『妖怪シェアハウス』で見せた小芝風花さんの成長
妖怪シェアハウス
2020年9月19日に最終回、いや最終怪を迎えた『妖怪シェアハウス』は、シェアハウスで生活する松本まりかさん演じるお岩さん、池谷のぶえさん演じる座敷童子、毎熊克哉さん演じる酒呑童子、大倉孝二さん演じるぬらりひょんのレギュラー陣にバラエティ豊かなゲストも加えた妖怪たちが次々と登場し、その生い立ちを宇治茶さんが作画・撮影のすべてを一人でこなしたゲキメーションによってテンポよく描き、悪い人間を懲らしめながら、時にはシェアハウスがクラブに様変わりしたりガングロメイクでパラパラを踊るなど予想できない展開で最後まで視聴者を楽しませてくれた。コロナ禍の夏、最高のエンターテイメント作品を届けてくれたキャストとスタッフに惜しみない賛辞を送りたい。
一人の女性の成長物語
このドラマは、現代に溶け込んだ妖怪たちがシェアハウスで暮らしているという荒唐無稽な設定のホラーコメディであり、そこに転がり込んだ主人公の目黒澪という女性の成長物語でもあった。
自分に自信がなく空気を読んでばかりいた澪が結婚を考えていた相手は実はクズ男。そんな男に騙され捨てられ、親友が結婚詐欺師に騙されかけるなど様々な出来事を通じて徐々に妖怪化が進む澪。それを食い止めるには結婚するしかなく、プロポーズしてくれた水岡譲と原島響人のどちらかを選ぶしかない流れで迎えた最終怪。妖怪のラスボスとも言える天狗大王のお札の能力によりパラレルワールドで水岡譲と原島響人との結婚生活をそれぞれ実体験した澪が選んだのは、妖怪たちですら予想しなかった「妖怪になり、空気を読まない人生を貫く」という大胆な第三の道だった。
このドラマは最初から「結婚」という価値観が散りばめられ、最終怪の中盤まで四谷伊和が「澪、女の幸せが大切なんじゃ?」と問いかけ、和良部詩子が「どっちにする? そのために2つの道を見てきたのよ」と結婚相手の選択を迫り、視聴者は知らず知らずのうちに「結婚」という枠にはまった見方をしてきた。その予想が見事に裏切られた形だが、気持ちがいい裏切りだった。想像を超えながらも、これほど爽やかな気持ちになる結末は滅多にない。
特筆すべきは「誰と結婚するのか」という流れを最終怪の終盤という土壇場で「結婚しない」にひっくり返した展開に違和感を覚えないドラマの作りだ。澪が予期せぬ出来事を経験し成長してきた流れに加え、楽しいこともあるが今までのように自分を押し殺さなければならないこともある結婚生活を、妖怪が登場する設定を活かしたパラレルワールドの実体験として描き「結婚しない」という選択に説得力を持たせることに成功している。ストーリーをうまく着地させなければならない最終回は言うまでもなく難しい。それまで好評だったドラマが最終回で評判を落としたことも少なくない中、近年稀に見る素晴らしいフィナーレだった。
高評価によるジレンマ
小芝風花さんの民放連ドラ初主演作品として、振り回され型の主人公を幅広い困り顔で演じ好評を博した『妖怪シェアハウス』。『美食探偵 明智五郎』に続く民放連ドラ出演によって知名度が上がった一方、コメディエンヌとしての評価もさらに高まったことでジレンマを抱えることになった。
コメディエンヌとして高評価を得たということは、とりもなおさず演技力の高さが認められたということであり、コミカルな役のキャスティングで名前が挙がることが今まで以上に多くなるだろう。役者さんにとって喜ばしいことであり、自身もインタビューで次のように語っている。
「コメディー作品で振り回されるような役を面白いと思ってもらい、またこういう作品に起用される。それが一つの個性となると思うとすごくうれしい」
だが、代表作と言える『トクサツガガガ』やヒロインを演じた『美食探偵 明智五郎』、そして今回の『妖怪シェアハウス』でコミカルな役が多い印象が強くなっており、これについては次のように不安を吐露している。
「似たような役柄が続くと、その役の中でその役らしさを出していくのが難しくなっていくし、何をやっても同じように見られるのはすごく嫌です」
「見てくださる方には『同じような役が続いている』という印象になってしまう」ことを不安視していて、「その役にはその役の個性があると思って、『全然役は違うんだけどな』って毎回葛藤していますね。もっと自分が力をつけないといけないなというのはあるんですけど……」
特定の色がつくことに難色を示す役者さんは少なくない。特定の役柄でキャスティングされやすくなるのは、出演作が増えるメリットと他の役柄でキャスティングされにくくなるというデメリットを併せ持つ諸刃の剣と言える。役者さんの見た目の印象と演技の幅から特定の役柄に偏るのであればやむを得ない面もあるが、小芝風花さんのように演技力がある役者さんは葛藤することになる。
枠になんてはまってたまるか!
小芝風花さんは自身について、こう分析している。
「自分のビジュアルや性格がすごく普通で、それが一種のコンプレックスでした」
芸能人の範疇では「普通」は個性がなく弱みになるかもしれない。だが、役者の範疇では演技力次第で何者にもなれる「普通」は強みになる。だからこそ、特定の役柄でキャスティングされる傾向に葛藤する。懸賞の小説を書きながら澪が心の声で叫んでいた「枠になんてはまってたまるか!」は、小芝風花さん自身の心の声のようにも聞こえた言葉だった。
今後演じたい役柄について、小芝風花さんは次のように語っている。
「コメディー作品も大好きですが、ずっとそれでいきたいかと言われるとそうではなく、シリアスな社会派作品や、ちょっと猟奇的な役も演じたいし、悪い役も演じてみたいし。いろいろな作品や役柄、ドラマだけでなく映画や舞台にも携われたらうれしいです」
ますます磨きがかかった演技力を今まで演じたことがない役で解放する機会を小芝風花さんは待ち望んでいる。あとは、過去に演じた役柄という枠にとらわれないキャスティングができる人がいるかどうかだ。
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