませんし、先日の映画「素晴らしき世界」では、主人公三上の目的は「カタギの人生を歩みたい。」となりえます。目的は同じ作品によってもその役を演じる俳優や、演出家や監督によっても変わってくるので正解はありません。
役の目的は往々にして芝居の序盤に提示されます。それは役が何を成し遂げたいのかをはっきりさせることで、はじめの段階で観客を惹きつけておきたいのです。
どうやって目的をつかうのか?
「目的」に取り組むうえで、まずポイントは「私は○○がほしい。」または「私は○○がしたい。」という文章におさめることがポイントです。この文章に当てはめて考えると役がとらえやすくなります。
エクササイズ
「目的」に関してのエクササイズを2つご紹介いたします。
① 目的を実感する
ワークの目的:目的を持った感覚を理解する。
所要時間 :5分程度
演技を始めたばかりの人は目的を持つという感覚がわからない役者が結構います。そういった方に向いたエクササイズです。また稽古やレッスンの初めなどにやってウォームアップ代わりにやってもいいでしょう。
椅子を1mくらい離れたところに置いてください。立った状態で椅子に向かってください。心の中で「私は椅子に座りたい。」と何度も唱えてください。実際につぶやいてみても構いません。
どうして座りたいかという理由は好きに決めてください。「ずっと歩いてきて疲れたから。」、「ブランド物の椅子でずっと座ってみたかった。」、「幸運の椅子で、座ると幸福になるから。」といった理由かもしれません。別に理由はなくてもいいです。ポイントはそのエネルギーをかき立てることです。
何度も唱えるうちに、椅子が特別なものに見えてきて、徐々に自分の中で座りたい願望が高まってくるはずです。けれど、この時点ではまだ座りません。一回休んで、もう一度同じことを行います。1回目よりさらに明確で強いエネルギーが生まれるのを感じるはずです。これを3回は繰り返してみてください。これをレッスンで行うと、受講生はなかなか座れない状況に皆フラストレーションやいら立ちを覚えます。
そして最後に座りましょう。きっとようやく座れた達成感や幸福感が出てきて、思わずニコリしたり声を上げたくなるでしょう。
① 目的を変えて演じてみる
ワークの目的:目的がセリフや動きにどういった影響があるかのか体感する。
所要時間 :10分程度
下記のセリフを目的を変えて演じ分けてみましょう。
状況:カルビンは妻のマーティを殺害した罪に問われている公判中である。陪審員達にその経緯を説明している。
カルビン「その袋に入っている骨は妻の骨です。その骨を見るまで、話ができるかどうかわかりませんでした。過ちを認められる人間になれないだろうと思っていました。」
※カルビンは実際に妻を殺害したことを前提とします。
※女性の方は、夫を殺害したことにしてください。
下記の目的に合わせて動きながらセリフを読んでみましょう。
目的①「私は妻に謝りたい。」
目的➁「私は陪審員に無実だと説得したい。」(事故であった。)
目的③「私は自分のやった殺害を陪審員にみてもらいたい。」
目的④「私は・・・をしたい」(自分で考えてみましょう。)
目的を変えると自然と言い回しや、動きや、わき上がる感情に変化があるはずです。
≪参考文献≫
・”Best Contemporary Monologues for Men 18-35” 出版社 : Applause (2000/1/1) 著, 編集:Daniel Guyton
また自分の大好きな映画や舞台の登場人物の目的が何であるのか考えるのも、役を理解するうえでとてもいい訓練です。
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https://www.michael-chekhov-tokyo.com/
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