連載小説『モンパイ』 #2(全10話)
寝巻きのスウェットを脱ぎ、白いYシャツを着てネクタイを締める。
今は五月中旬なのでクールビズ期間に入っているが、モンパイとの決戦の日だけはネクタイ着用が義務付けられている。
ネクタイをすると首が締め付けられて窮屈に感じる、と不平を漏らす人もいるが、全員と同じ身なりであることを強制される、同調圧力の権化とも言うべき「スーツ」というファッション形態において、遊びを楽しめるポイントはネクタイくらいなので、僕は嫌いじゃない。
今日は濃いブルーのストライプだ。
先輩と一緒なので派手すぎる色は避けたいし、集合体恐怖症のきらいがあるので水玉模様は好みでない。
難儀なものだと思う。
百八十度に温めたヘアアイロンで前髪を整え、全体的にウェーブをつけてから、ワックスを髪全体になじませてセットしていく。
トップにボリュームをもたせ、前髪は指先で毛先の流れを整える。
今日は前髪が言うことを聞いてくれるので調子が良い。
いつもこれくらい素直でいてくれると良いのだが。
最後にヘアスプレーを全体に振りかけて固めれば完成だ。
これをしないと、電車がホームに入ってくる時の突風で台無しになってしまう。
あいつはなかなか手ごわい。
モンパイの右腕ではないだろうか。
歯を磨き終わる。
六時五十五分。
ちょうど良い時間だ。
荷物を持ち、革靴の紐をギュッと締めて、家から徒歩三分の最寄り駅へと向かう。
天気が良くて風が涼しい。
眠い。
それでいて爽やかな朝。
七時ちょうど発の電車に乗る。
乗車時間は十五分間。
座席に腰掛け、先輩に「おはようございます! 時間通りに到着予定です」とLINEでメッセージを送る。
ついでに太陽マークのスタンプも送信しておく。
文面は固過ぎてもラフ過ぎてもいけない。
SNS上のやり取りでは、対面のやり取り以上に相手との距離感を注意しなければならないので、余計に気を遣う。
返信が来たらすぐに反応できるよう、しばらくトーク画面を開いたままにしていたが、一向に既読がつかないので、一旦閉じてウェブアンケートの回答を始める。
乗車中、本を読んだり動画を視聴したりしても良いのだが、十五分間しかないと読書は没頭し始めたタイミングで到着してしまうし、動画はやたらと通信量を消費するので、よろしくない。
その点、ウェブアンケートは一件につき一分もかからないし、しかも回答すればポイントが付与されるのだから都合が良い。
たまに質問項目が膨大で苛々することもあるけれど、それもまた一興。