見出し画像

小芝風花さんはアスリート魂を感じさせる女優さんである。

現在日本テレビ系列で放送中のドラマ「美食探偵 明智五郎」に小林苺役で出演している小芝風花さんは、アスリート魂を感じさせる女優さんである。
優れた身体能力を駆使して本番で最高のパフォーマンスを発揮する人をアスリートとするなら、小芝さんは卓越した表情、声、感情表現を駆使して最高の演技を見せてくれるアスリートと言える。

表情の演技

シリアスからコミカルまで幅広くこなす女優さんは少なくないが、多彩な表情によって役柄をより生き生きと魅力的に見せる小芝さんの演技は他の女優さんと一線を画す。

それが顕著に現れたのが「美食探偵 明智五郎」第6話だ。お見合いに遅刻した六郎の代役として男装で参加する羽目になり、さらに明智五郎からボイスパーカッションを無茶ぶりされた時の表情の演技は、話題となった小芝さんの連続ドラマ初主演作品「トクサツガガガ」を彷彿とさせるコメディエンヌぶりだった。

コミカルな演技というと単に騒がしいだけの表現になってしまう女優さんもいるが、小芝さんは猫の目のようにくるくると変わりながらも雑な印象が全くない完璧な表情のコントロール能力を発揮している。

その多彩な表情の演技は、無論コミカルな場面にとどまらない。大混乱のうちに終わったお見合い後に、明智五郎の母を演じる財前直見さんとの会話で見せたコミカルさを残しながらも明智五郎への想いが滲み出る表情を経て、
マリアを演じる小池栄子さんと対峙する場面で見せた緊迫したシリアスな表情まで、幅広い場面で妥協のない表情の演技を見せている。

炎の中から明智五郎を助け出したマリアに「愛する人の命よりも 自分の命のほうが大切。そんなのよくある話だから。今のあなたのように」と言われ、悔しさがこみ上げ顔が歪みそうになるも足がすくんで動けなかった事実に何も言い返すことができない場面では、台詞がなくてもその表情が苺の心情を雄弁に語っていた。

表情を注視していなかった人は小芝さんの表情に注目してぜひ見直してほしい。こんなに多彩な表情をしていたのかと驚くはずだ。

声の演技

小芝さんの演技をより魅力的にしているのが、多彩な表情の演技に負けず劣らず幅広いトーンをカバーする声であり、シリアスなシーンをより緊迫したものに、コミカルなシーンをより面白いものに昇華させている。

聞き取りやすいその声は聞き手に伝わる発声がしっかり出来ていて、NHKを中心に多くの語りを担当していることも頷ける。

発声のコントロール能力も非常に優れていて、NHKのドラマ「パラレル東京」で演じたアナウンサー役では、NHKで実際のアナウンサー研修を受けた結果「そのままアナウンサーとして通用するほど」とプロデューサーに言わしめたほどの見事なアナウンスを披露した。

このように演技に必要なスキルを本職と遜色ないレベルまで習得し、出演作品ごとに演技の幅を広げていく姿は、技術力と表現力を磨き続け試合のたびに進化した姿を見せるフィギュアスケートの選手を彷彿とさせる。

小芝さんは、小学3年生から中学2年までの5年間フィギュアスケートに打ち込んでいた時代がある。恐らくこの頃に演技の完成形をイメージし、必要な技術と表現を習得し、努力を積み重ねてイメージを現実のものにするプロセスを身につけたのだろう。これは期せずして女優として演技力を高める素養を身につけていたことになる。

感情表現の演技

表情や声などの技術がいくら優れていても視聴者の心に響かなければいい演技とは言えないが、「美食探偵 明智五郎」第6話を観た人ならラストシーンの演技に心が震えた人も多くいただろう。

探偵事務所前の中庭テラスで撮影する予定だったラストは「新型コロナウイルス」の感染拡大に伴う撮影中断によって撮影が叶わず、当初の予定にこだわっていれば第5話で中断していたはずだった。黒幕バックで朗読劇にしてでもというプロデューサーの思いに対する、折角なら朗読ではなく芝居で届けたいという中村倫也さんの提案も素晴らしいが、これは演技力が高い小芝さんが苺を演じているからこそ成立した提案だった。

感染対策として密を避けるため2人の距離がとられ、黒バックを背景にした演劇のようなラストは、明智五郎と小林苺の心の距離を表した心象風景のようでもあり、苺が心情を吐露する2分半に及ぶ迫真の演技は多くの視聴者が固唾を呑んで見守ったはずだ。

泣けるシーンでは一般的にそこに至るストーリー展開や音楽など総合的な演出によって感情が高ぶり泣けてしまうものだが、このラストは黒幕バックに椅子とテーブル、音楽はピアノ演奏のみという非常にシンプルで、ほぼ演技だけに等しいにもかかわらず泣けてしまう。このシーンは何回観たかわからないが何度観ても泣けてしまうのは、小芝さんの演技が視聴者を共感させ引き込む力を持っているからに他ならない。

『「新型コロナウイルス」の感染拡大を受け、このような形で放送させていただきました。』というテロップがなくても成立していたラストシーンは、このテロップを出すなら2人の姿がフェードアウトした後にすべきだったと感じたぐらいの完成度だった。

第6話の最後のピースは最高の演技によって埋まり、当初の予定以上にこのドラマの評価を上げる歴史に残る名場面になった。

さいごに

ドラマ「美食探偵 明智五郎」は大きな展開を見せた第6話で一旦通常回の放送が中断し、第7話は放送延期になった。再開が待ち遠しいが苺の深い悲しみを癒すには時間が必要だ。再開の目処が立つまでは特別編を観て、苺の心が少しでも癒されることを祈りながら待つことにしよう。

出演作を重ねるごとに進化する小芝風花さんへの賞賛と敬意を込めて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?