カンニングをしようとした話
これは私が中学生の頃。私は社会や実技科目が苦手で、定期テストを乗り越えようと、カンニングをしようとしたことがある。
今のようにネット環境も無く、コピー機なんかもありふれてはいなかった。その為、カンニングの手段として思い至ったのは、カンニングペーパーを作ることだった。カンニングペーパーも、そんなに大きいものは仕込めないだろう。そこで、私は消しゴムのカバーと消しゴムとの間にカンニングペーパーを差し込むことを思い付いた。そんな小さな紙にはたくさんは書き込めない。私は要点をまとめて、読むことが可能で、私自身にも書くことが可能なギリギリの文字サイズで紙に書き込む。そうやって、小一時間掛けてカンニングペーパー作りを行った。
そして迎えたテスト当日。カンニングペーパーを使う所を先生に見付からないだろうか、と不安になっていたが、いざテストに挑んではたと気付く。カンニングペーパーを作るためにまとめ、書き込んだ。そのことによってテストの答えがスラスラと出てくるようになっていた。結果、仕込んだカンニングペーパーは使わずに終わった。
そしてテストが返され、先生が説明をする。
「今回、間違いが多かったので、この問題はこの答えでも正解にしました。」
器械運動で、技の名前を答える問題だ。立った状態から側方にぐるっと回転してまた立った状態に戻るあの技。「側転」という誤答があまりにも多く、これも正解にしたらしい。「側転」は、膝を抱えて座った状態で横にごろんと転がって座った状態に戻る技のことをいうらしい。前転の横版という訳だ。
私が書いていた答えは「側方倒立回転」。本来想定されていた正解だった。
カンニングペーパー作りという目的でだが、書いてまとめたことによって覚え、更にエピソードまでついて深く記憶されることになった「側方倒立回転」。人生、何が役に立つか本当に分からないものだ。
この話を読んで、カンニングペーパーを作ろうと思った人は居ないだろうが、もし居るとしたら縮小コピーなどに頼らず、手書きで作ってみるといい。作る過程で覚えてしまい、そのカンニングペーパーの出番は来ないことだろう。結局、地道な努力が一番の近道なのだ。